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33.そんな僕の修行回④

「汚された……凌辱された……」


「大袈裟ですわ、お兄様。生娘でもあるまいし」


「男だってキスは大事なの! 大切にしてたの!」


 以前、風夏に人工呼吸的なディープキスをしたことはあったが……女性の方からキスをされるのは初めてかもしれない。

 うん、一方的に汚されるというのはこういうことだったのか。

 僕は修行が終わったら、全力で風夏に土下座をすることを決めた。


「契約は無事に完了いたしましたけど……気分はどうですか?」


「悪くない。というか、自分の中にこれまで気がつかなかった力を感じるな。これが邪気なのか?」


 胸の奥から湧き出るようなエネルギー。

 魔力と似ているものの、こちらの方がねっとりと粘性があって、まるでタールのようである。


「邪気は人間の負の感情によって生み出されます。お兄様は私と契約を交わしたことによって、邪気を力として利用するためのチャンネルが作られたはずです。さっそく、使ってみてはいかがですか?」


「うん。こんな感じかな?」


 邪気を操作して身体の外に出すことをイメージすると、手のひらから黒いスライムのようなものが出てきた。


「これが邪気……人間の負のエネルギーか」


 不気味な粘性の力は直視するのを避けたくなるような不気味さがある。

 誰だって、自分の中にある闇からは目をそらしたいもの。つまりはそういうことなのだろう。


「負の感情は様々な種類がありますが……わかりやすいものは『怒り』でしょうか?」


「怒りね……こんな感じかな!」


 僕はかつて異世界で戦ってきた敵の姿を思い浮かべた。

 魔王とその配下。そして、人間でありながら魔王軍に与した裏切者。

 魔王軍の中には高潔な武人のような性格の者もいれば、卑劣で残忍、醜悪な連中もいた。

 彼らに対して抱いた怒りを思い出し、それをエネルギーに変換させる。


「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 怒りの感情を込めると、右手から出ている黒いスライムが勢いを増していく。


「ハアッ!」


 気合を込めて右手を前方に突き出す。

 スライムが弾丸のような勢いで飛び出していき、少し離れた場所に設置されていた修行用の的を貫いた。


「フウ……やってみると意外と簡単だな」


「さすがはお兄様ですわ! 初めてでここまで邪気を操れるとは、お見事です!」


「ああ。僕は魔力を操る才能はイマイチだけど、こっちはそれほど苦手でもなさそうだ」


 魔法と邪術はそもそもとして違う技術なのだろう。

 魔法が苦手な僕でも、邪術はそれほど苦労なく修得することができそうだ。


「この力があれば、条件が厳しくて使いづらい女神の加護を補完できるかもしれないな。僕はまだまだ強くなることができそうだ」


 女神の加護は強力だけど使用条件があって使いどころが限られる。

 対して、邪術は特に条件もなく使うことができる。威力は女神の加護に及ばないだろうが……併せて使えば、お互いの短所を補い合うことができるだろう。


「はい、お兄様。邪気は人間であれば誰だって持っている力です。悪魔との契約という条件さえ満たしてしまえば、誰にだって使うことができます。ただし……その力をコントロールできるかどうかは別の問題ですわ」


 美月ちゃんが人差し指を立てて、説明を補足する。


「怒りや悲しみといった感情をコントロールできない人間は、邪術も上手くコントロールすることができません。大切なのは負の感情に飲み込まれることなく、それを制御することなのです」


 怒りのままに行動して、犯罪者になってしまう人間は多い。

 悲しみを乗り越えることができず、自らの命を絶ってしまう人間も多い。

 自分の負の感情を上手く制御して、手綱を握ることが邪術を上手く扱うコツなのだろう。


「それを踏まえたうえで……お兄様、邪術をもっと使ってみましょう」


「ああ、やってみよう。ご指南ご鞭撻、よろしく頼むよ」


「はい。上手くできたらご褒美を上げますから、頑張ってくださいな」


「…………」


 早朝のことを思い出し、僕は顔を引きつらせた。

 悲しいかな、身体の一部が反応して固くなってしまったようだ。

 まるでその部分と連動しているかのように、右手から出た黒いスライムもウネウネと蠢いているのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] さて、えっちな欲望を制御できるのでしょうか? 美月がいる限り敗北する未来しか見えない
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