表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/103

31.次女はキュートな魔法少女⑥

連続投稿中になります。

読み飛ばしにご注意ください。


「うわあああああああああああああっ!?」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


 壁から飛び出してきた異形のモンスターが真緑の触手を伸ばして攻撃してきた。

 飛び退いて攻撃圏内から離れた僕はともかく、その場で硬直していたヤリサー男は触手に絡めとられて捕まってしまう。


「ヤリサー男!」


「た、たすけ……ぎゃあああああああああああああっ!?」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


 ヤリサー男が触手に飲み込まれていく。

 手足を無茶苦茶にふり回して抵抗するも、触手モンスターにはまるで効力がなく、ズブズブとその身体が消えていった。


「ヤリサー男……なんてこった!」


 体長2メートルほどの触手モンスターはどうやら見た目以上に厚みがあるらしい。ヤリサー男の身体は触手の中に完全に飲まれて見えなくなってしまった。

 ようやく良い奴かもしれないと認めはじめたというのに……何ということだろう。


「……お前のことは忘れないよ。ヤリサー男」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


 どうやら、次は僕にターゲットを移したらしい。

 触手モンスターが今度はこっちに触腕を伸ばしてきた。


「クッ……!」


 ヤリサー男に攻撃しようとしていたことで、『忍び歩き』の効果は解除されている。再発動まではクールタイムがあった。

 仕方がなしに、僕はアイテムボックスから取り出した剣で触手を切り裂いた。


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


 触手を斬った途端、紫色の煙が傷口から発される。そのガスを吸い込んでしまうと、甘い匂いと共に強烈な痺れに襲われた。


「毒……!」


 慌てて『解毒』スキルを発動させて、体内に吸い込んだ毒物を除去する。

 危ないところだった。わずかに吸い込んだだけでもあの痺れ……もしも大量に吸い込んでいたら、横隔膜や心筋まで麻痺して呼吸困難や心筋梗塞に陥っていたかもしれない。


「厄介だな……これじゃあ、迂闊に攻撃できないじゃないか……!」


 襲いかかってくる触手を躱しながら、僕は大きく舌打ちをした。

 僕が吸い込んだ毒はスキルによって除去できる。しかし、空気中に拡散した毒を施設内にいる他の人達が吸ってしまったら、どれだけの被害が出るかわからない。


「この建物には飛鳥姉だっている……いったい、どうすれば……!」


「キャアアアアアアアアアアッ!」


「何だコイツら!?」


「化け物だ! うわあああああああああ!?」


「これは……!」


 壁に空いた穴から、次々と目の前にいるのと同じような触手モンスターが現れた。

 数は10体以上。うねる粘性の腕を使ってゲームセンターで遊んでいた若者を次々と捕まえて、触手の中に取り込んでいく。


「日本はいつからこんな危険地帯になったんだ!? アッチコッチに化け物ばっかりじゃないか!」


 あまりにも理不尽な出来事に叫んだ。

 危険な異世界で魔王を倒して帰ってきたはずなのに……どうして、こんなに危ない目にばかり遭わなくてはいけないのだろう。


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「クソッ!」


 こちらに伸ばされた触手を蹴り飛ばして、触手モンスターから距離をとった。

 そうしている間にもあちこちから悲鳴が上がっている。悲鳴の中に飛鳥姉の声はないが……いつ大切な家族の叫び声が聞こえるかわからなかった。


「迷っている時間はない……全身全霊、全力で潰す!」


 僕は女神の加護を発動させた。

 発動させた能力は『正義の聖剣(モード・ミカエル)』。世界に仇なす、人類の敵を討ち滅ぼすことができる聖剣である。

 この能力を使うことができたということは、目の前にいる触手モンスターは『世界の敵』あるいは『人類の敵』ということになる。


「宇宙からの侵略者か、それとも異世界からやってきた漂流者か……どっちにしても、僕の家族を傷つけるかもしれないヤツを生かしてはおかない!」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「滅びろ! 神の怒りを喰らいやがれ!」


