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三通の手紙

ハスバに戻るなり俺とカエラの姿を見た騎士たちが目を剥く。特殊急襲部隊の隊服は全身黒ということもあり見難くはあるものの夥しい返り血の量を見ればそれも普通の反応かもしれないが、どちらかと言えば新任騎士がその状態で平然と帰ってきたことに驚いているのだろう。

むしろ同期のほうが驚きすらしていないのだから俺の悪名も周知されているということだ。

騎士の集まる中を堂々と歩きドルセン大隊長に報告をするべきかと悩んでいると彼は別働隊の指揮にいっていると報告を受け、言伝を頼んで湯殿に向かい身を清めてから部屋に戻る。


「さて、色々と片付けるか」


そう告げたカエラの懐からバラバラと魔石が取り出され、机の上には色とりどりの魔石が乱雑に置かれる。

これはピグロッグの兵が持っていたものだ。遺体や落ちていたものの中からグレードの高いものだけを抜き取り持ち帰ったことはリアン隊長にさえ言っていない。

昨日受け取った鞄の中から資料を取り、近年で取引された高グレードの魔石と照らし合わせていくと半数以上が主教個人に贈られたものだということが解った。


「教会が黒か……」

「いや、教会もだな」


俺がそう言うとカエラは俺の持っていた資料を覗き溜息を吐く。

そこには国王から王妃に贈られた宝飾品の詳細が記載されていたのだが、その宝飾品に使われていた魔石の多くが今机の上に転がっている。

もし王妃から教会に贈呈ないし譲渡されているのならその旨も記載されていなければならないがそういった記載はなく書かれているのは王妃の手に渡ったというところまでだ。

これは王妃が秘密裏に何者かに魔石を譲り渡したという証拠になる。

教会に渡しているのならその後の行方がどうであろうと書いても問題なかったはず。だとすれば運搬役をしていたショモナーに直接送っていたということだ。


「国王は知ってると思うか?」

「知らないだろうな。もし知っていれば俺たちに知られる前に何らかの方法で証拠を消していたはずだ」

「あ~、王妃は何だって密輸なんかに手を貸してるんだよ」

「さあ?そもそも俺たちにとっては理由なんてどうでもいいしな。どんな理由があったにせよ密輸に手を貸している時点で廃妃されるし、叛逆行為として極刑に処されるだろ」

「良くて幽閉か」

「国王が王妃を廃妃にしないのであれば国王自身の退位も求められるだろうな」

「めんどくせぇな~。国王が退位したら俺たちの褒賞はどうなんだって話になるだろ」

「渡されると思うぞ?王位が空席になることはないだろうし、王妃の子が王位に就くこともなくなる。そうなるとサノス公爵家から選ばれるはずだ」

「……公爵が王位に就くってことか?」

「現実的なのは未だ未婚で婚約者も決まっていないキエナかエルゴだろうな」


カエラの問に答えながら、ふとキエナの立ち振舞に違和感のようなものを感じた。

双子共に王位の継承は求めていなかったはずだがエルゴに比べてキエナからの直接的な指示が多いのだ。推測の域を出ないが、もしかしたら国王は王妃の行動に何らかの不安や不満を感じていてキエナに王位を譲渡することを考えているのかも知れない。

しかも、サノス公爵家やキエナ自身もそれを既に知っていて動いている可能性が高い。

立場的に騎士として直接指示を出すに相応しいからという理由の可能性もあるため決めつけられることではないが頭の片隅に置いておくくらいの必要はあるだろう。


そう二人で話しているとカエラが鞄を漁りだし、三通の手紙を取り出す。

サノス公爵家の封蝋が押されたもの、昔にフェイブルと共に作った封蝋が押されたもの、そして封蝋も飾りもない上に中身を見る気が失せるほど分厚い無地の封筒だ。

先に目を通すのはサノス公爵家からの手紙だ。

差出人の欄にはキエナの名前があり、この数ヶ月の間にあったことなどが書かれている。

一枚目の便箋には現在の状況について書かれていたのだが問題は二枚目の便箋にかかれていた内容だ。

無駄に長い謝罪文を目で追い、内容を理解するに従って眉間に皺が寄り無意識に舌打ちをするとその雰囲気を察したカエラが少しだけ遠ざかる。


「……フェイが怪我を負った?」

「ク、クロウ……落ち着け?な?」

「王子の失態で魔石のことを知った?」

「ほら、お前と結婚したら知ることだしな?先に知れてよかった的なさ?」

「そのせいで要注意人物として……監視対象に?」

「王子、どうして……」


怒りを抑えつけ次に目を通すのはフェイブルからの手紙だ。

最初は俺の無事を心配する内容だったが続いて書かれているのは王子の友人候補を招いた日の詳細だった。詳細とは言ってもキエナの手紙に書かれていたその日に負ったはずの怪我の有無やどういった経緯で負傷したのかなどは書かれておらず、友人候補がノミンシナの子である可能性が高いといったものが主だった。

