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23.長女は美人な陰陽師⑤

連続投稿中になります。

読み飛ばしにご注意ください。


「うっ……これは……!」


「弟くん、逃げてちょうだい!」


 暴威を振るってくる吹雪に顔を顰めた僕に、華音姉さんが叫んでくる。

 彼女の視線を追っていくと……そこには雪原の真ん中に立っている老人の姿があった。


「…………」


 老人はワラで編んだ笠をかぶり、身体をミノで覆っている。

 垂れ流した長い白髪によって顔を見ることはできないが……白髪の間から覗いている不気味な単眼が僕達の姿を映している。

 さらに、老人は片脚だけで雪の上に立っており、もう1本の足はどこにも見当たらない。老人の片脚は股の中心から生えており、事故などで切断されてしまったというよりも、最初から一本足に生まれてきたのではないかと思われる。


「狛老鬼……!」


 華音姉さんが戦慄とともにつぶやく。

 どうやら、アレが姉さんと兄貴が封印したという魔物のようだ。

 不気味な雰囲気を纏った老人からはヒシヒシと強烈な威圧感が伝わってきており、この場にいるだけで圧し潰されてしまいそうだ。


『イイガルエゴコ、ガンゲンニ』


 老人の口からしわがれた声が漏れてくる。

 内容不明の声音が氷点下のように冷たく、まるで今まさに荒れ狂っている吹雪がそのまま擬人化したようだ。


『レサエキ。メジウョミンオイシマイマイ!』


「弟くん、下がって!」


「華音姉さん!?」


 華音姉さんが僕の前に飛び込んできて、盾となって立ちふさがった。

 狛老鬼の周囲に数十本の氷柱が出現して、弓矢のように殺到してくる。


「式神顕現――『胡蝶』『柏木』『明石』!」


 華音姉さんの前方に3つの光球が出現した。

 紫色の半球のドームが僕達を覆い隠し、氷柱から守ってくれる。


「クハアッ……!」


 しかし、攻撃を防いだはずの華音姉さんが高い声で喘ぎを漏らす。ドームに氷柱が刺さるたび、ビクビクと身体を震わせて痙攣をする。

 よくよく見てみれば、華音姉さんの玉のような肌にいくつも傷が付いており、赤い血が流れ落ちていた。


「そんな……姉さん! やめてくれ!」


 理屈はわからないが、ドームが攻撃を受けるたびに華音姉さんがダメージを受けていた。姉さんが身を挺して僕を守ろうとしているのがハッキリとわかる。


「ダメ、ですよ……弟くん。前に出ちゃダメ……!」


「僕だったら大丈夫だ! 僕は守られなくちゃいけないほど弱くない! だって僕は……!」


「知ってますよ……」


「え……?」


「お姉ちゃんは、知ってる……弟くんは、あの日を境に急に変わったことを……魂の光が強くなったから、すぐにわかりました……」


『あの日』というのは、異世界に勇者として召喚されて帰還した日のことだろう。

 まさか……気づかれているとは思わなかった。異世界に行っていたことまでは知られていないと思うのだが。


「それでも……お姉ちゃんは弟くんのお姉ちゃんだから。玲さんの代わりに、あなたを守らせて欲しい……わたしが、お姉ちゃんのせいで、玲さんは死んでしまったから……」


「ッ……!」


 華音姉さんのせいで兄貴が死んだとはどういう意味だろうか。

 問いかけようとするが……華音姉さんが振り返り、その横顔が僕の目に飛び込んでくる。


「姉さん……!」


 振り返った華音姉さんの顔は、まるで処刑台に上らんとしている聖者のようである。

 死を覚悟した顔。我が子を守らんとして血の一滴、肉の一欠片まで差し出そうとする慈母の顔だった。


「……ふざけろよ」


 プツリと頭の奥で何かが切れる音がした。

 兄貴がどうして死んだのか。華音姉さんがどうしてここまで自分を追い詰めているのか。

 何もかもがどうでもいい。そんなことよりも、華音姉さんを傷つけようとしている全ての者に対して激しい怒りが湧いてくる。


「ここで姉に身体を張らせて、守られてるだけなんて男が廃るにも程があるだろ……!」


 弟は姉よりも後に生まれてくる。

 だけど……最後には姉の背を追い抜かして、大きく成長するのだ。


「これからは僕が守る。2度とあなたを傷つけさせたりはしない!」


「え……?」


 僕の右手を白い光が包み込む。

 光はやがて形を成して、質量を持った物体として顕現する。


「華音姉さんを守れ……『慈愛の弓矢(モード・ガブリエル)!』」


 純白の弓矢を手にして、僕は華音姉さんの前に躍り出た。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一生懸命、喋る前に考えた文章を逆さまにしなおしてるおじいちゃんかわいい
[一言] 主人公よわw
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