 光り輝く刃を叩きつけると、触手モンスターがサラサラと砂のように崩れ落ちて消滅した。

『正義の聖剣』は目の前にいる世界人類の敵に対して特攻を有する剣。この剣で斬られれば、毒ガスすら発することを許さず滅殺することができる。


「う……」


 消滅した触手モンスターの体内から、取り込まれたはずのヤリサー男が倒れ出てきた。

 生きていたようだが……その身体は酸性の薬品をかけられたように、全身が爛れてしまっている。

 体内を毒ガスで満たした怪物に喰われたのだ。これくらいで済んだだけマシと言えるかもしれない。


「……ちゃんと助けられなくて悪いね。だけど、生きていただけマシだと思ってくれ」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「1匹たりとも逃がしはしない! どいつもこいつも消し飛べ!」


 フロア内で暴れている触手モンスターを次々と聖剣で斬り裂いていく。倒された怪物の中から哀れな被害者が転がり出てくる。

 誰も彼も火傷のような傷を負っているが、食べられてから間もなかったためか、ヤリサー男ほど酷い傷を負っている者はいなかった。


「やだやだやだっ! こないでよう!」


「ッ……!」


 甲高い悲鳴にふり返ると、コインゲームの陰で襲われている女の子がいた。

 小学生くらいの女の子のすぐ前には触手モンスターが迫っており、今にも食べられてしまいそうだ。


「くっ……不味い!」


 僕はすぐさま女の子を助けようとするが、直線状に2体の触手モンスターが立ちふさがる。

 間に合わない。このままでは女の子が食べられてしまう。


「この……邪魔をするな!」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「きゃああああああああああっ!」


 目の前にいる2体の怪物を最短時間でやっつける。

 だが……その時にはすでに女の子が触手モンスターに捕まっており、体内に取り込まれようとしていた。

 すぐに助ければ死にはしないだろうが……身体に火傷を負ってしまうのは避けられない。


「クッ……!」


「やだやだやだああああああああああっ!」


 女の子の悲痛な叫びがフロア内に響き渡る。

 僕は1秒でも、一瞬でも早く女の子を怪物の体内から救い出すため、床を強く蹴った。


 だが……次の瞬間、さらに予想外の事態が発生する。


「マジカル・サンダー!」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!?」


 突如として轟音が生じて、紫色の稲妻が怪物を撃ち抜いた。

 触手に捕らえられていた女の子が床に転がり落ちて、真っ黒な炭の塊になった触手モンスターが残される。


「今のは……魔法だって!?」


 華音姉さんが使っていた陰陽術とは明らかに違う。

 それは僕が異世界で何度となく目の当たりにして、時には苦しめられる原因になった『魔法』と呼ばれる技術である。


「いったい、誰が……!?」


 雷が飛んできた方向に目を向けると……そこには、先ほど襲われていた少女と変わらない背丈の小柄な人物がいた。


「か弱い女の子をイジメる悪い子はバビュッと爆・殺♪ 地球を守る愛と魔法の戦士――魔法少女エクレア・バードここに見・参♪」


 そこにいたのは……黄色くて派手なフワッフワッなドレスに身を包んだ幼女である。

 ふんだんなレースとビーズに彩られたドレスを着た幼女は、『稲妻』のオブジェがついたステッキを振りかざして、「バビッ!」と謎のポーズを決めた。


「はあ……?」


 正体不明の幼女。

 その身体からは強烈な魔力が放たれており、触手モンスターを雷で焼き殺したのが彼女であることを証明している。

 こんな小さな幼女があの怪物を倒したのか……それも驚きだったが、それ以上に僕の心を揺さぶる事実があった。


「えっと………………飛鳥姉?」


 その幼女の顔。愛らしくあどけない顔は、間違いようもない飛鳥姉のものだった。


 日下部飛鳥。

 愛すべき隣人にして家族。日下部家の次女である20歳の彼女が、幼女化して魔法少女に変身していたのである。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