第六話
ゆうちゃんと別れてあー土日なにやろうかなーなんてぼんやり考えていた矢先。
学校内ではいちばん近くにいて、いちばん気になる存在がそこにいた。
なんで今週の最後にこのひとの顔を見なければならないのか。
こんな日にかぎって、あのブレスレットを家に忘れてきている。
ついていない。
カバンの中から折りたたみ傘を取り出してさした。
視線が痛い。
「なにか?」
ここで無視すればよかったのに。
低気圧で頭が痛いわたしは、ついつい喧嘩腰になってしまう。
あとで冷静になって思い出すと、これが香春隆文との最初の会話だった。
「すごい柄だなと思って」
通信販売で購入した【かみなりにあたらない傘】にいちゃもんをつけられる。
だって雷怖いじゃん。
危ないじゃん。
柄はどうでもいいし、これで護られるなら安いし。
「いまかみなり落ちてきたらもれなく香春に当たるんだからね!」
なにむきになっちゃってるんだろう。
全部雨のせいだ。
香春はポケットから何やら小さなテレビみたいなものを取り出して、その画面を見ている。
なんだそれ。
トウキョーにはそんなおもちゃがあるのか。
田舎だからって馬鹿にしよって。
くやしくなんかないもん。
「あのさ」
都会っ子に対するもやもやでパニック寸前。
雨はさらに強くなってきている。
こんなになるならさっさと帰ればよかった。
「もうじき母親が車で来るんだけど、神影、乗ってく?」
いったん頭が急速冷凍される。
イマナンテッタ?
「わたしのこと、神影って?」
確認する。
ゆうちゃんはわたしのことを『ようせいさん』と呼ぶし、周りも倣って『ようせいさん』と声をかけるから、神影と言うのは先生ぐらい。
「神影じゃなかったっけ? 引越しばっかりだから、名前覚えるの苦手で」
いやいや、間違いじゃない。
首を左右にぶるぶる振る。
言い訳しなくていいよ。
合ってるんだけどさあ。
「神影だけど!」
何、慌ててるの?
香春がきまずそうな顔をして、「そ、そう? わかった」と言ってくれた。
うわー、はずかしー。
逃げよう。
「乗ってかないから!」
言い捨てて、走った。
折りたたみ傘がおちょこになっているのも気にしない。
今日が金曜日でよかった。
これで明日も学校だったら何言われるか。
後ろのほうから「車で送ってやるって言ってんのにー!」といった内容の叫び声が聞こえた。
大きな物体を上から叩き落としているような雨音のなか。
わたしは、親切を見捨てて、「うるせー!」と吠える。
雷には打たれなかった。
雨にはずぶ濡れにされて、めちゃくちゃ怒られて、超へこむ。
なんで断っちゃったんだ。
それも含めて、ついていない日だった。
くしゅん。