93.いつの時代も賢者は人に好かれやすい
前半はティルラ、後半はリベア視点となります。
「これは一体どういうこった……魚が宙に浮いてやがる」
呆気にとられる漁師さん達の元に、一人の美少女魔法使いが登場します。
「わたしの魔法ですよ漁師さん。遠くから見ていましたが先程は我が弟子に良くして頂きありがとうございました。これはほんのお礼です」
急に現れたわたしに驚く親方さんでしたが、少し離れた所で苦笑しているリベアを見て合点がいった様子。
良かった良かった。これ以上なんて言えばいいのか分かりませんでしたから。やっぱり知らない人と話すのは緊張しますね。変な人と思われない様に気をつけませんと。
「こいつは助かる。魔法使いってやっぱ凄いんだな。こんな巨大魚を軽々持ち上げるなんてよ」
「まぁ人によりますけどね。わたしの場合、巨大魚一匹程度なら朝飯前ですよ」
なにせリベアと二人がかりで運んだソフィーの引っ越し荷物の方が断然多いし重かったですから。
こっちに住むわけですし、屋敷から持ってくる荷物が多くなるとは当然分かってはいましたが、まさかあれ程とは……特に服と化粧品、あと仕事で使うその他。いやーわたしとは何もかも大違いです。
あ、でもわたしも屋敷に残してある家具や実験や研究で使う道具を一通り揃えたら、そのくらいになるかもですね。
(どちらにせよ、わたしには【次元収納】があるので重さなんて関係ありませんけど)
あって便利な神級魔法とはこの魔法の事ですよね。
「ところでこれ、どこに運べばいいんです?」
「ん? あ、すまん! 今案内する。ついて来てくれ」
魔法をあまり見たことがないのでしょう。感心していた様子の親方さんに声を掛け、案内してもらいます。朝飯前とはいえ負担はありますからね。
分かりやすく言うと、物で一杯の買い物袋を片手で持ち上げている状態です。なのでいつかは疲れて下がってくる! そんな感じなのです。
「了解でーす」
わたしは巨大魚を頭上にプカプカ浮かせながら、彼の後に続きました。
◇◇◇
「あんたのお陰で一番時間のかかる水揚げ作業がすんなり終わった。礼を言う――お前ら!」
「ありがとうごぜいやしたー!」
ムキムキ漁師さん達が一斉に頭を下げます。なんでしょう、この気持ちは。人から感謝されるって最高ーですね。
師匠も色んな人からちやほやされてましたし、その度にニマニマドヤドヤしていました。
うん。師匠は性根が腐ってると思います。
ま、それでも、何か求められたら無償でしっかり助けてましたし、困っている人を見かけたらすぐに声を掛けていました。わたしはコミュ症だったのでその隣で軽い雑用をするだけでしたが。
師匠は内心感謝されて「わっはっはー! ひれ伏せぃー」なんて思っていそうですが、そういう所を含めてあの人は人々に好かれていました。流石は大賢者ですね……わたしでは生涯かけても敵いそうにありませんよ。
「気にしないでください。困った時はお互い様ですし、今回は弟子の事もありましたから」
「人間が出来てるんだな。魔法使いならもっと傲慢な態度を取る奴もいるだろうに」
「わたしはそういう人達が嫌いですから。それに弟子の前でそんなカッコ悪いことしたくありませんよ」
ちらりと視線を後ろに向けると、弟子がニコニコと手を振っていました。
「はははっ、そうかい。ならもう一仕事していってくれるか? 嬢ちゃんにカッコつけたいんだろう?」
ぬぬぬ、この人中々のやり手さんでした。これでは断るに断れません。
「……なんだか口車に上手く乗せられているようであれですが、そうですね。ここは引き受けましょう!」
「そうこなくっちゃな! よしあいつらと一緒にあれとあれを……」
なんだか大仕事になりそうな気配がしました……。
◇◆◇◆◇
私も手伝おうかと申し出ましたが、リベアはゆっくりしていてと止められてしまい、こうして遠くから師匠の仕事ぶりを見学しています。
師匠が漁師さん達のお手伝いをしている間に、自分だけ遊び歩くというのはどうにも出来そうになかったですから。
「なるほどな。あの師匠って子が嬢ちゃんの意中の相手かい」
「漁師さん!」
手持ち無沙汰な私に声を掛けてきたのは、私が最初に話しかけた漁師さんでした。どうやらこの人はこの辺りを取り仕切る親方さんだったみたいです。
「嬢ちゃんはお師匠さんの事が好きかい?」
「はいとっても好きです! それこそ今すぐにでも後ろから抱きつきたいくらいには!!」
「そりゃお熱いこったな。よしこれ持っていっておいしいもん作ってやんな」
「うわー! こんなに貰っちゃっていいんですか?」
「いいんだよ。あんたのお師匠さんには沢山働いてもらう事になりそうだからな」
師匠の尊い犠牲の上で、更にたくさんの海の幸を無料で分けて貰えることになったのです。
ハッハッハーと笑う親方さんの先には、身を粉にして働く師匠の姿がありました。
そこには普段のコミュ症な師匠の姿はなく、漁師さん達と軽口を言い合いながらも楽しく杖を振っていました。その姿が少し羨ましく思えました。
(……師匠、頑張ってください)
そんな風に感じていたのは、どうやら私だけではなかったようです。
「……ねぇ、フィア」
「はい、なんでしょうかソフィア」
「大賢者と呼ばれる様な人達は、本人の意思関係なく人から好意を集めるものなのかしら」
「賢者に見初められ、その弟子になるような方はみなそういうお人柄なのかもしれませんね」
「それかそういう星の下に生まれてきた人が、自然に大賢者の元に集まってきているのかしらね。私が本で読んで知っている限り、歴代の賢者達は個性的な人が多いものの、全員人柄は良かったみたいだから」
――それなら私はどっちなんだろう?
私は師匠に見初められて弟子になったのか、それとも私は自分から師匠の元に行ったのか。
ううん。出会いを考えれば私は後者なんだと思う。でも私は立派な生まれじゃないし、自分の事、周りの環境についていくだけで精一杯。
今の師匠のように自由に好きな事をして、その合間合間に人助けをする。そんな事を出来る気がしない。もし今師匠に捨てられたらきっと私はまた道を見失ってしまうだろうから。
「……っ、だめ」
そう思ったら急に師匠の事を見ていられなくなってしまった。さっきまであんなに頬を緩ませて見ていたというのに。
「お、おい嬢ちゃんいいのか!?」
「ちょっと街を観光してきます」
「……なら私も行くわ。案内人さん。お願いしますね?」
「はいです!」
心配したソフィーさんが付いてきてくれる事に。駄目だな、私。
「フィアはここに残っていますので安心してください」
二人に迷惑かけちゃってる。本当はフィアさんの代わりに私がここにいないといけないのに。
「リベア?」
振り返らず、私はその場を立ち去ってしまった。きっと今の私は酷い顔してるから、とってもじゃないけど見せられない。
結局その日はソフィーさんと少し街を散策した後、気分が悪いという事にして一足先に宿に戻ることにしてしまった。




