8.僕が美少女と通学しているワケ③
「怪物のギャング。それに抗争って……驚くほどのことじゃないって言ったのは訂正するよ。すごいビックリだ」
自分が暮らしている町に人外の一族が暮らしているというだけでも驚きの情報だが、彼らがギャング化しており、抗争までしているとなれば度肝を抜かされる。
僕が異世界に行ったことよりも不可思議な状況かもしれない。謎の敗北感が胸に押し寄せてきた。
「つまり、君が狼男に襲われてたのもその抗争が原因ってことかな?」
「はい……おそらく、私を連れ去ろうとしていたのだと思います。私は吸血鬼ファミリーのボスの娘ですから。人狼ファミリーは特に野心があって、大天狗様がいなくなったことを利用して他の2つの一族を支配しようとしています。私を人質にして、交渉材料にしようとしたのかと」
「そうなんだ……何というか、お察しします?」
……などというコメントが適切なのかはわからないが、何と言っていいのかわからない事態である。
「えーと……つまり、君は吸血鬼のギャングの娘で、いわゆる「お嬢」ってことで良いんだよね?」
「お嬢という言い方は好きではありませんが……その通りです。私の父はギャングのボス。そして、父もまた他のファミリーを敵視しており、抗争が起こる原因になっている人物の1人です。私はどうにかして抗争を止めたいと思っているのですが、父も聞く耳を持ってくれなくて……」
「なるほど。なるほどねえ……うーん」
僕は月白さんの力になるつもりで家に連れ込んできたのだが、こうなってしまうと自分に何ができるのかわからない。
ギャングやヤクザの抗争というだけでも荷が重いというのに、そこに「怪物」という余計な要素まで加わって何ができるのだろう。
シンプルに月白さんを狙っている連中をぶちのめして終わりというわけでもないだろう。
「何というか……ものすごく今さらな話だけど、設定盛り込み過ぎじゃない? ちゃんと収拾がつくのかな?」
「設定と言われましても……私の家はずっと前からこうですし」
「そうですよねー」
設定とか言われても、月白さんにはどうしようもないだろう。
とりあえず、これまでの話で分かったのはこの町で大きな争いが起きようとしていること。
そして、月白さんがその渦中に巻き込まれていることである。
月白さんはずっと暗い表情をしていた。
つまり、この抗争状態は月白さんにとって望ましくないこと。彼女は争いを望んでいないということになる。
月白さんが怪物ギャング同士の戦争を望んでいるというのであれば協力はできないが……平和を求めているのであれば、してあげられることがあるかもしれない。
僕は勇者なのだ。
平和を取り戻すのは、勇者である僕の仕事ではないか。
「月白さん、僕にできることはあるかな?」
ゆえに、僕はそう尋ねた。
月白さんが巻き込まれている問題……それを解決する手段はあるのだろうか?
「乗り掛かった舟だからね。話を聞くだけ聞いておいて、「はい、さよなら」なんて薄情なことはしない。僕に力になれることがあるのなら言って欲しい……君は僕に何を望んでいるのかな?」
「…………」
僕の問いに月白さんは黙り込んだ。
何かを迷っているようだったが……やがて意を決したように口を開く。
「……無関係な八雲君にこんなことを頼める道理はありません。ですが……私はどうにかして、この争いを止めたいと思っています。もしも3つの一族の抗争が激化すれば、ファミリーの仲間はもちろん、無関係な町の住人にまで迷惑がかかってしまいます」
月白さんは座ったまま頭を下げた。
美しい黒髪が滝のように流れて、テーブルに落ちる。
「助けてください……八雲君。ファミリーの抗争を止めるため、貴方の力を私に貸してください」
「いいとも。承知した」
僕は1も2もなく頷いた。
ここで迷わず頷ける自分を、心から誇りに思った。
「今から僕は君の力になろう。吸血鬼と人狼、それに夢魔だっけ? この町で起こるであろう戦いは僕が止める。今から僕は君の勇者だ!」
「八雲君……本当にありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」
月白さんが感極まったように涙ぐむが……そこでふと思い出したように、言葉を付け加える。
「言い忘れていましたが……抗争中の他の2つのファミリーの娘も私達の学校に在学しています。場合によっては同じ学校の仲間と争うことになるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
「へ……?」
付け足された補足情報に目を白黒させ、僕は思わず固まってしまうのであった。
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