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60.押しに弱い師匠

リベア視点です

 無理言って、弟子に志願した私を受け入れてくれた素敵な師匠は、デートをしたい! という私の我儘も聞いて下さいました。


 軽いお化粧をして、お気に入りのフリフリ付きの服に着替え玄関で待っていると、普段と全く変わらないお姿の師匠が「それじゃあいきますか〜」と伸びをして、気怠げに目を擦ります。


 用がない時以外、滅多に外出しない師匠が私のために重い腰を上げて街へ繰り出してくれる事に、私は背徳感と愉悦感を覚えてしまいました。


(でも、まさか師匠の方から当たり前のように手を繋いでくるとは思ってもいませんでした。どうやって手を繋ごうか真剣に悩んでいた私の時間を返して欲しいですよ。ほんと、師匠はずるい人です!!)


 不意打ちの先制攻撃を喰らって、思わずドキッとしてしまいましたが、デートはまだ始まったばかり。気持ちを入れ替えて、ここからもっと楽しみましょう!


「それじゃあリベア、まずはどこに行きたいですか?」


 師匠との繋がりを確かめるように、私はギュッと師匠の手を握って、「まずはあそこに行きたいです!」と行き先を告げます。


「分かりました」


 それだけ言うと、師匠はくるりと反転して私の手を引きました。


(師匠って、お洒落をしたら私以上に可愛い女の子になると思うんですよね。私よりスレンダーでとっても顔がいいですし)


 なんか、これだけ聞くと師匠の顔に惚れたみたいになっていますが決してそんな事はありません。私は師匠の人柄に惹かれたのです。まあ、顔が良いのも大事ですけどね!


(……今日のメインはお肉にして、師匠にはお腹一杯食べてもらいましょう)


 こうしてみると師匠は私以上に華奢な身体つきの女の子です。


 でもその背中から感じる気迫は、とても同年代の少女から発せられているものとは思えませんでした。


 単に魔力量が桁違いに多いからでしょうか? 


 私には師匠がとても大きな存在に見えていました。


 その物腰、身のこなしの数々に私はいつも感服してしまいます。


 師匠はいつも隙があるようで全く無いのです。


 修行の一つに(リベア)の好きなタイミングで、攻撃してきていいというものがありました。


 私が勝ったら好きなだけ抱きついてもいいという条件で挑戦し、師匠がお風呂に入ってる時、読書に勤しんでいる時、熟睡していると思われている時など、様々なタイミングで師匠を襲いましたが、私の攻撃が通ることは一度もありませんでした。


 師匠を見ていると魔法使いが自分より魔力量が多く、扱いに長けている人物に憧れる気持ちが分かります。


 きっと師匠は魔法使い相手にはたくさんおモテになったのでは? といつも勝手に想像してしまいます。


 修行中にそんな事を考えている事がバレたら、頭を杖で叩かれちゃいますね。でも師匠は痛く無いように最大限の手加減をしてくれているので、私が師匠に変な事をしない、言わない限りは本気で叩かれる事はありません。


 でも師匠みたいな素敵な人に、ちょっかいをかけない方がおかしいと思います。


 私はただの魔法が使えるだけの平民ですが、師匠の事を愛する気持ちは誰にも負けません!


 貴族であるソフィーさんは自分の気持ちを自覚していないようですが、おそらくある程度の好意を師匠に向けている筈です。でもそれ以上にフィアさんの事が好きな気がします。フィアさんも見ている限りでは満更でもなさそうでしたし。


 別に他人の恋路を邪魔するつもりはありませんが、もし師匠が狙われたら「はいどうぞ」と簡単に譲る気はありません。


 私は正々堂々と戦って師匠を手に入れてみせます!



