94.うちの弟子が一番かわいい
宿に戻って一息。ぜえぜえと荒い息をする魔法使いがいます。
リベアが街の観光中に体調を悪くして、先に宿へ帰ったという話をフィアから聞かされたわたしは超速で仕事を終わらせここまで走ってきました。
「あー久しぶりに全力で走りました」
「素で走られるとフィアの方が体力あるんですね」
漁港から宿までそこまで遠くない距離とはいえ、フィアは少しも汗をかいていません。その反面、わたしの額からはだらだらと汗が流れていました。まぁみっともない。
「これをお使いください」
「ありがとうございます。引きこもり生活が祟りました。体力が落ちまくってますよ」
受け取ったタオルで顔を拭き拭き。
街中で身体強化するわけにはいかないので、魔法で楽せず走ってみたのですが、見ての通り脇腹が痛くなってしまいました。師匠がいたら笑いもんですね。
「リベアは大丈夫でしょうか?」
「ソフィアによればお部屋で休んでらっしゃるとの事です」
「そのソフィアは?」
「宿の女将さんに言って、食べやすい物を用意してもらっているみたいです」
「なるほど、気配りが上手ですね。ソフィアは将来立派なお嫁さんになるでしょう。子供の世話とか好きそうです」
「分かります。本人に言ったら顔を赤くして怒られるでしょうけどねー」
「ですねー」
「――誰が立派なお嫁さんになるって?」
「ひゃっ!? そ、ソフィア?」
噂をすればなんとやら。軽食が乗せられたお盆を持ったソフィーが背後に。
一体いつの間に……隠密スキルでも獲得したんですか?
「お嬢様は気配を隠すのがお上手ですね」
「ええ、ティルラ限定になってしまうけどね」
「あれ、フィア。もしかしてソフィアが来ていること知ってて話振りました?」
「さてなんのことでしょうー? フィアにはむずかしくてよくわかりませーん」
ほっぺに人差し指を当て、こてりと首を傾げます。
あざといっ! この子、あざと過ぎます!
「それよりティルラ。あんたいつもやる事が極端なのよ。本当のコミュ症だったらまず話しかけにもいかないわ」
「わたしは行動力のあるコミュ症ですから」
「余計にだめよ。そんなんだから急な行動を取ったあんたにリベアちゃんだって驚いていたし、漁師さん達と簡単に打ち解けるあなたを見て落ち込んじゃったのよ」
「フィア達の会話が聞かれていたのも不味かったですね……」
「そうね……あの子も色々あったみたいだから」
二人ともリベアが今の両親の本当の子供でないという事は、彼女本人の口から聞いています。
この村で保護される前の記憶がない事もあり、その辺りの話はしない事になっているのです。大事なのは過去ではなく今ですから。
「二人はリベアが体調を悪くした原因を知ってるんですか? なら教えてください」
「それはいいけど……あんた自分の弟子が体調を悪くしたらすぐに飛んできなさいよ! リベアちゃんが可哀想でしょう!」
「うぐっ。でも一度請け負った仕事はちゃんと最後までやるべきだと思いまして……それにソフィアがついているので大丈夫だと」
「……っ、はぁ。信頼してくれてありがとう。そういう所があんたの美点でもあるからね。リベアちゃんも分かってくれていたようだし」
「それは良かったです」
とりあえず弟子が理解してくれているようでなにより。
「ふふっ。それにしても今日のティルラさんの仕事ぶりには驚きました。他の人の何倍も働いていましたよね?」
「いやそれに関しては自分でも分かってますけど、まさかあそこまでこき使われるとは思ってもみませんでした。お陰でくたくたです」
「休む前にもう一仕事していきなさい」
「分かってますよ。これはわたしの仕事ですから」
彼女からお盆を受け取り、二人から事情を聞いた後リベアが休んでいる部屋へと向かうのでした。
◇◇◇
今回借りた部屋は3部屋です。一つはソフィーとフィアの部屋。貴族とそのメイドである二人が一緒の部屋なのは、二人がこの捜索期間中友人設定だからです。
反対にわたしとリベアは一部屋ずつ借りています。部屋を離す事に断固反対したリベアを説得するのは中々大変な事でした。
「リベアー! 入っていいですかー? あなたの大好きな師匠が来ましたよー。はい、開けますよー」
ドアに鍵は掛かっておらず、すんなりと中に通してもらえました。
おやおや、これは思ったより重症ではないのでは?
