87.魔物の脅威と賢者の怒り
人間性はともかく、彼は魔法使いとしては超一流です。そして一流の魔法使いともなれば魔力を絶ち、気配を完全に消すことも容易でしょう。
わたしが彼の存在に気付けなかったのも仕方がないこと……師匠がいたら叱られちゃってるやつですね。
「ちっ、そうか。この村には王都から追放された貴様が来ていたのか。道理でおかしいと思ったんだ。寂れた村にしては分不相応な結界が張られていたからな。ははっ、だがこれはこれで好都合だ。ここで何か起きても全て貴様のせいにしてしまえばいいんだからな……いや、それはいかんな。それをしたらユリア第二王女様に睨まれてしまう」
なにやらぶつぶつ言い出したオルドスさ……オルドスに、わたしは杖を下げると思い切って声を掛けてみます。
「あのーお取込み中失礼します。魔法統率協会の重鎮である貴方がここにどんなご用事で?」
「ん? ああ、そうだな。そうしよう。ティルラ・イスティル、貴様に一つ忠告をくれてやろう」
「はい?」
声を掛けると彼はわたしの方を見て名案が浮かんだとばかりに手を打ち、腕を組みながら、えっらそうに言いやがります。
その上から目線過ぎる態度に正直イラッとしましたが、わたしは広い心の持ち主なのでニコッと笑ってそれを許容して差し上げます。
「この村の付近で魔族の目撃情報が出た。私はそれの調査、討伐に来たのだが貴様がいるなら安心だな。なにせあのシャルティア様の後継者様なのだからな」
イラッ。ものすごくイラッとしました。この人、自分の都合のいい時だけ人を後継者扱いですか。
でもわたしの心は海のように広い。だから怒らない怒らない。
「……お言葉ですが、都合のいい時だけわたしを後継者扱いするのやめてくれません? いつから私は貴方の部下になったんですか?」
「ふん、同じ魔法使いなら当然分かるだろう? これは国、ひいては世界を揺るがす事態に繋がる恐れがある。シャルティア様であれば間違いなく率先して問題解決に動いたであろうな」
「……わたしは無所属の魔法使いです。それにわたしはこの国の正式な魔法使いでもないんですよね?」
皮肉のつもりでした。
彼は屋敷を追い出す際わたしに言いました。戸籍そのものがない。元よりこの国に住まう権利がわたしにはないのだと。
「……確かに前に言ったな。貴様にはこの国に住まう籍がないと。だが今と昔では状況が違う。内容は知らんが貴様は今ユリア第二王女様の依頼を受けているのだろう? それならば一時的にも立場は王国の魔法使いとなる」
「それは貴方だってそうでしょう?」
「私の立場はあくまで魔法統率協会だ。無能だが生産性のある国民は勿論守ってやるつもりだ。しかし我々はこの国専属の魔法使いではない。一つの事しか出来ない民と違って我々は他にやるべき事が多くてな」
彼の態度は一貫していました。意地でもわたしにこの村の防衛をさせたいようです。
どうせそれで何か失敗したら全部わたしのせいにするつもりでしょう。その後、本腰を入れて問題を解決し魔法統率協会の株を上げ、あわよくばわたしの大賢者の後継者としての正統性を失って欲しいと考えているのでしょう。けったいな事です。
(失うもなにも、わたしの存在は世間に周知されていないというのに……)
「……ふむ、つまりこの村には生産性がないから守るつもりはないと?」
「まさか。だが人手が足りていない事は事実だ。故に、貴様にはこの村を守る力があると見込んで頼んでいるだけだ。シャルティア様の自称弟子であるお前が村一つ守護する事が出来ないとは言うまい?」
その言葉にとうとうわたしはキレてしまいました。
「――っ、先程から黙って聞いていれば! あなたが師匠の名を軽々しく口にするな!!」
袖口から瞬時に杖を取り出し、相手が反応するより先に魔法を放ちます。
「なっ、貴様! 私がどういう立場にいるのか分かっているのかッ――」
「んなもん知るかーっ!!」
師匠みたいな言い方になっちゃいましたが、怒っている事は事実です。
「くっ!」
ですが流石は一流の魔法使い。防御されてしまいますが、そこそこ本気で放った魔法の勢いをこらしきれず杖剣がどこかへ飛んでいきます。
予備の杖を取り出そうとしますが、態勢が戻る前に彼に近づき襟元を掴んで放り投げてやりました。
「そらっ!」
腕力は普通の女の子レベルですが、それもこれも身体強化のお陰です。わたしでも大人の男性を持ち上げられますから。
「ぐはっ!」
地面に叩きつけられる直前、彼は受け身を取りますがそれでも強引に投げられた為、苦痛に顔を歪めます。
彼の胸辺りをドスッと踏みつけ、地面に縫い付ける。
「ま、待て、私を殺すつもりか?」
「そんなわけないでしょう」
そんな事したら、普通に犯罪で捕まってしまうだろうが?
と口では殺さないと言いながらもバリバリ殺気を込めて、その額に杖を突きつけてやります。
「ぐっ……」
両手を広げ、降伏を示したオルドスがごくりと喉を鳴らす。
「ふぅ」
杖は突きつけたまま、わたしは口を開く。
「謝って下さい」
「なに?」
「わたしの事はどんなに馬鹿にしてもいいです。でも師匠の言葉を否定するのは許しません」
「私がいつシャル……あの方を愚弄した?」
「もう一度だけ言います。わたしは自称弟子でも自称後継者でもありません。師匠から認められ大賢者と名乗ることを許された一番弟子であり、正統後継者です。オルドス、分かりましたか?」
「……分かった。先程の非礼は詫びよう。それでこの件はなしだ。私も攻撃された事に対し訴えたりはしない」
「ええ、分かったのならいいです。あとこの村はわたしが守りますのでどうぞお気になさらず」
杖を仕舞い、足をどけてやります。これで当分この男が村に近づく事はないでしょう。
「……去る前に一ついいか?」
「なんですか?」
ジロっと睨みつけてやると彼は身じろぎしました。女の子相手に何ビビってやがるんだか。
「っ、これはユリア第二王女様からの言伝だ。それと私からの言葉でもある」
「はぁ」
こいつの言葉も含まれるのかーと思いながらも、姫様の言葉もあるなら聞いておいた方が良いでしょう。
彼は制服の皺を直しながら、一つ忠告をしてくれました。
『魔法使いは魔族から忌み嫌われている。お前は心配ないだろうが、リベアと言ったか? 自分の弟子には目を配っておいた方がいいだろうな』
それが意味する事はリベアが魔族に狙われる可能性があるという事でした。
「…………」
とぼとぼと元来た道を歩いて帰っていると、わたしの姿を認めた彼女達が遠くから手を振ってきました。
「あ、やっと帰ってきたわね」
「ティルラ様ー! こっちですよー!!」
「師匠を待っていたせいでみんなお腹ぺこぺこです!」
彼女達には悪い事をしましたね。
わたしは笑顔を作り、手を振り返します。
「すみません。お待たせしましたー!」
やるせない気持ちを隠して、わたしはリベア達の元へ戻るのでした。
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