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12.狼さんは不良少女③


「八雲君……」


「ごめんね、月白さん」


 縋るような目で月白さんが見つめてくるが、僕は申し訳ない気持ちで彼女の肩を叩く。


「あくまでも平和的解決を望む君の言い分は正しいと思うけど……非暴力不服従で解決できない問題もあるんだよ。君と伏影ナズナの間に何があったかは知らないけど、かかってくるなら反撃させてもらうよ」


 先ほどの会話から、月白さんと伏影ナズナとの間に何らかの因縁があることがわかった。

 もしかして……もしかしなくても、2人は昔なじみの知り合い。それもわりと親しい関係だったのではないかと思われる。

 ここで暴力を振るえば、2人の関係を修復不可能にさせてしまうかもしれない。

 だが……それでも、月白さんが理不尽に虐げられる様を見たくはなかった。


「そういうわけで、倒しちゃうけど問題ないよね?」


「テメエ……本当に人間か? 人狼の動きについてくとか、ありえねえだろ」


 バーカウンターに座ったナズナが柳眉を逆立て、こちらを睨みつけてくる。

 人狼ファミリーのボスの娘もまさか吸血鬼の助っ人として、異世界帰りの勇者が現れるなど思ってはいまい。


「連れてこられた一般人(パンピー)なら記憶をなくすまでボコってしまいにしてやるところだが……そうとなったら、容赦はしねえ! お前ら、殺す気でかかりやがれ!」


『ガウッ!』


『ギャウッ!』


 残っていた狼男が頷いて、懐から武器を取り出す。

 一方はドスのような刃物。もう一方はなんと拳銃だった。


「狼男のくせに武器を使うのかよ。爪とか牙とかで戦えよ。というか……高校生相手にマジの武器を取り出すとか、プロのギャングともあろうものが恥ずかしくないのか……?」


「うるせえ! 誰のせいだと思ってやがる!?」


「わっ! しゃべった!?」


『ガウ』とか『ギャン』とか言っていたはずの狼男が、突如として人間の言葉で怒鳴ってきた。

 いや、日本語がしゃべれるなら最初からそうしようよ。


「馬鹿野郎! こっちにだって雰囲気があるんだよ!」


「せっかく変身したんだから、狼魂(オオカミ・スピリッツ)を魅せつけるのは当然だろうが!?」


「わあ……よくわからない理屈だー。言葉が通じてるのに会話が成立しなーい」


「うらあ! タマとったらあ!」


 さっきまでゲームに出てくるモンスターみたいだったのに、狼男が急に人間らしく叫んで武器を構えた。

 ドスを構えた方が斬りかかってきて、拳銃の方も引き金を引く。


「はあ……危ないなあ」


 狼男の動きはかなり機敏だ。銃弾はそれ以上の速さ。まともに喰らったらそれなりに痛い思いをしそうである。


「まあ、まともに喰らってやるほど僕もお人好しじゃないけどさ」


 僕はアイテムボックスから剣を取り出し、弾丸を弾き飛ばした。

 遅れてドスが襲いかかってくるが、こちらも剣で叩き落す。


「なっ……どっから武器を取り出しやがった!?」


「説明する義理はないだろ……よっと!」


「うがっ……!」


 ドスを持っていた狼男の股間を蹴り上げる。

 狼に変身してもそこは痛いらしい。ヒュンッとした感じでうずくまった。


「かーらーのー……投擲!」


「グワッ!?」


 ついでに持っていた剣を投げつける。

 拳銃を撃ってきた狼男の胴体に剣の柄が命中して、そのままあおむけに倒れた。


「月白さんに感謝するんだな。彼女がいなかったら、わりと本気で殺してたかもしれないぜ?」


 僕は戦闘狂でもなければ殺人鬼でもない。別に戦いや殺しを好んでいるわけではなかった。

 しかし、殺す気でかかってくる相手に手加減をするほど極楽トンボではない。殺してしまっても仕方がないくらいの気持ちで攻撃していたことだろう。


「さあ、手下はみんなやっつけたぞ? どうするつもりかな……伏影ナズナ先輩?」


「…………」


 まとめて片付けられた狼男を見下ろし、ナズナが呆然としている。

 まさか拳銃まで使って高校生にやられるとは思っていなかったのだろう。信じられないと言わんばかりの表情である。


「テメエ……本当に何者だ? 人間とか言って、本当は吸血鬼の仲間じゃねえのか?」


「いや? 僕は正真正銘の人間さ。吸血鬼なんて、1週間前までは存在すらも信じていなかったよ」


「ああ、そうだろうな。テメエからは吸血鬼の匂いはしねえ……! だったら、本当に何者だ? まさか、『結社』の関係者なのか……?」


「結社……?」


 ……というのは何のことだろうか?

 以前、華音姉さんの会話でそんな言葉を聞いたような気がするのだが。


「そんなことよりも……今からでも遅くない。交渉のテーブルに着くつもりはないか? 月白さんと協力して抗争を終わらせてくれるのなら、これ以上の手出しはしないよ?」


「……ざけんなよ。手下をやられておいて、(ヘッド)のアタシがイモを引けるかってんだ!」


 ナズナが立ち上がり、真っ赤なアウターを投げ捨てた。

 金髪の髪が逆立った。筋肉が盛り上がって着ているインナーがビリビリと裂ける。

 ナズナの顔面が狼のそれへと変貌していく。狼男……狼女に変身した。


「こっから先はアタシが相手だ! 食い殺してやるから覚悟しな!」


 黄金の狼に変身したナズナが、大きな口から咆哮を放って襲いかかってきたのである。


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