27.夢魔と本屋と常夏の島⑥
「はい、弟くん。ヤシの実のジュースですよー」
「ユウ、ちょっと泳ぎに行かない? 競争しよ!」
「魔法少女は負けないぞっ! 私に勝てたらご褒美を上げちゃうね♪」
「飛鳥姉さんに勝てるわけないじゃない。そんなことよりもビーチバレーをしましょう」
「ん、遊ぶ」
「お兄様、良ければサンオイルを塗ってくれませんか? もちろん、前の方も縫っていただいて構いませんよ?」
「…………」
何だろう、この状況は。
僕はビーチパラソルの下で固まりながら、きゃあきゃあと黄色い声を上げる日下部姉妹に翻弄されていた。
サマーベッドに横になった僕の周りには4人……いや、6人の美女・美少女がはべっている。
いずれも水着を着ており、肌色の美しい裸身を僕の腕などに押しつけてきた。
「うん…………これは夢だね。確信したよ」
押しつけられた膨らみに全神経を集中させながら……僕はぼんやりと現実逃避気味につぶやいた。
ここが夢だという決め手になったのは……飛鳥姉と美月ちゃんが2人ずついることである。
日下部家は四姉妹のはずだったが……現在は6人に分裂している。いつもの4人に加えて、魔法少女――エクレア・バードに変身した飛鳥姉と、悪魔形態に変身してグラマーな美女となった美月ちゃんが追加されているのだ。
つまり……僕の周囲には豊満でエッチな身体つきの華音姉さん、飛鳥姉、大人美月ちゃん。膨らみかけ成長期の風夏。ツルペタロリ体型のロリ美月ちゃんとエクレア・バードがそれぞれいるのである。
いつも以上によりどりみどり。まさに夢のような光景となっていた。
「こんな幸せは夢じゃないとあり得ないよね……ひょっとしたら、クラスの女子全員が全裸で迫ってくるよりも貴重な光景だよ」
「もう、みんな弟くんを困らせたらダメですよー。弟くんは1人しかいないんだから」
華音姉さんが腰に手を当てて妹達をたしなめる。
さすがは長女。暴走している妹達の行動をきちんと統制しようとしていた。
「弟くんへのおねだりは順番にしましょう。とりあえず……みんなサンオイルと日焼け止めを塗ってもらいましょう」
「うん、そんなことだろうと思ってたけどね!」
予想通り、華音姉さんもエッチな方向に話を持っていこうとする。
期待通り……じゃなくて、予想通りだった。
「さあさあ、弟くん。順番にオイルを塗ってくださいな」
華音姉さんがレジャーシートにうつぶせになる。
他の姉妹らも隣に横になっていき、あれよあれよという間に6つの女体が目の前に並んでいた。
「お、おおうっ……」
ビキニの紐を外して並ぶ彼女達は……もう壮観という言葉しか出てこない。
前世でどれほどの善行を積んできたらこんなイベントに巡り合うのだろう。前世の自分にグッジョブとしか言いようがなかった。
「ぼ、僕はこの世界から脱出しないといけないんだけど……」
だが……さすがに彼女達を強引に振り払うわけにもいかない。
偽物であることはわかっているのだが、それでも僕にとっては大切な家族だ。
あからさまに危害を加えられたというのであればまだしも、現段階において力ずくで排除する気にはなれなかった。
「え、えっと……サンオイルだけだからね。それじゃあ……塗るよ?」
「あんっ」
受け取ったサンオイルを掌で広げて華音姉さんの背中に滑らせる。すると、耳に心地の良いソプラノの嬌声が上がった。
「ちょ……変な声を出さないでくれるかな!?」
「だって……弟くんが急に触るから……」
「急じゃないからね!? ちゃんと塗るって声をかけたからね!」
潤んだ瞳で振り返ってくる華音姉さんに心臓を高鳴らせながら、僕はサンオイルを塗る作業を再開させた。
「ふあっ……はっ……あっ……んああっ……!」
手を滑らせるたびに、指を動かすたびに……華音姉さんが鈴のような音色を上げる。
まるで相性の良い奏者にめぐりあったピアノのようだった。
「ユウー、こっちも早く塗ってねー」
「あ、飛鳥姉……」
華音姉さんの次は飛鳥姉。
胸は姉よりも小ぶりだが、全体的に引き締まってハリのあるアスリートの身体が目の前に立ちふさがる。
「ひゃあっ! もう、くすぐったいってばー!」
「うぐっ……」
「ユウってば、ほんとにエッチなんだからー。そんなにお姉ちゃんのおっぱいが好きなのー?」
好きですが、何か?
