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ロレンザへ

ロレンザに向かう朝、普段より早く目が覚めてまだ夜が明けきらない空を眺めた。

王都からロレンザまでは約一ヶ月ほど移動に時間がかかる。それは団体での移動であるが故でもあり、一ヶ月もあれば状況は目まぐるしく変わるものだと不安が過る。

フェイブルの側には多くの信頼できる仲間がいるため、それほど心配しなくても大丈夫だと思っても不安が消えることはない。

人はこんな時に神に祈るのだろうかとフェイブルとの婚約の証が入った小箱に触れ、彼女の誕生日が近いことを思い出した。秋の終りが近い頃、彼女は俺より一足先に十六歳を迎える。

例年のように愛を伝えることはできないけれど何かを贈ろうと思い立って既に活動を開始しているであろうヴァンスを呼び、プレゼントの相談をする。

決まったのはパパラチアサファイアというピンクとオレンジの中間色をした宝石を使ったネックレスとピアスのセットだ。

普段遣いも出来るように魔石としての価値は重要視せず宝石は小ぶりで、デザインはあまり主張しないダリアを模した型のものにと発注書を作成する。

完成したらフェイブルの専従であるジーンに渡すようヴァンスに頼み、時間をかけて出立の準備に勤しむ中で両親が訪れ飾り気のないふたつの小さな袋を手渡される。


「クロウゼス、この中には最高級の魔石が多く入っている。主にピアスにしてあるのはお前が身に着けやすいようにだ。こっちはカエラの分になる。生き残るために必要なものだろう」

「必ず生きて帰るのよ」


ふたつの袋を隊服についたポケットにしまい、意志の強く宿る瞳を向ければ幾分か安堵した母上の顔が目に入る。両親が去るのと入れ違いに訪れた兄夫婦からは激励の言葉を貰い、最後にヴァンスから薄い箱を受け取った。


「今朝、ジーンさんが届けに来てくださりました」


それだけで中身がなんなのか分かり、カートイット邸の方向を見て囁きに近い声量で感謝を述べる。

きっと急な願いを叶えるために必死で縫ってくれたのだろう。それを大事に荷物の中に入れ、従者たちの見送りを受けて愛馬と共に城へと向かった。



出立式は騎士棟のひらけた訓練場で簡素に行われた。

本来、騎士とは本配属の発表後にある叙任式を経て騎士と名乗ることが許されるものである。叙任式では一人一人の名が呼ばれ、国王陛下に対して宣誓をしたのちに徽章を頂くのが慣わしだ。

今回その叙任式が省かれているということはロレンザで不測の事態が起きており、騎士の派遣が急務であるということに他ならない。

それを言われずとも理解している騎士たちの顔は険しいものだった。

騎士団長ホビロン侯爵の開会の言葉から始まり国王の激励に続いて、色々と省略された形で徽章が配られて終わった式典はそう長くはなく等間隔に並ぶ騎士たちの中に俺とカエラを見付けた国王はやはり伯父上らしく、信じているぞと翠眼が語り、二人で無言のまま頭を下げる。

各々が指定された馬車に荷積みし、補給隊や救護隊に配属された騎士が馭者や積荷番及び馬車の警護を務める。俺やカエラと共に特殊急襲部隊に配属された騎士は自分で用意した馬に乗り、隊の最前列と最後尾に配置されることになった。


騎士棟から出発した隊は敷地内を大きく回り城門から出て王都のメインストリートであるラスター通りを進み正門から出ていくのが既定のルートだ。

今回も変わらず同じルートを辿り、最後尾について誰の視線も受けなくなった隙にカエラに袋を渡す。中身についてはお守りだと言えば何が入っているのか察したようだった。

もう少しで正門に辿り着くかというところで視界を掠めた月白の髪が遠くで揺れ、心配そうに俺を見つめる桃色が一度伏せられて唇が『いってらっしゃい』と動く。


――いってきます。


祈るように手を組んだ彼女にだけわかるように応え、前を見据える。

これから先は少しでもミスをすれば命を落とす可能性が高い。かと言って常に気を張っていては疲労が蓄積され肝心なところで集中力が落ち、却って危険に陥ることになる。

何もそれは与えられた任務中のことだけではなく、これから一ヶ月も続く前線と呼ばれるロレンザ領の街までの道程にも言える。

山岳地帯の多いシャーレッツオ領には猛獣が多く存在し、輸送を担うマルチー領には野盗が出没するとの報告も多い。

叙任されたばかりの新米騎士、それも警備隊に仮配属されていた騎士が多い以上、連携に期待もできない。

近年ではカートイット伯爵の発案で始まった騎士団と私兵団や傭兵団との協同任務のおかげで貴族令息令嬢である騎士が庶民で構成された私兵や傭兵に横柄な態度を取ることが少なくなり、それによって騎士団が通る道を事前に警備してくれるようになった。

