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エピローグ

エピローグ


 またしても町を救ってしまった僕は日常に帰還することになった。

 相変わらず隣の日下部家に入りびたり、食事をごちそうになったり、お泊まりをしたりする毎日の再開である。

 ムス太という黒幕が倒されたことにより、3つのギャングの抗争は終わることになった。

 市長が行方不明となったことでそれなりの騒ぎが起こったようだが、僕は詳しくは知らない。未成年の僕の知らないところで選挙が行われ、いつの間にか次の市長が生まれたようである。

 ムス太がどんな目的で3つのギャングを潰そうとしたのか、あのパワーアップしたときの薬は何だったのか……謎は残っているものの、それを調べるのは僕ではないだろう。3つのギャングのボス達が調べていることだし、後は任せることにした。

 これからは3つのギャングは暴力ではなく、話し合いと調和によって町を治めていくとのことだ。色々とぎこちない部分はあるだろうが、次代のトップである3人の少女が和解していることだし、きっと大丈夫だろう。


「弟くん、私の下着を知りませんか? お気に入りの花柄のものなんですけど」


「……知らない」


 華音姉さんの問いに僕は目をそらして答えた。

 華音姉さんは「ふーん」と何故かニマニマと笑って、特に追及することなく僕のことを見逃してくれる。

 それどころか、朝、目を覚ますと枕元に使用済みの下着……パンツだけでなくブラジャーまで、置かれるようになった。

 理解のありすぎる姉を持つと苦労するものである。おかげで朝に元気になった息子の処理がはかどって……いやいやいや、それはどうでもいいのだけど。


「かくして、世界は平和になりましたとさ……」


「何を言っているのよ、勇治」


 日下部家のリビングでテレビを見ながらつぶやくと、隣に腰かけている風夏が怪訝な目を向けてくる。

 時間は夕方。華音姉さんは夕食の準備をしており、飛鳥姉は筋トレ後のシャワーを浴びていた。

 美月ちゃんはというと僕の膝に乗って寛いでいる。小学生女子を膝に乗せた高校生男子……他人に見られたら面倒ごとになる構図である。

 時折、膝の上の美月ちゃんが僕の身体を手で撫でてきたりするのだが……邪術を教えてもらったことへの借りもあって拒否することができず、されるがままになっていた。


 何はともあれ、平和である。

 これからも四姉妹と過ごす日々は続いていくのだろう。

 3つの怪物ギャングの抗争を止めることができなかったら、こんな平和もなかったかもしれない……そう思うと、胸に達成感がこみ上げてくる。


「ん……来客かな?」


 ピンポーンと間延びした電子音が鳴り響く。インターフォンの音である。


「ごめんねー、誰か出てくれるー?」


「む……」


「…………」


 台所から華音姉さんの声が聞こえてきた。

 僕と風夏は無言で視線を見合わせて、ジャンケンをする。


「チェ……」


「はいはい、早く行ってきてねー」


 ジャンケンで負けた僕は美月ちゃんを下ろして、玄関に向かう。

 玄関に行って扉を開くと、そこには見覚えのある3人の美少女が立っていた。


「月城さん……それに君達は……」


「こんにちわ、急に訪ねてきて申し訳ありません」


「よお、元気か」


「……どうも」


 現れたのは月白真雪、伏影ナズナ、有楽院ツバキの3人だった。

 休日ということもあって私服の3人は僕に向けて、どこか含みのある笑みを向けてくる。


「ご自宅にいなかったんですが、ご近所の方にこちらにいるだろうと聞いてきました」


「ああ、それは手間をかけたね。それで……何の用かな?」


「改めて、お礼を申し上げに来ました。このたびは本当にお世話になりました」


 月白さんがペコリと頭を下げると、後ろの2人もそれにならう。


「おかげさまで父達が和解することができました。戦争は回避されて、町が無茶苦茶になることもありませんでした……まあ、裸にされてヒドい仕打ちを受けましたけど」


「正直、アンタに組織はつぶされてることだし、戦争が起こってないかと言われると微妙なんだがな……だけど、感謝はしてるよ。このドスケベ野郎」


「先輩はスケベな変態ですけど、まあ、お礼は言ってあげますよ。ありがとうございましたー。変態な仮面さん」


「……あまり感謝されてるようには聞こえないんだけど?」


「「「当たり前です(だ)!」」」


 三人が口をそろえて言い放ち、思い切り睨みつけてきた。

 どうやら、彼女達を助ける過程で色々とエッチなことをしてしまったせいで、嫌われてしまったようである。


「……まあ、別に良いけどね」


 僕は嫌われたって良い。

 三人が仲良しに戻ることができたのなら、それで十分だ。

