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11章 夢物語

 それから1時間後、セーラとローラがミンチン先生のもとにやってきました。その(ころ)には、誕生日(たんじょうび)パーティーは(ゆめ)か、何年も前の出来事か、あるいは全くの別な(だれ)かのパーティーだったのかと、セーラとローラには他人事(ひとごと)のように思えていました。

 大広間もヒイラギの(かざ)りは外され、元通りになっていました。ミンチン先生もいつもの服装(ふくそう)(もど)っていました。生徒たちもパーティー用のドレスやタキシードから制服に着替えるよう言われていました。集会があるため、今では講堂(こうどう)に生徒たちが集まっていましたが、ニコルはそこにはいませんでした。


 ニコルはセーラとローラを夢中(むちゅう)で追いかけ、部屋の前まで来ていました。

「セーラ!ローラ!いるんだろう?開けてくれ!」

 (とびら)(たた)きながら必死に問いかけるニコルは感情的になっており、普段(ふだん)の冷静さはどこにもありません。

「パパが死んだ!パパが死んだ!」

 セーラとローラは心の中で何度も(さけ)びましたので、ニコルが部屋の前にいることすら気づきませんでした。

 一方のニコルも、他のプラチナ生が着替えるために(りょう)に戻ってきても気づいていませんでした。

「ニコルくん!生徒の模範(もはん)であるべき白薔薇(しろばら)のあなたが、なぜここにいるのです!あなたも早く戻って、着替えなさい!」

 ミンチン先生に(おこ)られたニコルは自分の部屋に走っていきました。そこで、セーラとローラはニコルが心配してくれていたことにはじめて気づきました。ミンチン先生が部屋の前で言いました。

「セーラ、ローラ、ドレスから手ごろな黒い服に着替えて院長室に来なさい。」

 ミンチン先生が去った後、セーラはローラに言いました。

「わたしたちは身内がもうお(たが)いだけになってしまったのよ。これからは生きるために、助け合いましょう。」


 セーラとローラはお(そろ)いの黒いワンピースに着替え、院長室に行きました。その時のセーラとローラは飾り立てられた大広間で、空色とバラ色の(ちょう)のようにプレゼントからプレゼントへ飛び回っていた少女たちには見えませんでした。セーラはバニーユを、ローラはフレーズを()きかかえていました。

「まぁ、あきれた。ぬいぐるみなんて持って来てどういうつもりです?」

 ミンチン先生の問いにセーラは答えました。

「この子たちは、わたしたちが持っているすべてのものです。パパがくれたものなので。」

 セーラの口調は()ややかでしたがしっかりしていたので、ミンチン先生は反論しづらかったのです。

「これからはぬいぐるみと遊ぶような時間はありませんよ。お前たちは働いて、仕事を覚えて、役に立ってもらわなばなりませんからね。」

 ミンチン先生はそう言うと、講堂にセーラとローラを連れて行きました。講堂ではすでに、生徒たちが集まっていました。ミンチン生成は(おごそ)かに言いました。

「セーラ・クルーとローラ・クルーの姉妹はこの学院で引き取ることにしました。ただし、学院の生徒ではなく使用人としてです。」


 集会が終わった後、セーラとローラがプラチナ寮に戻ったときに、アメリア先生がドアから出てきました。実は、アメリア先生は姉に命じられたことをするのが後ろめたいと思っていました。

「もうあなたたちの部屋じゃないから、入ってはいけなくなったのよ。あなたたちは、屋根裏部屋にあるベッキーのとなりの部屋で()ることになったのよ。」

 セーラとローラは、屋根裏部屋についてはベッキーから聞いていて知っていました。屋根裏部屋へと続く階段はせまくなっています。

 屋根裏部屋の扉を開けた途端(とたん)、もの悲しげに心臓(しんぞう)がドクンとなりました。扉を閉めて部屋の中を見渡します。

 たしかにそこは別の世界でした。漆喰(しっくい)(かべ)はところどころはげ落ちて、色あせたかけぶとんがかけられたベッドがありました。置いてあるいくつかの家具も、下の階ではもう使えなくなったよな(いた)んだものでした。

 セーラとローラはそれぞれベッドに座りました。

「どんなにみじめでも心はプリンセスのように気高く、セーラが言っていたことよ。」

 ローラがセーラを元気づけようと言いました。セーラはうなずきましたが、バニーユを抱きかかえたまま何も言いませんでした。


 ニコルはミンチン先生に怒られた後は部屋に(かぎ)をかけて閉じこもっていました。ニコルにとってもクルー大尉(たいい)の死はショッキングな出来事でした。物事をうまく考えられずに、タキシードを着たままベッドに横たわっていました。

 ニコル以外のプラチナ生は集会の後、談話室に集まっていました。

「ニコルはセーラとローラの部屋の前で散々(さわ)いでたよな。あんなに取り(みだ)してたニコルははじめて見たぜ。」

 ケントはニコルについて話しました。あんなに感情的になったニコルを見たことが今までなかったからです。

「誰にも会いたくないみたい。というか、パーティーが途中(とちゅう)で中止になるなんて前代未聞(ぜんだいみもん)。」

 ガートルードはニコルの心境(しんきょう)(さっ)して、ため息をつきました。

「セーラさんとローラさんは言うまでもないけど、ニコルさんにとってもショックやったとちゃいます?友達のお父さんが亡くなりはったんやからね。今日、ニコルさんは部屋から出ないと思いますよ。」

 サクラはそう言って、集まっているラビニアたち3年生のグループをちらと見ます。

「セーラとローラはお父さんが死んで、一文無しになったんでしょ?今回の集会、ニコルは出なくてよかったかも。」

 ピーターは冷静に集会で何を言われたか思い出すと、ラビニアが言いました。

「ニコルがもしあの集会の場にいたら、騒いでいたかもしれないわよ。白薔薇である以前に、この学院の生徒として品性が問われていたわ。」

「確かにそうだね。今の(かれ)なら、やりかねなかったな。」

 ジェシーがラビニアの言っていることにうなずきました。

(ぼく)はこれで、失礼するよ。」

 今まで聞き手に回っていたクラウスでしたが、そう言って立ち上がりました。ニヤリと笑いながらドアノブに手を回して、そのまま談話室を出たクラウスは自分の部屋に戻りました。


 部屋に入った途端、笑いが(おさ)えられなくなったクラウスは叫びました。

「ハハ、ハハハ…ここでニコルがヘマをすれば、白薔薇の地位は僕のものだ!」

 そう言い終わると同時に、クラウスは高らかな笑い声をあげました。クラウスにとってニコルは、自分が白薔薇になるのに邪魔(じゃま)な存在だったのです。

 セーラとローラがいる屋根裏部屋の扉を叩く音がしました。ベッキーです。ベッキーはあの後何時間も泣いていたので、目が真っ赤にはれていました。

「セーラ様、ローラ様、入っていいッスか?」

 ベッキーを見て安心したのか、セーラはしくしく泣きだしました。

「ベッキー、わたしたちは同じ女の子だって言ったでしょ。わたしたちはもうプリンセスじゃなくなったの。」

 ベッキーはセーラとローラを抱きしめて言いました。

「そんなことないッスよ!お2人は、何があってもアタシにとってはプリンセスなんスよ!」

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