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透明マジョA  作者: ねこのかぎしっぽ
恋乞いの手紙
8/14

7

日が傾き始めて足元が暗く見え難くなって来た頃、アリスとグルミンは漸く湖にたどり着いた。

ぷかぷかと浮かぶ氷で出来た花を見たアリスは目を輝かせた。


「氷蓮!やった、アタリです!」


氷蜜蜂の棲家となっている湖には必ず氷蓮が出来る、教科書に書かれていたその一文だけを頼りにしていたアリスは、疲労で重たい足で飛び跳ねて喜ぶ。


背負っていた大きなバッグを下ろし徐に服を脱ぎ出したアリスは、下着を含めあっという間に脱ぎ去り綺麗に折りたたんでバッグのとなりへと並べる。そのあまりに迷いのない、女性としてのモラルが欠如した行動にグルミンは絶句した。


「あ、アリスさん………!?ちょっと何して………」


「え?だから潜って採ってくるって言ったじゃないですか」


「いや、そうかもだけどそこじゃなくて。せめて水着とか………」



「あの、水浴びに来たんじゃ無いんですよ?私が今からする事は、氷蜜蜂の大切なお家を無理矢理奪う事です。彼らは野蛮な私からお家を守る為に闘うでしょう?しかし私は水中では泳ぐことしか出来ません。幸い私は目に見えないですし、応戦出来ない以上成功率を上げる為には羞恥心を捨て去るしか無いわけですよ。分かりますか?」


今までになく淡々とした声で息継ぎをする事無くアリスは捲し立てた。誰の目にも映ることは無いが、もし彼女が透明で無ければ顔は夕焼け以上に真っ赤であった事だろう。


グルミンは声の聞こえる方へ、その責める声を宥めるように何度も何度も頷いた。



アリスはバッグから小瓶を取り出すと、中に入っている紫と青のグラデーションが美しい液体を呷った。見た目に反して地べたに生えた雑草をすり潰したような苦味に眉を顰めるが、それをおくびにも出さずにアリスは湖に足をつける。


「では行って参ります。あ、30分程度で上がってこれなければ多分ダメだと思うので、私のことは死んだと判断してそのままお帰り下さいねー。二次災害三次災害になるので、捜索はナシで!」


「ちょっと、何を不吉な事を………」


水中でゆらゆらと動かす自分の足があるであろう場所を眺めながら、アリスは務めて明るく笑った。光の屈折も作用せず水と見分けのつかない自分を、底の深さも分からない湖から探して引き上げるのは容易ではないと、アリスは理解していた。


そして死ぬつもりは無いが万が一があった時、最終的にグルミンのような辛気臭い男と心中しましたなんて結末は絶対に避けたかった。


ざぷん、という音と波紋を残して、アリスは光の消えた水底へと沈んでいった。

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