18.陰陽師1日体験日記③
僕と華音姉さんは途中でタクシーを拾って現場に向かった。
ジャージ姿の僕。黒い着物の華音姉さん。
よくわからない格好の僕達に運転手がものすごく不思議そうな顔をしていたが、30分後には心霊現象が起こっているという工事現場に到着した。
「ここが現場ですね。どうやら……もう警察が来ているみたいです」
そこは町の端にある山の麓だった。
ここでは山を切り崩して開発が進められており、近々、大きなショッピングモールが建設される予定の場所である。
「工事現場って……ここだったのか」
「そのようですね。それでは、行きましょうか」
工事現場の周囲は警察によって封鎖されていた。
パトカーや救急車があちこちに停まっており、怪我人を運び出している。
華音姉さんは颯爽と現場に向かう。
迷いのない瞳、まっすぐな足取りからは深い経験と実績が窺われ、まさにプロフェッショナルと言わんばかりの立ち居振る舞いである。
「ちょ……部外者が入っちゃダメですよー!」
「ほらほら! さっさと出てく!」
「ひゃあああああああっ!」
そして……現場を封鎖されていた警察官につまみ出されていた。
何食わぬ顔で現場に入ろうとして、あっさりと取り押さえられている。
「アンタ、変な格好して何やってんの! ここは立ち入り禁止ですよ。入ったら危ないでしょうが!」
「い、いえ。私は呼び出された専門家で……」
「ほらほら、行った行った! そこにいるのはご家族かな? ダメだよ、弟さんに心配かけちゃ!」
「そ、そうじゃなくて……ひゃわあああああああっ」
「華音姉さん……何やってんの?」
事件を颯爽と解決するどころか、現場にすら入れてもらえずに追い出されている。
うん、どんなプロフェッショナルだよ。
「お、弟くん! 大変です、中に入れません!」
「いや、知らんがな」
「どうやら、この事件は相当にやっかいなヤマのようです……お姉ちゃん、迷宮入りの予感がしてきました」
「うん、そもそも探偵が事件現場にいないもんね」
探偵ではなく陰陽師だが。
ともあれ……このままでは埒があかない。
市長やら何やらとコネがあると言っていたのに、どうしてこんな場所で立ち往生しているのだろう。
「姉さん……普段はどうやって現場に入っているの?」
「い、いつもは事前に現場責任者に話が言っているのですが……どうやら、今日は連絡に不備があるようですね」
「えーと……よくわからないけど、早く現場に入った方がいいんだよね? 結構な騒ぎになってるし」
工事現場からは今も怪我人が運び出されている。
その中には、救助にやってきたはずの警察官や救急隊員までふくまれていた。
状況はわからないが……早急に事態解決が必要である。
「とりあえず……僕のスキルで中に入ろうか」
「あ……」
僕は華音姉さんと手をつなぎ、【忍び歩き】のスキルを発動させた。
これで周囲から僕らは見えなくなった。現場を封鎖している警察官をすり抜けて、僕達は中に入っていく。
「さすがは弟くん! 頼りになります!」
「今日は僕が教わる側のはずなんだけどね……別にいいけどさ」
僕は華音姉さんの手を引き、怪しい気配がする方向へと進んでいく。
広い工事現場の中、とある方角から無性に不吉な気配がするのだ。
「……気をつけてください、弟くん。これはちょっと厄介なものがいるかもしれません」
華音姉さんが緊張した雰囲気で言ってくる。
「山には神様や怪異がつきもの。大きな工事をする前には、必ずお祓いをしてから手をつけるのが常識なのですが……これはそんな次元を越えています。少なくとも、以前私達が戦った雪の怪異と同等の力を持っているはずです」
「アレと同等以上……それはちょっとヤバくないか?」
以前、華音姉さんと僕は雪の怪異に襲われたことがある。
あの時は女神の加護を使ってようやく倒すことができたのだが……アレと同じレベルの相手となると、なかなかに面倒だ。
「……これは気合いを入れないと不味そうだ。僕が一緒で良かったよ」
華音姉さんが1人で対処にあたっていたと思うと、ゾッとする。
万が一のことがあっても、華音姉さんだけは守ってみせる。
僕はそう心に誓って、邪悪な気配の元へと向かっていくのだった。