「……ししょう? あれ鍵は?」
「鍵なら元から掛かってませんでしたよ」
「そう……でしたか」
部屋に明かりは付いておらず、弟子はベットの隅にうずくまっていました。どうやら鍵を掛け忘れるほど重症のようです。
「リベア。二人から話を聞きました。その上で言いますがわたしはリベアが思うような大層な人物ではありませんよ」
「師匠?」
よっこいせっと彼女の隣に腰をおろします。ちょっとだけビクッとしましたが、暫くするとわたしに身体を預けてきました。
「わたしは不器用ですし、基本的に人付き合いが苦手です。今わたしが普通にしていられるのはリベアが、皆さんが側で支えてくれているからです」
「はい」
わたしは弟子に包み隠さず自分の想いを伝える事にしました。あ、恋愛的な意味ではないですよ!
リベアは目を閉じたまま、じっとわたしの話に耳を傾けているようでした。
「わたしの事を支援してくださる人がいなければ、仕事場から追い出されたわたしはただの厄介者、又は変人ですし、この国に居場所はなかったでしょう。ロフロス村に来た時だって不安でいっぱいでした。村人に受け入れてもらえなかったらどうしようとか、変な目で見られるのかな? とか考えていました。もし本当にそうなっていたらきっとどこか別の国に行っていたと思います。でもそうはならなかった。あなたがわたしと村の橋渡し役になってくれたからですよ」
「そ、それは違います! 師匠が来てくれたから私は村の人に受け――んぐっ!?」
立ち上がったリベアの口を強制的に塞ぐと、弟子はそのままもぐもぐとお粥を呑み込みました。
よしよし、ちゃんと食べてる食べてる。
「リベアは今お腹が空いてるんだね。だから変なことを考えちゃう。しょうがない子だ。今日は特別に師匠が食べさせてあげます。はいリベア、あーん」
「そんな……師匠はずるいです。私がそれを断るとでも思ってるんですか?」
「ふふ、断らないよね。だってわたしの弟子は私の事が大好きなんだから」
「ふえっ……ぐずっ。いいんですか師匠、こんな私が側にいて?」
「いいもなにも、誰が駄目だなんて言った? リベアが勝手に考えて勝手に思い込んじゃっただけでしょ? 確かに弟子になりたいと言ってきたのはリベアの方。でもそれを認めたのはわたしだよ。勘違いしないで。いくら家事全般を代行してくれるって言っても、賢者としての素質がなければわたしはあなたを正式な弟子として取ったりなんてしない――だからあなたは堂々とわたしの弟子を名乗ってればいいのです」
「――っ、はい師匠ー!!」
「おっと!」
ガバッと抱きついて、すりすりしてくる弟子。すっかりいつも通りです。
「もう大丈夫そうですね。明日から本格的な捜索ですからこれを食べたら今日は早めに休んでください」
「はい!」
宣言通り全部あーんして食べさせてあげたあと、弟子が寝付くまでそっと手を握ってあげる師匠でした。
「不安にさせてしまいすみませんね。あなたはわたしの立派な一番弟子ですよ」
部屋を出る際、そんな言葉を投げ掛けるともぞりと毛布が動きました。まだ起きていたみたいですね。
「おやすみ、リベア」
「…………おやすみなさい。師匠」
くるまった布団から声が返ってきます。やっぱりうちの弟子が一番可愛いなと思いました。
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