61.ハードワーク師匠
ちょっと先の未来のお話となります。次話から元の時系列に戻ってきます。
今日はリベアは出てきません。ごめんなさい。
未来ではもう当たり前にティルラは新たな大賢者として親しまれています。
「大賢者様ー! こちら、読んで大丈夫そうでしたら捺印をお願いしますー!!」
明るい声が室内に響きます。
王室の制服であるロングスカートを穿いた茶髪の文官が、自分の頭より高くなっている書類の山を両手に抱え、「おっとっと」とよろめきながら部屋に入ってきたのです。
「うへっ。また増えました……」
ドサッと私の机に置かれたそれは、減りつつあった書類の束に重ねられ、再びお山を築き上げました。
「じゃあ大賢者様。室長様。後はよろしくお願いしますね」
彼女はペコリとお辞儀をすると、慌ただしく駆けていきました。
彼女は彼女で仕事が立て込んでいて忙しいのでしょう。
「うーん……でもおかしい。私は偉いんです。それなのになんでこんな忙しなく働いているんでしょう?」
それに私、確かに研究者気質でこういう仕事は得意ですし、嫌いでもありませんが、こう毎日同じような事ばっかり繰り返していると流石に自由が恋しく感じます。
弟子のリベアは精力的に外に出て、魔法を使ったお仕事をしてるというのにその師匠は王室の一角でずぅーっと確認の作業ばっかり。賢者ですし、そういう仕事をしなければいけないのも分かります。大賢者という称号は、ただ魔法が凄いから与えられた称号ではありませんので。
でも私だって気晴らしに魔法をぶんぶん撃ちたい。
「ううーめんどくせぇーですねー」
パラリとまた一枚ページをめくります。
今はご時世がご時世ですし、ユリア様もこれが終わったら自由にしていいと仰っていました。
(国の中心部という事もあって、情報は沢山入ってきていますがこれではまだ足りませんねー)
私も私でやる事があります。詳細は省きますが、こればっかりは弟子一人に任せるのは危険過ぎました。
(こんな地味な仕事をするくらいなら、家に帰ってごろーんとするか、新作魔道具制作に勤しみたいですねー。もう何日家に帰らせてもらってないんでしょう? 三日? いやそれ以上です)
まあ今すぐ逃げようと思えば、逃げれるんですけど……。
「大賢者様〜? お手が止まってるよー?」
かわいいお顔に睨まれました。
隣には室長と呼ばれる私の補佐官(見張り)的な存在がいるのです。
限りなく青に近い水色の髪が、まるでネコの耳のような形に整えられており、彼女の気分に合わせてピョコッと動くそれはまさに猫耳でした。
室長も王宮内ではそれなりに高い地位にいるのですが、リベアと私の関係が色々バレて「ははーん。そういう事ですか〜」と今では私の側近的な存在になりつつあります。
「まさかまた逃げようとか思ってるんじゃないよねー? そのせいで貴方様の直属の部下である僕が、どんな目に遭ったのか忘れたわけじゃありませんよねー? 見かねたユリア様が折衷案を出してくれなかったら僕、今頃潰れてましたよ」
「わ、分かっていますよ。逃げたりしませんから。たぶん」
「たぶん〜?」
「いえ絶対。でも貴方とユリア様が貴族のカス共に提案した折衷案のせいで、気分転換にとユリア様が弟子とタッグを組んで迎えに(捕縛しに)きやがりました」
「カスって、僕も一応元貴族だよ〜。まぁ大賢者様だし、別にいいけどさー。仕事はちゃんとやってもらうからね〜」
暢気な喋り方に、どこか緊張感のない口調で話を続ける猫耳美少女は文官最高位です。
彼女が目を光らせているため、勝手に仕事を放棄する事は出来ません。怒られちゃいます。
そして彼女は文官であると同時に超一流の魔法士でもあります。でもそんな超一流の魔法士の目さえ掻い潜れるのが私こと、ティルラ・イスティルなのです。
前回は魔法を使って分身を作り、その隙にこっそりと抜け出したんですけど、私が逃げた事により形式上は私の部下である彼女は酷い目に遭っていました。
なにせ私の決裁が滞ったせいで、許可が下りない事象が増え、直属の部下である彼女は「これだから魔法使いは!」と反発した貴族達のクレームを一身に受けてしまいました。
元貴族であった室長ちゃんはユリア様と協力してそれを抑え込むに至ったようですが、その苦労は計り知れません。
だからこうして判を押しているのも、元はと言えば逃げ出した私が悪い、自業自得って奴なんですよね。
「はぁ、本当に優秀過ぎる弟子にも困ったものです」
