15章 ラムダス
屋根裏部屋でセーラとローラは、代わりばんこで夕焼けを見ていました。西の空に連なる赤や金色の雲に、まばゆい輝きにふちどられた紫の雲。風が強い日は、ほんのりとピンクに染まった小さな雲がいっせいによこぎる青空を見られ、ピンクの鳩の群れが大移動しているようにも見えます。
空で夕焼けが見られる瞬間になったと気づくと、セーラとローラはチャンスを見つけてこっそり台所を抜け出し、屋根裏部屋へと続く階段を駆け上がりました。1人ずつ古いテーブルの上に乗って、頭と体を窓の外に出し、大きく深呼吸をします。その後、辺りを見回します。上を見ると、青い丸天井のような空がすぐ近くにあるように感じます。
西の空を見ると、あちこちで雲の形が変わったり、ゆらゆらとゆれていたり、動かないと思うと、ピンクにオレンジ、白に紫、淡いグレーのような青と色が分かれ、青い海に島々が浮かび、トルコ石や琥珀、翡翠のような色の湖を山並みが取り巻く美しい光景ができあがります。
セーラとローラはこの光景以上に美しいものを知らず、屋根の上のスズメたちもその美しさに感動をしているのか、ささやくようにさえずっていました。
新学期になってしばらく経った、1月のある日のことでした。台所の仕事は午後早くに終わっていたので、楽に屋根裏部屋に上がることができました。
ローラが先にテーブルの上に立って窓の外に顔を出すと、黄金を混ぜたかのような光が覆う西の空がありました。家々の屋根を飛ぶスズメは、濃い黄色の光を受けて、影絵のように見えます。
何か起こりそうだなと思ったとき、物音が聞こえてきました。キーキーと生き物の鳴き声が、近くの屋根裏部屋の窓から聞こえます。ローラと同じように、夕焼けを見に誰かがそこまで上がって来たようです。褐色の肌をしたその青年は口元に黒いマスクをしており、アクセントの紫が鮮やかな黒いストリート系ファッションをしていました。インドを思い出して太陽を見に上がったこの青年はインド人だとローラにはわかりました。そしてあの鳴き声は、彼の腕に抱かれた小さなサルのものでした。
ローラはこの青年に窓越しにほほえみました。マスクをしていたので口元は見えませんでしたが、その人物もたしかにほほえみ返してくれました。
おじぎをしたときにサルが逃げてしまいました。屋根の上を走って行き、ローラのいる屋根裏部屋に入っていきました。
「セーラ、その子をつかまえて!」
ローラに呼びかけに応じ、セーラはいたずらっ子なこのサルをつかまえました。そして、インドの言葉で話しかけました。
「サルは双子の姉がつかまえました。返しに行きましょうか?」
自分の国の言葉を聞いたとたん、この褐色の青年は驚きました。そして、嬉しそうにこう言いました。
「俺はラムダス。サスケをつかまえていただいて、かたじけない。サスケは人には噛みつかないが、イナズマのような速さで逃げるから、つかまえるのは難しいんだ。さしつかえなければ、部屋に入っても良いだろうか?」
それを聞いて、ローラはセーラに相談しました。
「ラムダスさんがサスケというこのサルをつかまえるために、入ってもいいかしら?」
「もちろんよ。こちらに来てもらいましょう。」
セーラがそう言ったので、ローラはラムダスを部屋に招きました。ラムダスは忍者なので、身軽に窓から窓に移動することができました(※危険ですので、よいこはまねしないでください。)。音を立てずにセーラとローラの部屋に下りられたのも、忍者だからでした。ラムダスは用心のために窓を閉めてから、サスケをつかまえました。
「かたじけない。サスケがいなくなったら、きっと主はがっかりしただろう。主はサスケと遊ぶのが楽しみなんだ。では、失礼。」
ラムダスはセーラとローラに紳士的な態度で接しました。ラムダスが帰った後、セーラとローラはインドにいた頃のことを話していました。
「インドにいた時は、たくさんの使用人たちがわたしたちに頭を下げてくれたし、やりたいことは何でもさせてくれたわね。」
「ラムダスさんにまた会えるかしら?」
「きっと会えるわ。」
ラムダスの主である紳士はその晩、月を眺めていました。この紳士の本当の名前は、トム・クリスフォードと言いました。
「主、今日サスケをつかまえてくれた双子の少女たちは酷い部屋に住んでいましたが、彼女たち自身は姫君のようなふるまいでした。」
「そうか…。」
クリスフォードさんはそれだけ言うと、ひとりごとを言いました。
「アラン、エリオット、ラルフにはたしか双子の娘がいたな。もしかすると、彼女たちかもしれない。」
アラン・ヴィンセントとエリオット・アンカーソンは、ダイヤモンド鉱山で起きた事故で重傷を負っていました。クリスフォードさんは比較的軽いけがですんだので、代表としてロンドンに来たのでした。
ある日曜日の午後、カーマイケル弁護士は家族を連れてクリスフォードさんのお屋敷を訪ねていました。そこには、ジャネットの姿もありました。
「クリスフォードの旦那、パリのシエル歌劇学校に問い合わせたんですが、『クルー』という名の生徒は在籍していなかったんですよ。」
「ラルフの奥さんはエトワール歌劇団の歌姫だったから、彼女たちも歌劇団の歌姫を目指していると思ったんだが…。」
落ち込むクリスフォードさんを励まそうと、カーマイケル弁護士は明るい声で言いました。
「そう意気消沈しないでくださいよ。近くの寄宿学校に娘のジャネットをスパイとして送ったんです。多額の寄付をします、と言ったらプラチナ生として扱ってくれたので、何か手がかりを得られるかもしれませんよ。」
カーマイケル弁護士が陽気にこう言ったとき、ジャネットが部屋に入ってきました。
「パパ、おじ様、ミンチン学院に双子のお姉様がメイドとして働いているみたいです。」
「でかしたぞ、ジャネット!」
カーマイケル弁護士がジャネットをほめ、頭を撫でるので、クリスフォードさんは安心してため息をつきました。




