34.そんな僕の修行回⑤
それから数日、僕は邪術の鍛錬に励んだ。
魔法の才能が全くなく、異世界で戦い方を教えてくれた師匠から『失格』の烙印を押された僕であったが……自分でも驚くほどに邪術の習得は早かった。
「穿て……ブラックバレット!」
右手から放たれる黒い弾丸が遠くの的を貫いた。
「かーらーのー、ブラックスピア!」
今度は漆黒の槍が伸びて、的を貫く。
「そして仕上げは……ブラックウィップ」
最後に、鞭のようにしなった邪気が複数の的をまとめて薙ぎ払う。
その戦いぶりはまさに変幻自在にして縦横無尽。完全に邪気を自分のものとしてコントロールできていた。
「よし……このスライムをかなり使いこなせるようになってきたな。そろそろ、免許皆伝じゃあないかな?」
僕は邪術として、スライムのような黒い粘体を出すことができる。
このスライムは僕の意思によって自在に形や硬さを変えることができ、あらゆる武器にすることができるのだ。
剣にもできるし、弾丸にもできる。
距離や射程を自由自在に変えられる子の触手は、敵対する人間にとってはかなり厄介な武器になるだろう。
「ええ、お見事ですわ。お兄様。美月は感服いたしました」
僕の邪術を見て、美月ちゃんがパチパチと拍手をする。
「わずか数日で邪術をものにしてしまうとは……やはり美月のお兄様は素晴らしい御方です。悪魔と契約をする天才ですわ!」
「女神とも契約をしているんだけどね……我ながら、おかしな人生を送っているね」
女神に加護を授かった勇者である自分が、今は悪魔と契約をして力を得ている。節操のないことである。
「さて……それじゃあ、そろそろ本格的な実戦訓練といきましょうか。お兄様、私と戦っていただけますか?」
「え? 美月ちゃんと?」
「はい。お兄様が邪術を使いこなすことができているかテストさせていただきます。私に勝ったのであれば、もう教えることはございませんわ」
「なるほど……卒業試験というわけか。いいじゃないか、やってやるよ」
僕は拳を握りしめ、気合を入れる。
自分の成長を確かめる良い機会だ。やってやろうではないか。
「そうですね……せっかくですから、罰ゲームを用意しましょうか。私が勝ったのなら、お兄様の身体を一晩好きにさせてもらうというのはいかがでしょう?」
「はいいっ!?」
好きにするって……まさか、ゴニャゴニャウニャウニャということだろうか?
美月ちゃんは僕にとって妹的な存在。12歳という年齢を見ても、そういうことをしていい対象ではない。
「大丈夫ですって。先っぽだけ。先っぽだけですから」
「君の先っぽってどこだよ! それは男が言うセリフだ!」
「天井のシミを数えている間に終わりますわ。観念してください!」
「ええっ!?」
美月ちゃんが問答無用とばかりに仕掛けてきた。
炎の山羊を繰り出して、僕めがけて攻撃をしてくる。
「ちょ……美月ちゃん!? 不意打ちは反則だよ!?」
「戦いというのは突然始まるものですわ!」
「そうだけどね!」
炎の山羊をバックステップで回避する。
美月ちゃんはどんどん山羊を繰り出して、こちらに攻撃してくる。
このまま逃げていたとしても、いずれは捕まってしまうだろう。
「まあ、いつまでも逃げるつもりはないけどね!」
これはあくまでも、邪術の実践のための戦いなのだ。
ならば、避けるばかりじゃなくて迎撃しなくては意味がない。
「ブラックウィップ!」
ムチに変えた邪気スライムを振り回し、炎の山羊を打ち払う。
ムチというのは本来であれば防御のための武器ではない。敵を迎撃するには向かないはずである。
しかし、邪気スライムで生み出したムチは僕の意思に従い、自由自在に動かすことができる。敵の迎撃も思いのままだった。
「さすがはお兄様ですわ! だったら……これはどうですの!?」
美月ちゃんが手を掲げると、僕の周りを大量の炎が渦巻いて旋回する。