最後に誕生日を祝う言葉と共にプレゼントを同封する旨も書かれており、幾分か怒りが和らいで封筒を逆さにすると嵩張らないようにと配慮された色紙に包まれたプレゼントが俺の手の平に転がる。


「……よ、よかったな!そうか、誕生日か!おめでとうな、クロウ!ってことは俺の誕生日もすぐだな!」


いつの間にか過ぎていた誕生日を思い出しての祝いというよりは俺を宥めるための祝いの言葉だろう。

ついでに自分の誕生日の話を持ち出したのは雰囲気を変えるためだったと思う。

フェイブルが贈ってくれたのは留め金の部分にエメラルドが嵌められたピアスだった。そのエメラルドは俺が付けている魔石と同等のグレードの魔石でもある。


『お父様に魔石について学んだの。だから、クロウの無事を願って緑の魔石にしてもらったわ。無事に帰ってきてね』


文字を眺めながら平常心を取り戻してピアスを付け替える。フェイブルの手紙には緑の魔石を使用することしか書かれていなかったが、さり気なく青の魔石も嵌められていることから、きっと魔石の発注を受けた父上か母上が戦闘時にも身につけられるようにと配慮してくれたのだろう。


きっと、ここで手紙を読む作業を終わらせておくべきだったんだと思う。

再び近付いてきたカエラと手に取った分厚い封筒から大量の便箋――いや、ほぼメモ紙といって遜色ない紙を取り出して目を滑らせる。

それらは傭兵団からの報告だった。ショモナーからの押収品の一部をカートイット邸からグィンネルの別邸に運び終えたことや、ランドルを含む数名がピグロッグに向かったこと、ショモナーが消えて以降ウラネスに目立ったような変化はないがユリーカがフェイブルと接点を持ったことから引き続き監視を続けるといったこと、また最近になって領主が消えたショモナー領の孤児院から数人の孤児の行方が分からなくなっているらしいといった旨が書かれていた。


「領主が消えて警備が緩んだところを狙われたか」

「カルデンが動いてるとか、ハオスワタが動いてるとか、そういったことは?」

「書かれてないな。ノミンシナがカルデンと逢瀬を繰り返していて、ロレンザに行った婚約者を早々に捨てるのではと噂されてるくらいらしい」

「流石身持ちの軽い女は違うな。まだ死んでないんだけどなぁ?」

「まあ、それはどうでもいいだろ」


再びメモ紙を捲り、隣から「うぇっ」と奇っ怪な声を上げてカエラが遠退いた。


『ちょっと!坊っちゃんがお嬢さんに贈ったネックレスだけど、どこぞの坊やに引きちぎられたそうよ!新しいネックレスを贈ったほうがいいんじゃない!?  アーバン』

『王子が戯れてきた時に首に怪我を負ったらしいわ。王子が手ずから手当をしてくれたと言っていたけれど、我が国の王子様は子供という立場を有効活用して未婚の淑女の肌に触れるだなんていう随分と小賢しい坊やなのねぇ?将来が楽しみだわ。  ジャンヌ』

『坊っちゃんの見送り当日に元上官だと名乗る痩身の男がお嬢さんに話しかけてきた。ジャンヌが擦り寄ったら消えたが、お嬢さんに手紙を催促していた。以上だ。  トーレ』


フェイブルの護衛として選ばれた三人からの報告に無言のままグシャッとメモ紙を握り潰し、扉をノックする音を掻き消すほどの音を立ててテーブルに叩きつけた。


「どうし……た……」

「あ……」


何事かと扉を開けたリアンとこういった状況に慣れたカエラが視線だけで会話を交わし「落ち着いたら話をしような……」と一言零して扉が閉じられる。


「クロウ、相手は分別のつかないガキだ。落ち着こう。な?」

「…………」

「痩身の男は……ホビロン卿、だよな?なんて命知らずな……」

「………………」

「次の贈り物はもっと頑丈なものにしよう!な!!」

「…………………………あのクソガ――んぐッ!」

「きっと腹が満たされれば苛立ちも落ち着くだろ!」


開いた口に軽食として持ってきていた食事を詰められ、それを噛み切って恨みがましくカエラに視線を向けると無駄に爽やかな笑顔を向けられた。


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