僕は悟りを開いた修験者の心境になって飛鳥姉の全身にオイルを塗りたくる。
「勇治……変なところを触ったら承知しないんだからね!」
「ん……ぬる」
風夏と美月ちゃんも当然のように要求してくる。
2人が求めているのはサンオイルではなく日焼け止めだ。どっちも全身に塗らなくてはいけないのは変わらない。
「あ……もう、ダメって言ったのに……勇治の馬鹿っ」
「ん……よい……」
せめて前は自分で塗ってもらえないだろうか……そんな野暮なツッコミはこの空間において許されない。
僕は右手で風夏を、左手で美月ちゃんを同時攻略した。
「さあ、次は私達の番だぞ♪」
「フフッ……待ちくたびれて濡れてしまいましたわ、お兄様」
もちろん、エクレア・バードと大人美月ちゃんにも塗ってあげなくてはなるまい。
2人がイレギュラーな存在であるとはいえ、仲間外れは良くないのだから。
「僕は塗る……ボクハヌル……ソウイウソンザイダカラ……」
「あ、ユウが女の子の身体に触りすぎて、ちょっと壊れているぞ♪」
「んあっ……だけどテクニックはどんどん上手くなっていますわ。まるで手が何本もあるみたい。さすがはお兄様……これが『ゾーン』というものなのですね?」
世界で1番嫌なゾーンである。
アスリートの人とかに怒られるぞ……。
無我の境地に至って両手を動かした結果、無事に6人の美女アンド美少女の全身を粘液まみれにすることに成功した。うん、我ながらすごい言い方だ。
これでミッションクリア。僕はさりげなく立ち上がってこの場を離れようとする。
しかし……僕の手を大人美月ちゃんが掴んで引き倒された。
「わっ!」
「ダメですわ、お兄様。まだ立ち去るには早いですよ?」
「な、なにを……ちょ、おっぱいで窒息するからっ!」
「ウフフフ……華音姉様直伝、おっぱいホールドです」
特殊な技で拘束された僕は身動きが取れなくなってしまう。
おっぱいホールド……なんて恐ろしい技なんだ!
「そうですよ、弟くん。まだ弟くんにオイルを塗り終えていないじゃないですか」
「私達が塗ってあげるね。ユウ、そのままジッとしてなさい」
「ふぎゃあっ!」
捕らわれた僕の身体に他の女性陣も絡みついてくる。
それはもう……手足をあちこちに挟んだりして、肌を密着させてきた。
「ま、まさか……」
「ううっ……恥ずかしい。勇治、後で覚えてなさいよねっ!」
「ん……ぬる」
そう……彼女達は僕に密着して肌をこすり合わせることで、自分の身体に塗られたオイルを僕に移そうとしていた。
僕の全身にヌメヌメの滑らかな肌が押しつけられる。ぞわぞわと悪寒が背筋を走る一方で、身体の一部分に血液が集中して熱くなってきた。
6人はそろってビキニ姿。おまけにサンオイルを塗るためにブラを外してトップレスになっている。
そんな彼女達が僕に身体を絡めてくる。うん、どんな天国なのだコレは。
「パンツが邪魔ですね、脱がしちゃいましょう!」
「下までキッチリ塗りこんじゃうぞっ!」
「そ、それは……ぎゃああああああああああああっ!?」
とんでもない事態が生じようとしている。
このままでは、男子の大切な何かを失いかねない。
「く、は……」
甘ったるい香りに灼熱の太陽。頭がクラクラして何も考えられなくなる。
いっそのこと……このまま流されるままに行きつく場所までイッテしまおうか。
「ん……?」
そんな抗いがたい欲求が頭をよぎった時、ふと視線の先にいるソレと目が合った。
『…………』
ビーチに置かれた白いテーブルの上に鳥がとまっており、こちらを見つめていた。極彩色の羽を持った南国の鳥である。
そういえば……さっきからこの鳥がそこらを飛んでいたような気がするが、いつからそこにいたのだろう?
「ッ……!」
僕はハッと気がつき、こちらを見ている鳥に右手を向けた。
「スキル発動――『エアブレッド』!」
『ギャンッ!』
僕は右手から魔法の一撃を放った。指先から飛び出した風の弾丸が極彩色の鳥に命中する。
魔法が不得手な僕が放った弾丸は豆鉄砲くらいの威力しかないのだが……まさに鳩が豆鉄砲状態となった鳥がテーブルから転げ落ち、砂浜に落下した。
「きゅう……」
砂浜に落ちた鳥の姿が変貌する。
野暮ったいメガネとジャージを身に着けた同年代の少女……すなわち、探し求めていた有楽院ミツバの姿に。
ミツバは目を回して倒れており、気絶しているようだ。
「お……?」
同時に、トップレスの6人の姿が蜃気楼のように揺らめいて消えていく。
どうやら……ミツバを倒したことで術が解けたらしい。
「…………」
僕は助かったと胸を撫で下ろしながら……少しだけガッカリした気持ちになり、消えていく彼女達の姿を目に焼き付けたのであった。
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