97.大切な物
コルシユゥの南端。スラム街と呼ばれる地域にわたし達は来ています。
「本当にここ、同じ町……なんですか?」
辺りをきょろきょろ見回して、そう感想を述べるリベアにわたしも同意します。
「ええ、残念ながら同じ町なんですよ」
草木は枯れて土地は痩せています。辺りは既に殺風景となっており、目の前には荒れ果てた土地が広がっていました。
並び立つ建物の外装はボロボロ、それでいて人が住んでいるというのですから驚きです。
「あーー」
「あれはあまり見ないように」
「はい……」
生きてるのか死んでるのか分からない人が建物の壁を背にして座り込んでいます。髪はボサボサ、髭は伸び放題で人相はよく分かりません。時折声を出しては、言葉にならない呻き声をあげています。
(臭いも最悪ですが、ここはまだマシな方でしょう)
道端に死体が転がっているということは流石にありませんが、魔族と戦っていた頃はそれが普通だったと聞いています。
師匠と修行の旅をしていた頃、一度も見かけなかったのが不思議なくらいです……おそらく意図的にそういう場面から遠ざけられていたのでしょうが。
いやー平和になって本当によかったですね。ユウシャサマ、マオウタオシテクレテ、マジカンシャ。
「し、ししょう……むがっ!?」
この漂う空気に耐えきれなくなったリベアが抱きついてこようとしますが、咄嗟に彼女の口を押さえそれを制します。
「しっ! リベア、ここでは出来るだけ堂々と振る舞ってください。余計な荒事を回避するためにも自分達が強いという認識を相手に与える必要があります」
「相手って誰ですか?」
「わたし達のことを先程からギラギラした目で見ている連中の事ですよ」
キッと顔を上げて、ボロボロの家の屋根の上でたむろしている連中を睨みつけます。
彼等を見て、隣にいる弟子の息を呑む音が聞こえます。繋いでいる右手に力が込められました。
ふうっと一つ息を吐き、わたしは杖を片手に、笑顔で『なんか用ですか? なかったらとっとと失せろこんにゃろー!』オーラを放ちます。
するとどうでしょう。『ちっ』と短い舌打ちが聞こえ、左目に縦の傷が入っている男が両手を上げて嗤笑を浮かべると仲間を連れて立ち去っていきました。
「なんだったんですか今の?」
緊張が解けたのか、リベアがふはーっと深い息を吐きます。
「身なりの良さそうなわたし達を狙った三流の誘拐犯達ですよ。物分かりがよくて助かりました。さて、あのババアはどこに。ちょくちょく店を構える場所を変えるから探すのが大変なんですよね」
「お婆様? 師匠のお知り合いの方ですか?」
「正確にいえば私の師匠の、ですけれどね。色んな情報に精通しているのでこういう時には頼りになります。性格には難ありですけれど」
「性格に難……それって、ソフィーさんのお母様みたいなですか?」
「うーん。あの人とはまたタイプが違いますね。まあ会えば分かりますよ」
◇◇◇
それから二人でてくてく歩いていると、前方で何かを焼いている人を見かけました。
「あ、この匂い。お芋ですね!」
リベアがスンスンと鼻を鳴らします。
(ふむ、あれは焼き芋ですね。焼いてる男性の髪や髭はある程度整えられてますし、話が通じそうです。ババアについて少し聞いてみますか)
こういう人探しは現地の人に聞くのが一番です。という訳で目つきの悪い男性にビクつく弟子を連れて声を掛けに。
「すみませーんそこの人ー。ちょっといいですかー?」
「…………」
無視されました。こちらの声は聞こえてる筈なんですけどね。
「お兄さんー。聞いてますー? あ、意外と体がガッチリしていてイケメン。ほら可愛い女の子が声を掛けてるんですよー? ねー聞こえてますよねー? お金欲しくないんですかー?」
お金という言葉にピクリと反応する男性。現金なやっちゃ。
「何が聞きたい?」
男性はぶっきらぼうにそう言います。愛想がないですねー全く。
「この辺で占いをやってるお婆さんを知りませんか? 片眼鏡を掛けてて、超目立つ紫色のローブを着込んでる筈なんですが」
「……ここから三つ先を行った通りを左に行け。この時間ならそこで店を構えてる――金貨一枚分だ」
「ご協力感謝します」
彼のごつごつした手を握り、銅貨と銀貨を何枚かプレゼント。彼は渡されたお金を黙って受け取り、数を数え始めます。
確認が終わるまで待った方がいいですね。あとで揉め事になるのは勘弁ですから。
「どこかに座っていましょ――」
その時です。近くの路地裏から飛び出してきた少年がリベアに体当たりをかましてきました。
「いたっ!」
「リベア!」
よろめく彼女を抱き抱えた時には、少年は路地裏へと消えていました。
「大丈夫ですかリベア。怪我は?」
「ありません……あ!」
「り、リベア?」
立ち上がったリベアが身体を探り、ない、ない! と声を上げます。
「何がないんですか?」
「ないんです! ポシェットが、師匠から貰った大切な指輪を入れておいたポシェットがないんです!」
「……すられましたね」
「すられた? 誰に……さっきの子供!」
「――っ、待ちなさいリベア! 勝手な行動は」
リベアは制止するわたしの腕を振り払い、少年を追おうとします。
伸ばした手はあと数センチ届きませんでした。
わたしも立ち上がり走り出そうとした所で、誰かに肩を掴まれます。すごい力……一瞬で身体強化されたものだと分かりました。
振り返ると、後ろにいたのは情報料の確認を終えた男性でした。
「……金貨一枚分、ちゃんと渡しましたよね?」
「…………」
黙ったまま、男性は犬ころみたいにお手をしてきます。
リベアを早く追いたかったら、もっと金を寄越せということなんでしょう。
「ほらっ! これで十分ですよね」
「……まいど」
全身を舐め回すような視線を受けながら、渡すつもりの無かった金貨を数枚手渡すと男は一瞬驚いた様子でしたが、もう引き止めるつもりはないようでした。
「リベアっ!」
振り返ると、もうそこに弟子の姿は見当たりませんでした。
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