 僕が恨まれ役を引き受けることで彼らが救われるのなら……それ以上は何も望まない。


「……何をあえて嫌われることでみんなのために尽くしている悪役を気取っているんですか? 八雲君がやったのは普通に変態行為ですからね?」


「……はい。反省しています」


 月白さんの手厳しい言葉に僕はうなだれた。

 だって仕方がないじゃないか……邪力を使うためには欲望を解放しなくてはいけないのだ。エッチなことをしなければ、あの力を使いこなすことはできないのだ。


「それは悪かったよ。これからは気をつけるから許してくれ」


『これから』と口にしたものの、彼女達と関わることはほとんどないだろう。

 伏影ナズナと有楽院ツバキとは学年も異なっており、学校で関わることはほとんどなかった。

 月白さんはクラスメイトなのでまだ関係はあるが、決してクラスでも親しいということはない。せいぜい、挨拶をするくらいの相手だった。

 きっと僕と彼女達は人生で少しだけすれ違って、そして分かれて2度と会うことのないような相手なのだろう。

 たとえ一時だけでも彼女達に関わって、危機を救うことができたことを嬉しく思った。


「ん……?」


 ……などと感傷に浸っている僕であったが、ふと彼女達の後ろにおかしな光景が見えた。

 3人の背後……家の前の道路にトラックが停まっており、業者らしき作業着の男女が段ボールを下ろしていたのである。


「えっと……後ろの人達は何をしてるのかな?」


「ああ、申し訳ありません。説明が遅れてしまいましたね」


 僕の問いに月白さんがにこやかに笑う。

 上品な笑顔であったが、不思議と底冷えのする『圧』のある笑顔だった。


「今日から八雲君の家でお世話になりますので、よろしくお願いいたします」


「へ……?」


 思いもよらぬ言葉に僕は固まった。

 硬直した僕の視線の先……業者さんがトラックから降ろした段ボールを僕の家、つまり八雲家に運び込んでいる。


「お世話にって……え、ええ? 僕に? 僕の家に?」


「はい、そう言っています。今日から私達3人……八雲君の家に住ませていただきます。ああ、鍵は勝手に開けさせてもらいましたよ。ウチの若い者にそういうのが得意な人がいますから」


「ちゃんと家賃と生活費はは払いますから心配すんな。家事だってオレ達で分担するからよ」


「ナズナさんに家庭的なことができるとは思えませんけどねー。どうせ真っ黒な炭になった卵焼きが出てくるとか、ベタなことをやるんでしょ?」


 伏影ナズナ、有楽院ツバキまでもがそんなことを言う。

 2人がギャアギャアと口論を始めるものの、僕はあまりのことに呆然としてしまって、そんな会話も耳に入っていなかった。

 かなり長い時間、固まってからようやく絞り出すような声を発する。


「な……なんで?」


「何でと言われましても……あんなことをしたんですから、責任を取ってもらえますよね?」


「せ、責任……?」


「はい。裸にされてあちこち舐め回すようにして触られて……とてもではありませんが、お嫁にいけない身体になってしまいました。責任を取ってもらい、私達3人とも八雲君にもらってもらうことになりました」


「一夫多妻だぞ。まあ、ウチの業界じゃ珍しくもねえな」


「厳密には1人が妻で残りが(めかけ)さんということになりますね……あーあ、ツバキちゃんの人生終わっちゃいましたよーだ」


「…………」


 僕はあんぐりと口を開けたまま再び固まった。

 そうこうしているうちにも月白さんが説明を続ける。

 僕の能力があまりにも危険だと危惧されて、監視役として送り込まれたとか。

 大天狗に代わって新たな調停役になってもらい、組織間のバランスをとって欲しいとか。

 今回の抗争の背後には未知の組織の存在があり、彼らに対抗するためにも僕の力を確保しておきたいとか。

 色々と話してくれたような気がするが、ほとんど頭に入ってこなかった。


「弟くん……今の話、どういうことですか?」


「げっ」


 僕が再起動したのは、背後から背筋が凍えるような声が聞こえてからである。

 ギギギギッと油を差していない機械のように首を巡らして振り返ると、腕を組んだ華音姉さんの姿があった。

 華音姉さんの背後には目を吊り上げた飛鳥姉と風夏、無言で圧力を駆けてくる美月ちゃんが立っている。


「説明してもらいましょうか、弟くん」


「ユウってば私達以外にも手を出したんだー。フーン」


「勇治、正座しよっか?」


「…………」


 前門の怪物美少女。後門の美人四姉妹。

 凄まじいまでの美女・美少女に囲まれて、僕は無言で天を仰いだ。


「良い天気だな……」


 どこまでも澄んだ空が皮肉のように見下ろしており、僕は力なく顔を引きつらせて笑うのであった。




おしまい


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