第七話
昨日の記憶がない。
記憶はないが、腹の辺りが強烈に痛む。
見ると、やけどの痕が残っていた。
いったい俺は何をしでかしたのだろう。
まったく思い出せない。
一日飛んで次の日になっていることは、一ヶ月に一度ぐらいある。
ちなみに前回は朝起きたら引っ越しの準備が始まっていた。
あの日の前の日、きっと、俺は学校に行っているはずなのに、何をしたのか覚えていない。
気になるので、母親に連れられて半年に一回は病院に通っている。
軽度の記憶障害らしい。
厄介な病気だ。
面倒ではあるが治療のために、毎月、この症状が起こった日付をメモしてある。
しかし、今日みたいに腹に傷があったことはない。
記憶を失っている間に、俺は動き回っているのか。
何か危険なことに巻き込まれているんじゃないか。
まったく、何も、昨日の情景は浮かび上がってこない。
こんなに大きなケガをしているのだから、何かしらあったに違いないのに、思い出せない自分自身が気持ち悪い。
起き上がろうとして、うめき声をあげる。
そのままベッドから転がり落ちて、傷口を押さえて動けなくなってしまった。
そんな俺を、ふたりが見ていた。
手を差し伸べてはくれない。
なかなかひどい。
ひとが苦しんでいるというのに、何か手当てをしてくれるわけではなさそうだった。
淡い期待を打ち砕いて、残酷な礫が投げつけられる。
人間はどこまでも非情で、弱者に対して手厳しい。
希望は現在や過去には存在せず、未来にある。
「ほんとうのことを話すね」
母親が、そんな一言を吐き出した。
横に立っているのは、なぜか、神影明理。
いつもつけている、へんちくりんなブレスレットはつけていない。