閑話 ある男の独白
思ったより長くなってしまい、二つに分けさせて頂きました。主人公達は2話ほど出てきません。ごめんなさい。
魔法統率協会所属【万年三位】というなんとも不名誉な肩書きなど、今すぐ捨ててしまいたいと彼――オルドス・プラッドは常々思い続けていた。
我ら三人で立ち上げたこの協会は、いつの間にか大所帯となり、国からも認められ、組織としてやるべきことも増えた。
だがその反面、雑事も増えた。今やっているのがまさにそれだ。会議に書類仕事に折衝、そしてまた会議の繰り返し。
上の二人はこの協会をこれ以上大きくする気がないらしい。
最近に至っては自分の研究室がある上層階から一度も降りてきてない。
なんとも向上心のない奴らだ。
組織の歯車になることに何ら抵抗はない。
しかし朝から晩まで形骸化した会議に参加していると、自分が噛み合わないまま空回りしているだけのように思えてくる。
(私がこれほど苦労しているというのにあの二人は……)
彼は優秀であり、組織内の地位も序列三位だ。
これだけ努力しているのだから、序列一位にしたらどうか? という声もちらほら上がっている。しかし大抵そういう者は新人か、序列一位と二位の姿を間近で見ていない者達だけだ。
二人を知る者達は口を揃えて言う。あれほど序列一位と二位に相応しい者はいないと。
オルドスは紛れもなく天才である。だが彼を超える天才が二人いた。
序列一位:【紅姫】クレア・マーレンス
序列二位:【蒼姫】クリュス・マーレンス
双子である彼女達は、魔法に関して天才的な才覚を持っていた。
ティルラの師匠であるシャルティア・イスティルがいなければ、英雄として歴史に名を残していたのは彼女達の方であったかもしれない。
五年前。オルドスは魔法使い至上主義の組織を創る為に、絶対的な力を持つ者を欲していた。
五年前。双子は自分の好きな研究を好きなだけする為にお金が必要だった。
オルドスは最初シャルティアの元を訪ねた。しかし断られ、その後双子と出会った。
利害関係を共にした三人はそれから一年も経たずして組織の大枠を創り上げた。
今では誰もが彼らの意見に大げさに頷き、主張に賛同する。
そんな手ごたえのない日々に双子は飽き、職務を放棄して元々の目的であった研究の方に戻ってしまった。
二人が抜けた穴は大きい。その空いた穴をオルドスが今まで一人で埋め合わせていたのが、あまりに負担が大きく、彼は憔悴しきっていた。
だからこそ、ティルラ・イスティルに退去を命じた日彼は上機嫌だった。
単純に昔から気に食わなかったティルラを尊敬する大賢者の屋敷から追い出せた事が嬉しかったのと、年端もいかない小娘が、物怖じする様子もなく発言してくるのがおもしろかった。
それもあの方と同じ目をしてだ。
ティルラはシャルティア様と同じ、真っ直ぐ貫くような理知的な目をしていた。
しかもそれには、悪意や悪戯心というかえしが銛のようについているのだ。
あの二人は似た者同士であった。不器用で、人と人との距離感が下手くそな所。
かと思えば奔放で、いつもどちらか一人が暴走し、もう一人がそれを止めていた所。
そして隙あれば襲い掛かり相手を弄ぶ。
あの迷惑で厄介な性質は、彼女の弟子にも受け継がれたのだろう。
思わずオルドスは微かに頬を緩める。
組織の設立時、既に世界に名を広めていた彼女とは志の違いで衝突する事も多かったが、それでも大賢者シャルティアは同じ魔法使いとして尊敬に値する魔法使いであった。
(それにあの方にも、その弟子にも一度は痛い目に遭わされたからな)
最初は気に食わなかった。ぽっと出のガキに大賢者の弟子の座を奪われるなんて。
だから魔法使いとして正々堂々と決闘を挑んだ。負ければ彼女の弟子をやめろと、すると彼女は『めんどくさいですねー。ですがわたしもいい加減我慢の限界ですし、ここいらで黙らせておきましょうか。師匠、審判やってくださーい』
『あ? ったく面倒な。じゃあ始めっ!』
『な、シャルティア様。そんな急に――っ、貴様卑怯だぞ』
『戦いに卑怯も何もありません。おりゃー』
その日、彼は13歳の少女に完敗した。人生で二度目の敗北である。
それからは彼女に悪態をついたとしても、決して見下すような発言だけはしなかった。
――それが彼なりのけじめだった。
◇◆◇◆◇
「オルドス様。ご到着致しました」
御者の言葉で見てみれば、ティルラとシャルティア様が住んでいた屋敷の前まで来ていた。
「あぁ」とだけ伝えて彼は表情を引き締める。
「――貴様ら、いつまでぐずぐずしているッ!!」
扉を乱暴に開けて怒鳴り込む。
「ひっ、オルドス様……」
中にいた若い職員たちは、彼の顔を見て青い顔をして俯いた。言い訳をする者もいない。
小さな悲鳴を上げただけで、それっきり黙ってしまう。
それが彼をよけいに苛立たせた。
「この役立たず共が! なんだあの報告書は。貴様らの役目はこの屋敷に残された資料や魔道具類を掻き集め、まとめ、この屋敷を綺麗にする。それだけの事だろうに!! 何が『無理です、あのなんとかという弟子に助けを乞いましょう』だ! ふざけるのも大概にしろ!!」
この屋敷には隠し通路が存在し、そこには生前彼女が発明した貴重な魔道具類のサンプルが残っている。
それがあれば、協会の権威をもっと高められると考えていた。
だから是が非でも手に入れたかった。
ティルラには殆ど時間を与えなかった。
私という監視の目もあった事から、持ち出せた物は限られている。
何点かは目を瞑ったがそれだけだ。屋敷のどこかに必ず魔道具を保管している場所がある筈だ。
「オルドス様! ダメです、その廊下は!!」
職員の一人が叫ぶが、彼は構いもせずに突き進む。
すると一瞬廊下の空気が震え、
ゴオッ!
両壁から炎が噴き出した。
屋敷の至る所に仕掛けられていた魔法の一つが発動したのだ。
発動条件は《許可していない者の立ち入りを禁ずる》だ。
大賢者は弟子以外の屋敷の出入りを認めていなかった。
賢者の罠は序列三位に牙を剥いた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
時系列はティルラが屋敷を訪ねた二週間後の出来事となります。
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