89.装いを新たに港町へ到着です!
「師匠、着きましたよ。師匠!」
「ん。うぅん……」
誰かに身体を揺すられます。やめてくださいよ。まだわたしは寝足りないのです。
「――ひゃっ!? ししょうのえっち!!」
手探りで枕を掴もうとモゾモゾしていたら、弟子の太腿の隙間に手を突っ込んでしまったようです。目をうっすら開けると、ほんのり顔を赤くした弟子がスカートを恥ずかしそうに押さえていました。
「……失礼しました。おはようございますリベア」
「おはようございます。師匠」
今日のリベアは王都に行った時のような村娘の格好ではなく、わたしと同じ一目で魔法使いだと分かる格好をしています。
サイズ感の違いでちょっとダボダボ気味のローブを着込んだ弟子は、着られてる感があって可愛いいと村の人達からは好評でした。わたしもそう思います。
むしろ元々自分が着ていた服を弟子に着せてるっていう背徳感でいっぱいでした。わたしっていけない子ですね。
(家で着てる分にはまったく問題ないんですが、外出用に何着か身体のサイズに合ったものを用意してあげなければなりませんね)
下は動きやすいズボンの方が良いのでは? と言ったのですが、わたしがスカートなので自分もスカートにすると言って聞きませんでした。
(とは言っても、わたしのは特別製なんですよね)
今わたしが履いてるスカートは、動きやすい素材を元に作られた賢者特製の白スカートで、製作者は何を隠そうこのわたしなのです。
え? 不器用なわたしに作れるのかって? ふふっ、あまり舐めないでください。それくらい作れますよ!
わたしは大賢者、故に万能なのです!!
大賢者の戦闘スタイルは前衛に守られながら後衛で戦う、魔法使いとしては王道の戦闘スタイルではありません。
師匠直伝の護身術を嗜むわたしにとって、肉弾戦はお手のもの。
しかしわたしは思うのです。今のご時世、大賢者に求められるのはカッコ良さではなく、誰しもがキュンなってしまうようなかわいさなのではないかと。
師匠は「私にはスカートなんて似合わん」と言って一年中ズボンでしたし、服にも全く興味がありませんでした。
ですがこの頃から魔法統率協会の制服も様変わりし、女子はズボンとスカートが選べるようになっていました。
――これからはスカートの時代です!
そう確信したわたしはソフィーから得た知識を元に、年頃の女の子からするとズボンはダサいと判断。
ソフィーにオススメの店を紹介してもらって何度か大きな街に出掛けたりしたのですが、実用性に優れていて、尚且つデザインも自分好みの物は中々見つからなかった為、素材を買い一から自分で作るに至ったのです。
見つからなかったのはわたしのコミュ力の低さと目標としていた性能性に原因がある気がしますが……。
あの時のお姉さんの困った顔は今でも覚えています。わたしの説明下手くそすぎましたからね。なんですか『火に炙られても燃えなくて、滝に打たれても大丈夫なスカートを探しています』なんて。そんなスカートが普通の店にあるはずありませんよ。
8軒目にしてようやくそれが分かり、結局自分で魔法に耐性のあるスカートを作る事になりましたとさ。
「お嬢様も起きて下さい。もうすぐ馬車が止まりますよ」
「んん……もう朝?」
寄りかかっていたフィアの肩から顔を上げたものの、彼女の目は焦点が合っていないようでした。
「これはお嬢様も寝ぼけてらっしゃってますね。起きないとキスしますよ?」
「――おはようフィア。誰が誰にキスをするって?」
「おはようございますソフィア」
キスという単語に一瞬で目を覚ます幼馴染。やはりキスは偉大ですね。
「ソフィーも寝坊助さんですね」
「誰が寝坊助さんよ。あんたにだけは言われたくないわ。それとここではソフィアだからそれで宜しくね」
「ああそうでした。今わたし達は地方の村から都会に憧れてやって来た観光客を装っていましたね」
「分かればいいわ。あと口調は出来るだけ崩しなさい。その方が観光客らしいわよ」
「わたしはお二人の観光をサポートする案内人兼護衛の役だからいいのです」
「私は護衛補佐の役です!」
今のソフィーの格好はどこにでもいる村娘の服装です。つぎはぎの服を着たソフィーが貴族であると疑う者はいないでしょう。
なぜ村娘に変装したり偽名を使ったりするのかというと犯罪に巻き込まれないようにするためです。一目で貧乏だと分かる者を金目的で攫おうとする輩はいませんから。
二つ目にソフィー・グラトリアという名はそこそこ有名な為、問題事を回避するためです。グラトリア家は顔が広い商業家系の貴族なので、この港町にも当然繋がりがあります。
その一人娘であるソフィーがこの町に来ていると分かれば、色々な人が接触を図ってくるに違いありません。
家同士の問題を起こさない為にも、これは必要な変装なのです。
「フィアもいつものメイド服じゃなくて、ちょっとお高そうな服ですよー」
綺麗な生地で作られた洋服は育ちの良さを表しています。貴族ほど高級なものではないので、どこかの裕福な家庭の娘とその友人と見られる事でしょう。
「なんであなたの方が良い服着てるのよ。その役目は私じゃないの?」
「どうにも大人っぽいフィアには村娘の服が合わなかったので。こちらを着てもらいました」
「つまり私には気品がないって言いたいのね!? 自分でも分かってるからいいけど」
そういうわけでもないんですけどね。ソフィーは子供の頃から変装して市井生活を送っていたので上手く馴染んでいるんです。
貴族モード時のお淑やかさ、深窓の令嬢といった雰囲気、知的なオーラを上手に隠し、彼女は村娘としての演技をしていました。
反対にフィアは何を着てもお胸の主張が激しい子でした。
「あ、到着したみたいです!」
「それでは行きましょうか」
「ええそうね。さっさと見つけて家に帰りましょう」
「フィアも頑張りますよー!」
意気揚々と一同は馬車を降ります。ぐうっ、日差しが眩しかったです。
「早めに見つかるといいんですが……」
なんにせよここには数日滞在する予定なので寝泊まりする場所は必要です。
とりあえず近くの手頃な宿屋まで向かう事になりました。
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