表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/103

48.日下部さん家の四姉妹⑤


「あ、飛鳥姉っ!?」


 頭上に現れて悪魔を攻撃しだした魔法少女の姿に、僕は思わず叫んでしまった。


 雷を操る魔法少女――エクレア・バード。

 その正体が日下部家の次女である日下部飛鳥であることを、僕はよく知っている。

 不可視の結界に縋りついて処刑を止めようとしていた美月ちゃんもまた、ポカンとした顔になって天を仰ぐ。


「え、ええっ!? あれって飛鳥姉様……いえいえ、そんなわけが、でもあのお姿は……?」


「えーと……」


 どう説明したらいいのだろう。僕は十字架に(はりつけ)になったまま言葉を噛む。


 これから死ぬつもりだったのだけど……その前に事情説明をしといたほうがいいのかもしれない。

 説明するとして、どこまで話せばいいのだろう。飛鳥姉のことは話すとして、華音姉さんや風夏のことも言ってしまっていいのだろうか?


 僕の心に迷いが生じたことで、身体を貫こうとしていた『ロンギヌスの槍』が停止している。うん、呼び出しておいて申し訳ないけど、もうちょっとだけ待ってもらいたい。


「えーとね、美月ちゃん。飛鳥姉なんだけど、どうやら……」


「地球を侵略する悪いエルダーはエクレア・バードがお仕置きしちゃうぞ♪ 愛の鉄槌をくらうのだあああああああああっ♪」


「…………」


 僕と美月ちゃんに気がつくことなく、頭上ではエクレア・バードが悪魔と戦っている。

 どうやら、裏世界からやってきた悪魔を自分の敵である『エルダー』と勘違いしているようだが……非常にいたたまれない。


 なあ、知ってるかい。

 あの人、この間ハタチになったんだぜ?


「お、お兄様、よくわからない状況ではありますけど……とりあえず、今のうちに体勢を立て直しましょう。早くその処刑台を消してくださいませ」


「い、いやいやいやっ! 飛鳥姉が来て流れは変わったけど、ピンチには変わりないからね! やっぱり僕の命を捧げて2人を守らないと……」


「命を捧げる……というのはどういう意味ですか、弟くん?」


「…………へ?」


 またしても、ここにいるはずのない人間の声が響いてきた。


「胸騒ぎがして急いで帰ってきたら……随分と奇妙なことになっていますね。魑魅魍魎、悪鬼羅刹、妖怪変化。私がこれまで戦ってきた相手とは趣が異なりますけど……弟くんをイジメる敵には違いなさそうです」


「か、華音姉さん!?」


 いつの間にそこにいたのだろう。

 僕らがいる場所から少し離れた場所に、喪服のような真っ黒な着物の妙齢の美女――日下部家の長女である華音姉さんが立っていたのである。

 華音姉さんはいつもの朗らかな微笑を浮かべたまま……二本の指を立てて『刀印』と呼ばれる形を作り、頭上に手を挙げた。


「葵、須磨、澪標、朝顔、玉鬘、梅枝、藤袴、若菜、雲隠……百鬼千鬼を封じ込めん。結界――『紫世界』」


 華音姉さんが呪文を唱えると……紫色のドームのようなものが公園を覆いつくし、悪魔を閉じ込めた。公園から出て人間を襲いに行こうとしていた悪魔が、ドームの壁に弾かれて右往左往している。


「これであの怪物たちは外に出られないはずです。それよりも……説明してもらいますよ、弟くん」


「へ、あ、えっと…………何を?」


「どうして飛鳥ちゃんが子供になっているのか。美月ちゃんが大人になっているのか……いえ、そんなことはどうでもいいですね。どうして、弟くんは死ぬことを覚悟したような顔になって磔になっているんですか?」


「…………!」


 華音姉さんは一見していつもの笑顔に見えたが……その背後には巨大な般若の顔が浮かんでいる。

 怒っている。ものすごく怒っている。

 甘いはずの華音姉さんが、これまで見たこともないほどに激怒している。


 その姿に僕はもちろん、怒りを直接向けられていない美月ちゃんまで顔を引きつらせた。


「か、華音姉様……」


「大丈夫ですよ、美月ちゃん。そんなに心配そうな顔をしなくても、お姉ちゃんは全部わかってますから」


「ッ……!」


 美月ちゃんが息を呑み、大きく瞳を見開いた。

 そんな末の妹に華音姉さんはにっこりと優しく微笑みかける。


「美月ちゃんも成長期ですものね。急にお胸が大きくなって戸惑っていると思いますけど……安心してください。お姉ちゃんも12歳の頃にはEカップでしたから。怖がることはありませんよ」


「違う! 多分、美月ちゃんが言いたいのはそれじゃない!」


「弟くんは黙っていてください。焦らなくても、すぐにちゃんと説教してあげますからねー」


「ヒイッ!?」


 底冷えのする声で宣告され、引きつった悲鳴が漏れてしまう。


 ええっと……どうしてこんなことになってるんだっけ?