炎のトルネードが俺を包み込んで、熱と質量で押し潰そうとしてきた。
「くっ……これはさすがに防ぎきれない……!」
俺の欠点として、生み出してコントロールできる邪気の量が少ないことがある。
物量で攻め込まれると、どうしたって対処しきれなくなってしまう。
「コントロールだけなら負けてない……はずなんだけどね。悪魔と人間のポテンシャルの差ってやつかな?」
生物としての決定的な差。
やはり悪魔である彼女には勝てないのだろうか。
「さあ、お兄様! お覚悟ください。今晩は寝かせませんわ!」
「くうううううううううっ、このおおおおおおおおおおおっ!」
起死回生の一手。
包み込むように襲いかかってくる炎をかいくぐり、邪力のスライムを滑らせる。
「まあ!?」
美月ちゃんが驚きの声を上げる。
蛇のように走ったスライムが美月ちゃんに迫っていき、その身体に喰らいつこうとアギトを開く。
「お見事、さすがはお兄様です!」
美月ちゃんは喝采の声を上げながら……あっさりとスライムの攻撃を回避する。
渾身の反撃であったが、わずかにかすっただけでダメージを与えることはできなかった。
「少しだけパワーが足りなかったようですわね。もっと負の感情を高めることができれば……ふえ?」
「ふおっ!?」
僕は思わず吹き出してしまう。
一分の隙を見て放った反撃であったが……その攻撃が美月ちゃんが着ている水着を切り裂き、ハラリと剥ぎ取ったのである。
美月ちゃんの巨大な胸部がブルリとさらされた。
華音姉さんに匹敵するサイズのそれはとんでもなく軟らかいくせに、重力に負けることのないハリがあってプルプルと上下に躍動している。
至高の一品。
芸術の極みである双丘が目の前で剥き出しになっていた。
「お、おおおおっ……!」
「きゃあっ!? お兄様!?」
瞬間、僕は胸の内から激しいエネルギーが噴き出してくるのを感じた。
圧倒的な感情の奔流が邪力となって噴き出し、漆黒のスライムを爆発的に増大させる。
津波のように押し出したスライムが美月ちゃんの炎を飲み込み、そのまま彼女の身体を拘束した。
「み、みみみみみっ、美月ちゃん! なんて格好をしているんだよっ!?」
「いえ、脱がしたのはお兄様だと思うのですが?」
「お兄ちゃんは許しませんよ! 人前でそんなにおっぱいを揺らしたりして……ハレンチです! 美月ちゃんにはまだ早い!」
「そんなことを言われましても……ああんっ!」
「うへえっ!?」
スライムで拘束した美月ちゃんに説教をしていると、急に彼女が高い声で鳴いた
見れば、僕が邪力で生み出したスライムが勝手に動き回り、美月ちゃんの肌の上を這いまわっていたのである。
スライムは剥き出しになった胸部を重点的に責めており、根元から搾ったり、全体的にやわやわしたり……挙句の果てに頂点部分をクリクリとつねったりしている。
「やんっ、お兄様……激しいですわ……!」
「僕の意思じゃないんだけどね!?」
「そんなことを言って、この触手は何ですか? いつの間にこんなプレイを……いやあん♪」
「うわあっ!?」
邪力によって生み出されたスライムは引くレベルのセクハラをしまくっている。
どうにかスライムを止めようとするが、まるでコントロールが効かない。それどころか、勢いを増しているような気がする。
「く、くそおおおおおおおおっ! 止まれえええええええええええええええええっ!」
「ああああああああああああっ! お兄様、ダメですわあああああああああああっ♪」
美月ちゃんのあられもない姿に混乱の極みになっている僕であったが……そもそも、コントロール出来ないのであれば、手から出てる邪力を消してしまえばいいのだと気がつくのは5分後のこと。
色々とアクシデントはあったものの、僕は『邪力』という新たな力を手に入れることに成功したのであった。