私が全力で逃走すれば王宮の魔法士は疎か、どんなに魔法の扱いに長けている人でも私を捕まえる事は出来ないでしょう。
それにいざ捕まりそうになっても、全力で抵抗したらみんな吹っ飛んでしまいますから。
――唯一、私の全てを教えた弟子を除いて。
リベアは私の行動パターンを一から百まで全て網羅しています。今では随分と裏をかかれるようになってきました。弟子に一本取られる日も近いでしょう。
今はまだ、師匠として彼女の壁でいさせて頂きますがね。
そんなリベアが、我が国の姫様と手を組んで私を捕まえに来たのです。王族である姫様は小さい頃から英才教育を受けているため、魔法の面でも剣術の面でも秀でています。
同年代という事もあって、仲の良い二人はコンビネーションも抜群でした。私も本気ではなかったものの、まさかあんなにあっさり捕まるとは思ってもみませんでしたから。
「大賢者様ー。なにをそんなにニヤニヤしてるんですかー」
「え? 私、ニヤニヤしてました?」
「してましたしてましたー。それはもう、気持ち悪いくらいにー」
「……大賢者に向かってなんて物言いですか。ま、室長さんだから別にいいですけど」
彼女は「にゃはは」と猫みたいに笑います。これ、頭撫で撫でしたら怒られるやつでしょうか……。やめときましょう。リベアに言い付けられます。結婚も近いのにそれは良くないですから。
「まあリベア様はユリア様と組めて『アリスちゃんとタッグを組めてとっても嬉しいです』って言ってらっしゃいましたから。お二人ともいい息抜きが出来たと思いますよー。僕から見てリベア様もユリア様も最近は根を詰めすぎてる様子でしたし」
「実際忙しいですからねー。私ももうちょい外の空気を味わいたかったですよ」
「これが全部終われば、ずっと味わえますから頑張ってください〜」
「……頑張りますか」
そうして猫耳少女ならぬ、室長ちゃんが目を通した書類にポンポン印を押していく私でした。
「ああーそうそう。稀代の大賢者様宛にプレゼントが届いていますよー」
「プレゼント? 今度はどの地方からですね」
「北の国からですね〜。まったく大賢者様は貴族や魔法統率協会の連中には敵が多いのに、民衆の支持は本当に厚いですよねー」
「うーん。私としては、魔法使いとして当たり前の事をしただけなので見返りは求めてはいないんですがね」
「大賢者様のそういう所、僕好きですよー。でも、だからこそ民衆を下に見る者達にとって大賢者様は目の上のたんこぶなんだよねー」
「それはまあ、仕方ないですね」
猫耳室長ちゃんが「ええっと、これだこれだー」と言って、アイテムボックスの一つを開けます。私は彼女の背にコツンと頭を預けて、中を覗き込みます。なんか下で「近いよっ……!」とのたまう声が聞こえてきました。
「どれどれ……おおっ! これまた多いですね」
そこには北の国の特産物や調度品、珍しい素材や見たことのない魔道具が詰め込まれていました。贈り物なのに凄い適当に敷き詰められていますねー。これは怪しい。
「室長さん。ちなみに最初からこんな状態だったんですかー?」
彼女の顔を固定し、強引に顔を近づけて問いかけます。不用意に顔を近づけられた彼女は羞恥と恐怖と期待と、あとなんかいろいろ混ざった素敵な表情をしておられました。
「ふぇ!? わ、渡された箱からボクが全部移したんだよー。それの方がスペース取らないからねー」
「室長……」
パッと手を離すと、室長ちゃんは途端に悲しそうな表情を見せます。
「え、なに? ボク何かやった?」
この子は天才ですが、アホです。私より3歳以上年上なのに常識というものをまるで知りません。
「はぁ……仕事がまた増えました。リィーネ。まずはこれを仕分けますよ。貴重な素材なんかはしっかり保存しないとすぐダメになっちゃいますから」
「うえっ、そうだったんですか!? 申し訳ありません大賢者様」
そうして私とリィーネがアイテムボックスから一個一個物を取り出して分別していると、私の知的好奇心を満たすような貴重な素材が沢山出てきた為、一向に整理が終わらず見事残業になるのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
いよいよ次回はユリア様、(アリスちゃん)登場予定です。
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