「えへへー」



 師匠の頼れる背中を見ていたら思わず後ろからハグしたくなっちゃいましたが、それで雰囲気が壊れるのも嫌だったので手を握るだけに留めました。


 今はまだゆっくりでいいんです。師匠の日常に少しずつでもいいから、弟子(わたし)という存在が刻まれればそれで。


 だって師匠と巡り会えたのは運命、なんですから。


◇◆◇◆◇


「師匠、あの装飾店に入ってもいいですか?」


「もちろん構いませんよ。何か欲しいものがあったら言ってください。なんでも買ってあげますから!」


 師匠が自慢げにアイテム袋から取り出したのは、金貨が大量に詰まった小袋でした。


 グラトリア邸出発前は萎んでいた筈の袋は今やパンパンになっています。


 いっぱいもらっちゃいましたって言っていたので、言葉通りの額を貰ったようです。


「じゃあ指輪を……」


「婚約指輪以外なら買ってあげます」


「ううっー……」


 師匠のガードはとにかく固いです。


 最初に師匠と触れ合った時からそれには気づいていましたが……中々の堅物さんです。というより私を襲わないように我慢している節がありました。


 師匠だから弟子に手を出しちゃいけない。真面目な師匠はそんな事を考えているのでしょう。


 でも私を見ては、私の事を抱き枕にしたいと思っているのも事実です。すごく物欲しげに見てきますから。


 言ってくれれば、喜んで師匠の抱き枕にされるのに……。


 最近ではハグや手を繋ぐ事には慣れてしまったようで、初めての時のように分かりやすく反応してくれる事は無くなってしまいました。


 私なりの方法で色々攻めてみてはいますが、そろそろやり方を変えた方がいいのかもしれません。


「いらっしゃいませ〜。何をお求めでしょうか?」


「結婚指輪を二つお願いします!!」


「リベア!?」


 その後、アクセサリー屋に入った私は気前の良さそうな恰幅のいい店主に指輪を見繕ってもらうのでした。


 直後に比喩じゃなく、私の頭上に雷が落ちたのは言うまでもありません。


◇◇◇


「えへへ。師匠とお揃いです!」


「ううっ。どうしてこんな事に……」


 私の隣で自分の薬指に嵌められた指輪と軽くなった小袋を見ておいおいと嘆く師匠はやっぱり押しに弱かったです。


 私が全力の上目遣いでお願いをしたら、苦しそうに胸を押さえながらもこの指輪を買ってくれました。この店では一番高いやつだそうです。


 ハートマークが真ん中に刻まれているのがとても気に入りました。


「……お願いですから、指輪を付けるのは家の中だけにしてくださいよ。それも二人きりの時だけに」


 ソフィーに茶化されますからと付け加える師匠は、どこか恥ずかしそうにしながらも指輪を見ては嬉しそうでした。


「はい! 二人きりの時だけって、師匠えっちですね!!」


「エッ――!? そういう事、リベアには言われたくありませんね」


「あ、むっつり師匠です!!」


「むっつりじゃありません!!」


「むっつりです!!」


「いいえ、ソフィーの方がむっつりだと思います」


「今の発言、ソフィーさんにも言っていいですか?」


「やめてください。謝ります」


「じゃあ人前で指輪を付ける許可を――」


「だめです」


 そんな意味のない応酬は帰路に着くまで続きました。



「リベア、今日一日どうでしたか? 楽しめましたか?」



 ロフロス村の入り口を越えて少しして、師匠がちょっと心配そうに眉を顰めて聞いてきました。


 そんな師匠に私は思いっきりはにかんで笑います。


「とっても楽しかったです! またデートしてくださいね!!」


「それはよかったです。機会があれば是非」


「ええ〜そこは絶対誘うって言う所ですよー!」


「リベアが我儘言わないなら考えてあげます」


「うーん……それは悩ましい相談ですねー」


 ふと私との約束(デート)で繋いだままになっている自分の右手を見ます。


 律儀な師匠は家に帰るまでがデートという私の教えに基づいて、最後まで手は繋いだままでいてくれました。


 願わくばずっと繋いでいたいと思いましたが、あいにくそれは叶いません。


 家の近くまで来ると、流石に離されそうになりますが、逆に指を絡めてあげました。ここで指輪をしていれば最高のシチュエーションだったんですけど。


 辺りは暗いので、人もまばらですが、手を繋いでいる所を誰かに見られまいか、心配そうに何度もキョロキョロする師匠の思わず頭を撫でたくなっちゃいましたが、下唇を噛んでそれを我慢します。今そんな事をしたら絶対に絡めた手を離されちゃいますから。


「ん? リベア?」


 師匠が何かを必死に我慢する私を見て首を傾げます。




「ししょう! だーいすきです!!」




 有り余る想いを言葉にして伝えます。


 今日一日のデートを通して分かった事。それはどんな時でも師匠は可愛い!! という事でした。

ここまで読んで頂きありがとうございます!


少し間を空けて、三章の開始となります。予定では今週の日曜日以降を予定しております。


どうぞ宜しくお願いします!!


「面白い」

「続きが気になる」

「リベア可愛い!」


と思ったら、広告下↓の【☆☆☆☆☆】から評価していただけると嬉しいです。


感想も待ってます!! どしどし送って下さい!!


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