シャーレッツオ領では主に傭兵団がそれを担っており、今回もゴードンの指揮のもとで警備が行われているだろう。

おかげでロレンザに向かう道程での死傷者は減りつつあるが全く無いとは言えない。

おそらく俺が隊の中に居ることは知らされているだろうし、ゴードンのことだから連携しやすくするために接触を図ってくるだろう。

その時にでもランドルにピグロッグ入りを命じようかと思考していると、既に隊は正門を潜るところだった。

どんなに早くても二年は帰ってこれないであろう王都の光景を目に焼き付けて隊列に続き、平穏に慣れた民衆から見送られた。



出立当日の内にシャーレッツオ領に入り、山々に囲まれた最初の町で宿を取る。

ここはグィンネルという鉱山に囲まれた町で、俺が所有する別邸のある町だ。栄えてはいるが娯楽は少なく、長閑なのが特徴の町は多くの騎士や傭兵、私兵、マルチーの輸送隊が行き交うため宿や酒場などの施設は大きく設計されている。

何よりこの町で最も特徴とされるのは傭兵団の本拠を構えているという部分だが、それを知るのは俺と兄上と父上、そしてフェイブルだけだ。

そして、俺とフェイブルだけが俺の所有する別邸が傭兵団の根城であり訓練施設になっていることを知っている。

傭兵団の頭領であるゴードンと副頭領であるランドルが揃って宿に顔を出し、この隊を率いる上官騎士たちとどこまで警護にあたるかの話し合いが持たれた。

途中でランドルだけが領主の子息に挨拶をすると尤もらしい言い訳をして席を外し、俺とカエラのいる部屋を訪れる。


「今度は何の用だ?」


開口一番にそう聞いたということはヴァンスから俺に会いに行けとの指示があったということだ。

いつもの粗野な振る舞いのまま大股を開いて用意された木製の椅子に座り、次はどんな無茶を言い出すのかと期待を滲ませた顔を向けた。


「ランドル、傭兵団はピグロッグにも拠点を持っていたな?」

「あぁ、持ってるぜ?まあ、向こうのは傭兵団より商売人が主だけどな」

「お前がピグロッグに入ることは可能か?」

「できねぇことはねぇが……」

「俺とカエラは三ヶ月後にピグロッグに渡ることになっている。教会に関して下調べをしておいて欲しいんだが」

「俺らを使うってこたぁ、後ろ暗ぇ内容なんだろうなぁ?」

「その通りだ。それと俺たちとサノス公爵家との間で連絡を取れるようにしておきたい。お前たちならできるな?」

「あちらさんの眼を盗むくらい朝飯前だろうよ。なんせ国境警備ですらザルだ」

「こちらの傭兵団から数人を選抜し、ピグロッグ入りさせておいてくれ。諜報員もだ」

「お安い御用だぜ、坊っちゃん」

「それと既にフェイブルに付けている護衛は俺が戻るまで引き続きつけておくように。フェイブル対して害を及ぼすような動きがあった場合、何よりも優先してフェイブルを護って欲しいと伝えてくれ」

「おいおい、嬢ちゃんまで巻き込まれてんのか?」

「……あぁ。頼めるか?」

「そりゃあ、飼い主の大事な女なら俺らの飼い主も同然だからなぁ」


そう言って快諾するランドルをカエラが不思議そうに見つめる。

他人が聞けば馬鹿にされているような気にもなる言葉遣いを咎めることも俺とランドルの会話に口を挟むこともしなかったカエラが「お前の交友関係ってどうなってんの?幅広すぎね?」と零して、ランドルがどういう出会いをしたかを説明する。

カエラもその単純明快さが気に入ったようでカラカラと笑い、謎の友情が生まれたようだった。

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