17.三女は可愛いサイキッカー⑨
連続投稿中になります。
読み飛ばしにご注意ください。
「さて……それじゃあ、さっさと帰宅するとして……」
その前に、一応は風夏の仲間らしき連中に挨拶しておくとしようか。
銀色の巨人によって屋根を突き破られたラブホテルであったが……その最上階部分にトレンチコートとキャリアウーマンさんの姿があった。
「や、無事でよかったね」
「あ、アンタは……!?」
トレンチコートが顔を引きつらせ、化け物でも見るような目を向けてきた。
「そんな顔をするなよ……まあ、アッチの世界では慣れた目だけどな」
僕が召喚された世界にも、勇者である僕を怪物のように扱っている人間がいた。
自分が命を救ってあげた連中にそんな目を向けられるのは心外だったが……もう慣れたものである。
「僕は妹を連れて帰るから。あとはそっちで適当に何とかしてくれ」
「…………わかった」
トレンチコートがかなり長い沈黙の後で、渋々といったふうに頷いた。
あちらからしてみれば、僕に聞きたいことは山ほどあるのだろう。しかし、初対面であり風夏を危ないことに巻き込んだっぽい連中の疑問に答えてやる義理はない。
それでも、風夏が心配そうな目をしているから、アイテムボックスから数本のポーションを取り出して渡しておいてやる。
「この薬を飲めば大抵の怪我はすぐに治るから飲んでおくといい」
「…………」
「それじゃあ……そこ、すぐに崩れるから逃げたほうがいいぞ?」
「は……?」
「じゃあな。良い夜を」
僕は風夏を抱いたまま、有無を言わせず飛び去った。
その数秒後……銀色の巨人によって天井やら床やらぶち抜かれていたラブホテルが、ガラガラと音を立てて崩壊する。
「ヒンッ!? ゆ、勇治っ! ホテルが、みんながっ……!?」
「まあ、大丈夫だろ。アッチは大人なんだから勝手にどうにかするって」
服の胸元を引っ張ってくる風夏に気軽に応えながら、そのまま自宅の方向に向かって飛んでいく。
実際、トレンチコートもキャリアウーマンさんも死んではいないようだ。
気配を探ってわかったことだが……あの着ぐるみのイケボが仲間を引き連れて脱出させたらしい。
「やるな……今川くんめ。アイツだったら、僕が手助けしなくてもあの変態に勝てたんじゃないか?」
「んんっ…………ゆ、勇治」
「ん?」
「さっきのことだけど……その、色々と秘密にしててゴメン」
「秘密って……?」
「……わ、私の力のこと。ずっと黙ってたから」
ああ、謎の異能力バトルのことか。
確かに風夏におかしな力があって内緒にされていたのには驚いたが……。
「まあ、しょうがないんじゃないか? 僕だってこの力のことは黙ってたし」
僕は軽い調子で肩をすくめた。
誰かに秘密を明かすということは、その相手を自分の事情に巻き込むということでもある。僕が四姉妹に対して異世界召喚の件を黙っていたのも彼女達を巻き込みたくないからだった。
風夏が超能力や謎の結社について秘密にしていのも、僕と同じ理由だろう。
「僕も風夏と同じだよ。だから謝りっこなしだ。聞きたくなったら話すし、話したくなったら聞く。だから……とりあえず気にするな」
「…………」
「秘密があろうとなかろうと、一緒にいられるのが『家族』じゃないか。僕は無理に事情を訊いたりしないから安心しておけよ」
「…………ん、ありがと」
風夏が小さくお礼を言いながら、僕の胸に頭を押しつけてくる。
照れているのだろう。顔も赤かったし、涙で瞳も潤んでいた。
僕は顔を隠した風夏の身体を抱きしめて、夜空を背景に飛んでいく。
人から見られたらわりと一大事な光景かもしれないが……まあ、高度を上げれば問題ないだろう。
下では救急車やらパトカーやらがサイレンを鳴らしており、崩落したラブホテルに向かっていく。何らかの能力で張られた結界のおかげで先ほどの戦いは見られていないと思うが、建物の崩壊までは隠しきれるものではない。
「まあ……僕が気にすることではないか」
騒ぎの終息はトレンチコートらに任せるとしよう。僕は知らん。
そんなことよりも、今日の晩御飯は何だろうか?
トンカツなどの揚げ物だったら最高。ハンバーグ、カレーやシチューもいいな。
華音姉さんの手料理はぜんぶ最高。何が出てくるのか楽しみだ。
「はあ、はあ、はあ……」
「ん……風夏?」
などと考えながらウキウキと空を飛んでいたが、ふと風夏が押し殺した息を繰り返していることに気がついた。
慌てて近くのマンションの屋上に着陸して風夏の状態を確認すると……肌が不自然に紅潮して、呼吸も荒くなっている。
「おいっ!? 大丈夫か、どうした!?」
「ゆ、ゆうじ……」
風夏が弱々しくうめく。
明らかな異常事態だ。毒は先ほどスキルで除去したはずなのだが……とりあえず、取り出したポーションを飲ませておく。
回復効果のある緑の光に包まれるが……風夏の状態に変化はない。依然として肌を真っ赤にしたままである。
「スキルやポーションでも浄化できない毒……!? あの変態野郎、風夏にいったい何を……!?」
「ゆ、ゆうじ……ゆうじいっ……!」
「大丈夫か、風夏! しっかりしろ」
「勇治……わたし、おかしいの。身体が熱くてもぞもぞして……へんなの、変になっちゃったの……!」
「へ……?」
風夏がギュッと僕の胸に抱き着いてきて、ハアハアと荒い呼吸を繰り返す。
潤んだ瞳は爛々と輝いており、制服のスカートに包まれた両足をモジモジとこすり合わせている。
「まさか……」
これは……アレじゃないか。
ひょっとして……………………発情してる?
「そういえば……あの変態の触手に媚薬を塗り込まれてたな」
『解毒』によって毒物は除去されたが……このスキルは意外と効果が大雑把だったりする。
肉体に直接的に害になる『毒』はしっかりと浄化してくれるのだが、命の危険のない『薬物』は種類によっては消えないこともある。
向こうの世界でも似たような場面に遭遇したことがあるが……そもそも、『発情』というのは別に悪い状態ではないのだ。子孫を残すのは種族生存のための本能だし、性行為そのものは健全なことなのだから。
それを踏まえて風夏の状態を判断すると……肉体の害になる毒は消え去ったものの、種を残そうという本能に裏付けされた発情効果の一部だけが残ってしまった。
激しい戦闘行為に気をとられている間は我慢できたものの、戦いが終わって安心した途端に身体の疼きに耐えられなくなってしまったのだろうか。
これはスキルや魔法ではどうにもならない。
重ねて言うが、向こうの世界でも同じような場面に遭遇した。媚薬を発するエロ触手モンスターや、魅了の力を持った淫魔と戦ったこともある。その被害者を救助したことも何度かあった。
あの時はどうやって解決したかというと……。
「いっそのこと、ラブホでしてきたらよかったかな…………うん、ごめんね?」
「ふやあんっ……!」
先に謝罪をしつつ……僕は制服に包まれた風夏の胸元に手を伸ばした。
誰もいないマンションの屋上に少女の喘ぎ声がこだまする。
本番はしていない。
これはあくまでも治療行為なので、許して欲しいところである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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