 僕はたしか、美月ちゃんを守るために命を捧げようとしていたはずなのに……何でお姉ちゃんから説教されてるんだ?


「勇治いいいいいいいいいいいいいいいっ!!」


 混乱しまくる僕であったが……なおもカオスな状況は続いていく。

 結界が張られているはずの公園。その入り口から猛スピードで小柄な人影が走ってきて、僕にめがけて突進してきたのである。


「ふ、風夏っ!?」


 そう。ここまでくればそれが誰なのかは明白。

 二度あることは三度ある。姉妹が3人集まったのだから、最後の1人が現れるのも必然だった。

 猛スピードで公園をかけてきたのは日下部家の三女――日下部風夏である。


「人が駅前でずっと待ってたのに…………アンタはこんなことで何してるのよっ!」


「ちょまっ……えええええええええええっ!?」


 風夏が地面を蹴り、僕に飛び蹴りをかましてきた。

『信仰の刑台』を発動させている状態では、誰も僕に近づくことはできないはずなのだが……パリンとガラスが割れるような音がするや、風夏の足が僕の顔面に突き刺さる。


「森羅万象、万物消滅キイイイイイイイイイイイイック!」


「ぶふうっ!?」


 十字架の処刑台が跡形もなく消滅して、解放された僕は思いっきり地面を転がった。

 どうやら、『破壊』の超能力によって女神の加護を無効化したようである。誰にも邪魔されないはずの聖者の処刑があっさりと破られてしまったらしい。


「すごっ……ていうか、風夏までどうしてここに……?」


「アンタが来ないからでしょっ!?」


 風夏が尻尾を踏まれた犬のようにキャンキャンと鳴く。


「お寿司屋さんに行くって連絡があったから駅前で待ってたのに、どうしていつまで経っても現れないのよ!? お腹は空いてくるし、遠くで爆発が起こってるし、何かでっかい金色のとか変な化け物とか浮いてるし、美月は私よりもおっぱいが大きくなってるし……いったい、どう責任を取ってくれるのよ!」


「いや、知らないけどね!?」


 大部分が僕のせいじゃない。

 美月ちゃんのおっぱいのことまで、どうやって責任を取れというのだろう。

 一緒にブラジャーでも選んであげれば、責任を取ったことになるのだろうか?


「あれ!? ユウに姉さんたちまでっ!? どうしてここにいるの!?」


 ここでようやく、家族が勢ぞろいしていることに気がついたエクレア・バード――飛鳥姉が下に降りてきた。

 愕然とした表情で僕達を順番に見回し……ハッと慌てた様子で自分の身体を抱きしめる。


「やっ、違っ……わ、私の名前はエクレア・バード♪ 魔法界からやってきた正義の魔法少女で……」


「飛鳥ちゃん、そういうのは大丈夫です」


「お姉ちゃん、恥ずかしいからやめてくれない?」


「はうあっ!?」


 正体を看破された飛鳥姉が愕然とする。

 うん、確かに幼児化しているけど……僕にだって初見で見抜けたんだから、血がつながっている姉妹が気づかないわけないよね。


「あの……お姉様方……」


「どうかしたの、美月?」


「……どうして、私の正体がわかるんですか? こんな姿になっているのに……」


 美月ちゃんは身体がグラマラスな女性のものになっており、頭部には山羊のような2本の角が生えている。顔立ちや髪色こそ変わらないものの、一目で気づくのは困難かもしれない。

 しかし、3人の姉は不思議そうな顔になって首を傾げる。


「お姉ちゃんが妹の顔を見間違えるわけないじゃないですか」


「……わかるわよ。私だって同じだし。妹だもの」


「まあ、小学生の美月がそんなエッチな服を着ているのはどうかと思うけど……姉妹なんだから、誰かわからなくなるなんてことはないんじゃない?」


「ッ……!」


 3人の姉の言葉に、美月ちゃんは泣きそうな顔になって瞳に涙を浮かべる。

 自分が『日下部美月』の偽物であると悩み、苦しんできた彼女にとって、それは喉から手が出るほどに欲していた言葉に違いない。


「それでいいんだ……それが正解なんだよ、美月ちゃん」


 そうだ。そういうことなんだ。

 家族ってのは理屈じゃない。血のつながりや偽物・本物ではなく、心でつながっているから家族なんだ。

 たとえ美月ちゃんが悪魔であったとしても……4人は姉妹なんだから。


『下等な人間が! 我を無視して何を騒いでいるか!?』


「ッ……!」


 ほのぼのと、和気藹々となった僕達であったが……頭上から野太い声が落ちてくる。


 直後、数えきれない数の金色の刃が雨のように降りそそいできたのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