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39.全裸で迎える大団円⑤


 吸血鬼ギャングのボス――月白冬馬。

 人狼ギャングのボス――伏影幻十郎。

 夢魔ギャングのボス――有楽院玲人。


 長らく顔を合わせていなかったであろう町の影の支配者が一堂に会して、同じテーブルについていた。

 話し合いの議題は抗争の平和的決着について。この争いをどのように収めるか、落としどころについてである。


「我々は一方的に攻め込まれた被害者だ。ゆえに補償を要求する。十分な補償がもらえないのであれば、武力行使も辞さないつもりだ」


「待ちなよ、そもそも、対立が始まったのは五年前にそっちの若い者がウチのシマを荒らしてからだろう? その責任はどうなるんだ?」


「我々の商売に口出ししなければ争うつもりはありませんが……蝙蝠や犬の下につくつもりはありませんので、そのつもりで」


 いがみ合う三者の意見は平行線。

 誰一人として譲ることはなく、今にもつかみ合いになりそうなほどお互いを睨みつけている。


「ゴホン」


「「「グ……」」」


 そのたびに僕が咳払いをすると、三人は渋々といったふうに黙り込む。

 いくらお互いが気に入らないといっても、僕がいる限り武力による戦いは許さない。

 そもそも、すでに彼らの拠点は一通り潰しており、戦闘員も病院送りにしている。抗争をしたくてもできるわけがなかった。


「仲の悪い勢力を和解させる……薩摩と長州をくっつけた坂本龍馬もこんな気持ちだったのかな?」


「坂本龍馬は婦女子にセクハラなどしない」


「徹底的に人の拠点を潰しておいて龍馬を気取ってんじゃねえよ。調子乗んな!」


「我々は脅されて交渉のテーブルについているのです。断じて、貴方に龍馬のような魅力やカリスマを感じてなどいません」


「うん、僕を責めるときばっかり仲良くならないでくれるかな?」


 というか、この人たち龍馬好き過ぎだろ。

 僕も好きだけどね!


「三人とも思うところがあるのはわかるよ。でも……良い大人なんだから、上手いこと妥協して落としどころを見つけてくれないかな?」


「簡単に言ってくれる。我らの対立は大天狗様が存命の頃より続いていて、容易に打ち解けられるものではないのだ」


「そうかな? アッチはすでに和解しているみたいだけど?」


「何……?」


 3人のギャングのボスが僕の示した方向に視線を向けると……少し離れた場所で、月城さんと伏影ナズナ、有楽院ツバキの3人が話をしていた。


「まったく……真雪の雇った男のせいでとんでもない目に遭ったぞ! 触手に身体をまさぐられて、お嫁にいけねえじゃねえか!」


「あれれー? ナズナさんってばお嫁にいくアテがあったんですかー? 良い人でもいらっしゃるんですかー?」


「うるせえ! 陽キャ気取ってる根暗のくせに煽ってんじゃねえよ! テメエだって恋人なんていないだろ!」


「私はいないんじゃなくて作らないんですー。必要ないだけですー」


「必要ないから、毎晩のようにエロ漫画で自分を慰めてるってか?」


「なあっ! どうしてそのことを知ってるんですかあ!?」


「まあまあ、2人とも落ち着いてください。ほら、お茶を淹れたから飲みましょう。お茶菓子もありますよ」


「あれ? これって真雪さんの手作りですか?」


「そうですよ、今日は上手くできたので是非とも味わってみてください」


「そういえば……真雪は和菓子作りが趣味だったよな。お前が作ったおはぎ、もう食べられないかと思ってた」


 先ほどまで裸に剥かれていた彼女達であったが、現在は月白さんが持ってきた服に着替えている。

 僕に剥かれて全裸を見せ合ったためか、3人はぎこちないながらも心を開いた様子で和やかに会話をしていた。


「簡単じゃないって言ったけど……その気になれば、因縁なんて簡単に捨てることができる。貴方達に足りないのは、振り上げた拳を下ろす勇気なんじゃないかな?」


「「「…………」」」


 ボス3人は娘達の姿を見つめていたが、やがて誰からともなく溜息をついた。


「わかった……和睦に応じよう。それで問題ないな?」


「……別にいい。どうせ戦う兵隊もいないしな」


「組織も立て直さなければいけません。抗争なんてしている暇はありませんね」


 どうやら、大人達も和解することで話がまとまったらしい。

 打ち解けている子供達の姿を見て、いつまでも争っている自分達がみっともなく感じたのかもしれない。


「これにて、一件落着。めでたしめでたし」


 ああ、そうとも。

 これでめでたし。ハッピーエンドじゃないか。


「だから……これ以上、場を荒らすなよ!」


『ッ……!』


 言い放ち、僕は部屋のすみに隠れていた『それ』を蹴り飛ばした。

 何もない空間から黒い影が出てきて、和室の障子を破って庭に転がり出る。


「Oh……ヒデエじゃねえかよ、急に攻撃するナンテ……」


 現れたのは、人狼ギャングの構成員であるはずの男。

 過去に2度ほど遭遇して戦闘することになった、ドレッドヘアーのレゲエ風男である。


「オレはただ、ボスの会談の様子を見守っていただけだゼ。急に蹴り飛ばすなんて、ブレーじゃねーかヨ」


 レゲエ男が頭をさすりながら言うが、俺はそんな男を射抜くように睨みつける。


「俺の目は誤魔化せないから、とぼけるんじゃない。お前……月白さん達を攻撃しようとしてただろ」


 疑問形ではなく断言する。

 この男は月白さんを含めた女子3人を攻撃しようとしていた。

 どんな理由なのかは知らないが……この男こそがギャングの抗争を煽っていた平和の敵だったのである。


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