90.コミュ力の高い弟子
宿の予約を終えたわたし達は、リベアの強い要望で大きな漁港を構えるこの町で一番有名な観光スポットである魚市場の見学に行く事になりました。
「わー、生きたお魚さんがぴちぴち跳ねてます! あ! あれはなんですか!?」
「あ、ちょリベア! 勝手な行動は謹んで……」
港町コルシユゥの中心部に位置する魚市場では、店頭には並ばない珍しい魚がたくさん置かれていて、それを見に来た多くの人で賑わっておりました。
真新しい物で溢れかえっているそこは、師匠に連れられそこそこ世界を回ったわたしでも胸躍るものがありました。
ですから村出身のリベアには全部が全部、輝いて見えている事でしょう。若いっていいですね。
「わー見たことのないお魚ばっかりー! これ食べられるんでしょうか?」
ここには彼女の好奇心をくすぐるものばかりあります。
気が付けば、わたしの手からするりと離れて勝手に漁師さんの元へ。
まったく。こういう所はまだまだ子供ですね。
「すみませーん! この口先がすごく尖ってて、全体的に長細いお魚はなんて言うお魚なんですかー?」
「お、魔法使いの嬢ちゃん。いいものに目をつけたな。これはな、キバシって言って、この辺りでしか取れない魚で今が丁度旬なんだぜ」
「ふぇーそうなんですか。じゃあこっちの派手な色をした魚って食べられるんですか?」
会話の内容までは聞こえませんが、弟子が何やら怪しい色をしたお魚さんを指差しています。グロテスクですね。偏見はよくありませんが不味そうです。
「ああ、見た目はヤバイがしっかり火を通してから食ってみると案外美味しいぞ。ただし背びれに毒があるから捌く時には注意が必要だ。毒は喰らっても死にはしないが身体が痺れてしばらく動けなくなる。俺も何度か海に潜ってて経験がある。あれは危なかった」
「なるほど。背びれに毒があって触ると痺れてしまうと……」
「おう。長細い方は俺たちの間ではよく塩焼きにして食ってんな。ま、俺たちは料理人じゃないからそれ以外の調理法は知らなんだ。詳しく知りたきゃレストランにでも行ってそこのシェフにでも聞くといい。うちの女房には負けるがな。ガッハッーハー!」
「おーそれはいい事を聞きました。漁師さんありがとうございます。それと良い奥さんを持ったんですね。私もお慕いしてる人にそんな風に思って貰いたいです!」
「そうかそうか。嬢ちゃんには好きな人がいるのかー。いやーこんな可愛い子に好かれるなんて羨ましい限りだな。よし、人生経験豊富な俺が意中の相手を堕とす耳寄りの情報をやろう」
「ほう、それは……是非是非教えて下さい!!」
なにやらヒソヒソと話し始めました。話しながら弟子が一度振り返りわたしの事を見てきます。
え、なに、わたしの悪口言ってるの? わたしが魚嫌いだからってそれはないですよ。
「相手が誰であろうとな、生きてて飯を食わねえ奴はいねぇ。そして不味い飯を好む奴はいないだろう? 少しでも美味しいものを食いたいと思うのが人の心理だ。だからな、どこよりも美味しい飯を毎日食わせてりゃ自然に『あれ、店で食うよりあいつが作ってくれた弁当の方が美味いぞ?』ってなるわけだ。これは俺に限った話じゃねぇぞ」
「成る程。つまり今の漁師さんは奥さんに」
「ああ、胃袋を完全に掴まれちまったってわけだ」
こっちまで聞こえるくらい弟子と漁師さんが快活に笑い合っています。凄い楽しそうに話してますね。ほんとに何を話してるんでしょう。
「親方ー! こっちに来て大物を引き揚げるのを手伝ってくだせえー!」
「おう分かった、今行く。わりぃな嬢ちゃん。仲間に呼ばれちまった。ここで嬢ちゃんみたいな可愛い子ともっと話していたいがあいにく俺にも仕事があってな。あいつらの手伝いに行かなきゃなんねぇ」
「いえ私の方こそ引き止めてしまいすみませんでした。お仕事頑張って下さいねお兄さん」
あ、中年のムキムキ漁師さんが笑顔になりました。リベア、一体何を言ったんでしょう?
「――はんっ、いいって事さ。嬢ちゃんも気をつけるんだな。魔法が使えるなら心配ないだろうが、ここから少し外れた道の先にあるスラム街と呼ばれる区域には近づかない方がいいぞ。嬢ちゃんみたいな子は狙われやすいからな」
「はい、気を付けます。でも私には師匠がついてるので大丈夫です! ありがとうございました!!」
「おうよ。あとこれ持ってけ、土産だ。その師匠って人にもよろしく伝えてくれ――さて遅ればせながら、魔法使いの嬢ちゃん。港町コルシユゥへようこそ!」
漁師さんはニカっと笑い、リベアに何かを差し出しました。
背中に隠れてよく見えませんが、それを受け取ったリベアは何度も頭を下げ、こちらにてこてこと駆け寄ってくるのでした。
「ししょー♪」
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次話のリベアは少し艶めかしくなります。
「面白い」
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「リベア可愛い!」
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