84.模擬戦の後
「わたしの勝ちですね」
大賢者とメイドの模擬戦という、よく分からないマッチに勝ったのは大賢者でした。
「フィア、負けてしまいました……」
しょんぼりと肩を落とすフィアの元に小さな影が駆け寄ります。
「フィアさんお疲れ様です! これ、ふわふわのおろしたてタオルです! 是非お使い下さい!! あ、怪我とかされてないですか? 大丈夫ですか?」
我が弟子はメイドさんに労いの言葉を掛けつつ、怪我がないか彼女の身体を念入りに確認します。
そんなに心配せずとも、ちゃんと手加減しましたのに。最後の一発を除いて……。
「ふわぁ〜柔らかいですー」
リベアからタオルを受け取ったフィアは、顔にタオルを押しつけ、その感触をたっぷり味わった後、ぷはっと空気を求めて顔からタオルを離します。
あのタオル絶対いい匂いしますね。わたしは変態じゃないので他人が使ったタオルの匂いを嗅ぐなんて真似はしませんけど。
「リベアさん、お気遣いありがとうございます。ティルラ様が手心を加えてくださいましたので怪我と呼べるものはしておりません。ただあの火球に当たったせいなのか身体の節々が痛く、服も少しボロボロなってしまいました……フィア、お嬢様の専属メイド失格ですね。ティルラ様の本気を一度も引き出せませんでしたから」
「フィアさん……」
わたしが戦闘中に放ったあの火球は殺傷性こそ無いものの、まったくのノーダメージというのも模擬戦としてはおかしいかなと思い、外傷はないが身体に疲労を与える仕様にしていました。
わたしの火球は、人の体内に流れる魔素に影響を与えます。
ふふ、つまりわたしの攻撃を受けると全身筋肉痛のような痛みを覚えるわけです。わー、なんて意地悪い仕様なんでしょう〜。
(フィアはソフィーのメイドですし、メイドしての本業を邪魔をするわけにもいかないので1日しっかり休めば治るように調整してあります。働きすぎのフィアには良い薬ですね)
わたしには難しくてよく分からないのですが、師匠が言うには実際には体内魔素の循環自体は阻害されていないが、脳が勘違いして間違った命令を身体に下し、全身があいたた状態になるのだそうです。
うん、わたしも原理はよく分からない。
流石は大賢者と呼ばれた師匠。知識の幅がお広い。
「……確かに師匠との試合には負けましたけど、別に師匠に勝つ事が目的ではありませんでしたよね? 本来の目的である自分の実力をソフィーさんに認めさせる事、これは十分達成したと思いますよ。ほらあっちを見てください」
「え、あ――」
リベアに促されて顔を上げると、ピクニック用の花柄シートが広げられた場所でちょっと恥ずかしそうに頬を掻くソフィーがそこにはいました。
「口ではあんまり心配してない風を装っていましたが、模擬戦が始まってからずっとフィアさんの心配ばかりしていましたし、とても応援していたんですよ。最後の一声とか特にそうです!」
「お嬢様が……」
「はい!」
ソフィーがサンドイッチを一つ掴んでやって来ます。
「フィア疑って悪かったわね。あなたの実力は本物よ。だからこれからも私の事を守って頂戴――ずっと私の隣にいてね」
「――はい! フィアはお嬢様に一生捧げる事をここに誓います!!」
喧嘩していた二人の雰囲気が良くなった所で弟子は空気を読んで退散し、一人だけ放って置かれた事でいじけてしまったわたしの所へ駆け寄ってきます。
もう、この子の優先順位はどうなっているんでしょう。普通、師匠を労うのが先でしょうに! ぷんぷんです。
「師匠お待たせしました! はい、安物のガサガサタオルです!! 是非お使い下さい!」
ああーいよいよわたしのふかふかタオルを味わえる〜なんて思っていた日に渡されたのはひっでぇボロ雑巾のようなゴミタオルさんでした。
「……わたしとフィアで扱いに差がありすぎません? え、わたし何か気に触るような事しましたか?」
「むぅ、師匠意地悪ですよ。師匠が近接戦もすごいのはよく分かりましたが魔法の方はやり過ぎです。普通の魔法使いさんは三つの火球を維持するだけでも大変だと本には書かれていましたよ」
成る程、我が弟子が言いたいのは模擬戦にしてはわたしが強すぎたと。ふむふむ。
「威力は十分下げましたし、それくらいしなければ模擬戦の意味がありませんから。リベアだって、火球を5つ同時に維持できるんですから十分凄いですよ。同年代でこんな短期間に出来るようになる人は他にいないんじゃないですかね」
「……師匠レベルの魔法使いさんはこの世に殆どいないと思います。あとナチュラルに弟子の才能を誉めてくれましたね。ありがとうございます。でも短期間で出来る様になったのは、師匠の教えがいいからですよ!」
そう言って、弟子はフィアに渡したのと同じ新品のタオルをくださいました。
ありがたやー、やっぱり弟子は神ですね。
あーちょーふかふかしてます。とけるー。
「……わたしは一度見本を見せてあげただけなんですがね〜」
この子の才能が怖いです。
わたしなんて師匠に「これは基礎中の基礎だから」と出来る様になるまで家に入れてもらえなかったのに。三日掛かりましたよ、リベアと同じ5つの火球を同時に制御するのに。
「さあ師匠、みんなでポカポカ陽気の中ピクニックしましょう! アリスちゃんの依頼の事は一旦忘れて気分転換です!」
「あ、その前に一ついいですか」
「? なんですか?」
「丁度いい機会なので、弟子がどれほど成長したのか今から確かめたいと思います。という事で、さぁどこからでも全力でかかって来るといいです! このわたしの胸で全て受け止めましょう!!
「え、いや師匠そこまで胸な……じゃなくて、お二人の模擬戦を観た後に私もやるんですか? 無理です。死んじゃいますよ」
「大丈夫ですよ〜。直撃してもすぐに癒やして無理矢理にでも覚醒させてあげますから〜。それにわたしの師匠であるシャルティア様の模擬戦の方がよっぽど酷かったですよ。ね、ソフィー?」
「……ティルラに同意するわ。リベア、あなたの師匠はシャルティア様との模擬戦で3回死んでるの。文字通りの意味でね。そして3回とも無理矢理蘇生させられてたわ。あれは見ていられない」
どこか遠い目をするソフィー。たぶんわたしもそうなってる。
「……マジですか」
「という訳でやさしーい師匠との模擬戦を楽しみましょうね? ねーリベア〜?」
「……やっぱり胸の事で怒ってません?」
「……別に? さ、文句垂れずに準備してください。ほら早く早く」
「怖いです師匠」
その後、弟子の放った魔法全てを完膚なきまでに完封し、心を折ります。
「無理です。無理無理、もう限界です!」
さて、あとでいくつかのアドバイスは送るとして、
「おりゃぁーー!」
わたしの猛攻(フィアに放ったものと同じ火球。ただし全て手加減したもの)を受けたリベアは3分と持たずして、「きゅぅ」と目を回して倒れるのでした。
フィアが約5分でしたからまだまだですね。ま、同じ魔法使い相手だからとバンバン魔法を撃った事も原因でしょうが。
(むむっ、これは酷い。技の駆け引きとかあったもんじゃありません。適当に魔法を撃ちすぎです。もうちょっと対人戦の場数を踏ませた方がいいですね)
今度からは修行に模擬戦を組み込む事にしようと思った次第でした。
ティルラ「リベアの台詞なんかえっちぃーですね」
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