39.四女はエッチな悪魔ちゃん③
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その後、華音姉さんが高校の教員に事情を説明してもらい、あっさりと授業を早退する許可をいただいた。
僕が1年前に唯一の肉親である兄を喪い、天涯孤独の身の上であることは学校側も承知している。
兄嫁である華音姉さん、さらに日下部家との関係も把握しており、特殊な家庭の事情を鑑みて許可が出たようだ。
授業参観は午後から。小学校の授業カリキュラムでいうところの5~6限目が見学の対象になる。
僕は午前中は平常通りに高校の授業に参加して、午後になってから早退して美月ちゃんが通っている小学校に向かおうとした。
「あれ? 八雲、帰んの?」
「ああ、ちょっと用事があって早退する」
「何だよ、サボりかよー。可愛いゆうちゃんが不良になってお父さん悲しいわー」
「誰が誰のオトンだよ。ちゃんと学校側の許可はもらってるって」
クラスの男子の冗談めかした軽口にツッコミつつ、通学カバンを手に取る。
小学校の5限目が始まるのは午後1時から。今が正午ちょうどなので、まだ1時間ほど猶予があった。
ここから小学校までは歩いて30分ほど。昼食のパンを齧りながら向かえば、十分に授業開始に間に合うことだろう。
「いってらー」
「ああ、また来週」
手を振ってくる友人に軽く応えて、足早に廊下に出た。
まだ時間的にはかなり余裕があるが……急ぐに越したことはない。
勇者をしていた頃からそうだったが、人間というものは大事な用事がある時に限って予想外のアクシデントに巻き込まれてしまうものである。
魔王を討伐するための重要なアイテムを探していたら、途中で寄った村の住民に「盗賊にさらわれた娘を助けてくだされ!」などと頼まれたり。
船で次の目的地に移動しようとして港に着いたら、突如としてクラーケンやらのモンスターが出没して、定期船の運航が中止になってしまったり。
神託を聞くために教会の聖女を尋ねたら、肝心の聖女が謎の呪いによって身体を蝕まれており、会話もままならないような状態になっていたり。
お前ら、僕が魔王討伐するのを妨害してないか?
などと勘違いしてしまいかねないアクシデントが、あちらの世界の現地住民によってもたらされたものである。
いや……僕は君らを助けるために勇者として召喚されたんだけど? どうして、余計なトラブルを持ち込んで魔王討伐の旅を邪魔するのだ。
勇者を便利屋か何かと勘違いしたあちらの世界の住民達には、たびたび辟易させられたものである。
頼みごとを断ったら断ったで、「勇者なのにどうして!」「勇者なんだから助けろよ!」「困っている人を見捨てるなんて勇者じゃない!」などと好き勝手なことを言ってくるのだ。
好きで勇者になったわけではないというのに……本当に身勝手極まりない話である。
「……嫌なことを思い出しちゃったな。早く美月ちゃんの顔を見て癒されよう」
僕はそのまま昇降口を目指し、校舎の廊下を歩いていく。
ここは3階。階段を下りて階下に向かおうとしたところで……ふと気になるものが目に入ってきた。
「ん?」
廊下の窓から見えたのは……校舎の裏庭で、1人の女子生徒が複数の男子に囲まれている姿だった。
男子のほうに見覚えはない。髪を染めていたり制服を着崩していたり、全体的に不良っぽい。女子生徒は顔見知り……というか、クラスメイトである。
長い黒髪で清楚そうな顔立ち。いかにも育ちが良さそうな雰囲気の彼女は、学園の三大美少女の1人である月白真雪だった。
「どうして、あの娘が……」
月白さんは4限目のはじめに気分が悪くなったからと、保健室に行っていたはずである。
ひょっとして……体調が回復して保健室から出てきたところを、タチの悪い男子らに囲まれてしまったのだろうか?
3人の不良男子は裏庭に生えた杉の木のところに月白さんを追い込んでおり、囲んで逃げ道をふさいでいた。
僕はたまたま発見することができたが、あそこは人通りも少なくて気づかれにくい場所。このままでは、後味の悪い結果になるのは明白である。
「はあ……仕方がないな」
僕はわずかに考えて、すぐに自分のするべきことを悟った。
月白さんとはクラスメイトという以上に関係はない。ここで見捨てたとしても、誰に責められる筋合いもなかった。
しかし、顔見知りの女子がヒドイ目に遭うのを見過ごせば、きっと授業参観の間、ずっと気になって仕方がないだろう。
「ましてや……美月ちゃんのところに行くのを、女の子を見捨てる理由になんてできないよね」
そうと決まれば、最短時間で済ませてしまおう。
僕は『忍び歩き』のスキルを発動させて周囲から姿を隠し……窓を開けて裏庭に飛び降りた。
クルリと空中で一回転して地面に降り立ち、月白さんを囲んでいる不良らの背後に素早く回り込む。
「ちょっと失礼」
「あ……ばっ!?」
中央にいた不良が振り返ると同時に、アゴを下から掠めるようなアッパーカット。
相手にこちらの姿を認識させる暇は与えない。脳を揺らす打撃によって一瞬で昏倒させる。
「てっ……!?」
「めえっ……!?」
残り2名の不良らが何かを口にしようとするも、同じように顎に打撃を与えて昏倒させた。
異世界でギャングやら盗賊やらに襲われた際、よくやってきた技である。
帰還したばかりの頃は手加減に手こずったが、もうすっかり身体に馴染んでいた。
「こういう体感型のゲームがあったら、美月ちゃんに全勝できるかも。『不良気絶ゲーム』……あんまり売れなさそうだね」
「八雲君……?」
不良を昏倒させ、冗談めかしてぼやいている僕に月白さんが声をかけてくる。
黒髪の美少女である月白さんは恐怖からか涙目になってはいるものの、着衣に乱れなどはない。手遅れになるような事態は生じていないらしい。
「た、助けてくれたんですよね? ありがとうございます。私、急にこの人達にここまで連れてこられて、どうしたらいいか……」
「君ってさ、わりとトラブルに巻き込まれる才能とかあったりするのかな? 誘拐されたり、男に襲われそうになったり」
「えっと……?」
「いや、答えなくてもいいよ。それよりも……あまり人通りのない場所は歩かないようにね」
言い捨てて、月白さんをその場に残して立ち去ろうとする。
余計なトラブルに巻き込まれて時間を無駄にしてしまった。さっさと美月ちゃんのところに向かわなくては。
「あ、あのっ! 八雲君っ!」
「お礼はいらないから。今日、見たことは忘れてくれると助かるよ」
学校を囲んでいるフェンスを乗り越え、敷地の外に出る。
どうせ小学校に着いたら、通学カバンに入れて持参しているスリッパに履き替えるのだ。外靴に履き替えていないが……このまま上履きで行ってしまおう。
「あ……」
足早に去っていく僕の背中を、月白さんは呆然とした眼差しで見送っていたのである。
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