59.約束ですからね
事の初めは今朝、私が部屋で読書をしているとリベアが今日は修行を休みにして近くの街へ一緒に遊びに行きませんか? と聞いてきた事が始まりです。
「修行を休むのはまあ、慣れない王都での生活があって疲れているからいいとしますが、どうして私も一緒に街へ連れて行こうとするのですか? 見ての通り、師匠はもう疲れて一歩も歩けませんよ?」
自室のベッドの上でだらーんと横になっている私に、もはや師匠のしの字もへったくれもありません。
(リベアは本当にいい子です。私には勿体ないくらいに)
私がこんなだらしない師匠の姿を見たら、こんな人師匠じゃありません!! って言って、即弟子を辞めていた所です。私の場合はやめるに辞められませんでしたけど。
そんな私のダメダメ具合にリベアは当惑しながらも、その理由を説明します。
「えっと、明後日にはソフィーさんとフィアさんが来て忙しくなっちゃいますし、それに師匠は私との約束をまだ果たしていません」
「約束? はて、どんな約束をしていたでしょうか?」
「師匠、惚けないでください! 私はちゃんと覚えていますよ!!」
「えぇ……」
リベアは私の事を信じていないようで、私が話を誤魔化しているのだと思っているようですが、私は本当に約束を覚えていないのです。
「本当に忘れてるんですかーもう。頑張って思い出して下さい!!」
車輪付きの椅子に座ったリベアが、私の元までスィーっとやってきて言います。
私は頑張って思い出そうと努力しました。
「う、うーんぅ……――あ!」
「思い出してくれましたか!?」
椅子から身を乗り出したリベアが、食い気味に顔を近づけます。近い近い。
「あ、いえ今朝のキノコスープとっても美味しかったですと言うのを忘れていました。という事で、とても美味しかったですよリベア」
ズコーッと弟子が乗り掛かっていた椅子から転げ落ちます。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて彼女に手を貸し、リベアは「だ、大丈夫ですよー」と私の手を借りてゆっくりと立ち上がります。
「すみません。私が変な事を言ったばっかりに……」
「い、いえ、師匠に美味しいって頂き幸せです」
「そ、そうですか。それは良かったです」
なんとなくお互い気まずい雰囲気になってしまい、弟子に至ってはどこかそわそわしている様子でした。どうした? 我が弟子よ。
「あのーそれですみませんが、弟子との約束を覚えてないアホ師匠にご教授して貰えると幸いです」
「あ、えっと、そうですよね。師匠はソフィーさんが暴走した日の事を覚えていますか?」
「あーアレですよね。私の不注意で魔法瓶効能が服に付いてしまって、そのせいでソフィーが抱きついてきたアレですよね?」
「そうです。その時に師匠、私に助けてって言いましたよね?」
「はい。言いました」
「その時に言った言葉を覚えていますか?」
「えっと、確か――あ!」
「今度こそ思い出してくれましたか?」
弟子にそこまで言われてようやく思い出しました。私は確かにあの時こう言いました。『お願いですリベア。助けてくれたら、なんでも言うことを一つ聞いてあげますから』と。
あの時の私はあまりのピンチに後先の事を考えていなかったようです。てっきりもう忘れているかと思っていたのに……目敏い弟子はその事をしっかり覚えていたようです。
「……私、リベアの言う事を一つ聞かなきゃいけないんですよね?」
「そうです。師匠が弟子との約束を反故にするっていうのなら話は別ですけど……」
甘えるような口調で、どこか寂しそうに顔を伏せながら話す弟子に私の母性はくすぐられました。
(その言い方は卑怯です。そんな事言われて、断れる師匠なんてこの世にいません。あ、いました。私の師匠です。でもあれは私に魅力がなかっただけ、そうに違いありません! それはそれで悲しいですけど……)
なんにせよ、私にリベアとの約束を破るという選択肢はありませんでした。
「はぁ……分かりました。約束は約束です。どんと来なさい!!」
私の回答に弟子の顔はみるみる内に明るくなっていきます。うっ、眩しい。
彼女は何やら熱のこもった視線で、勢いのままに話し始めます。
「じゃ、じゃあ今日一日同じベッドに寝る許可を」
「――却下です」
一蹴しました。弟子のお願いを一蹴してしまいました。でもしょうがないと思います。弟子と……リベアと一緒に寝るなんて絶対に寝られなくなります。
というかそんな近くでリベアのいい匂いを嗅がされたら、私の理性がぶっ飛んじゃいますよ。
彼女はそれはそれで喜ぶのかもしれませんが、倫理的に考えたら成人してない女の子に手を出すのはアウトですし、何より相手は同性なのです。私は同性同士の恋愛を悪いとは思いませんが、普通は異性同士が付き合うものですので……でも私は、相手がリベアなら別にいいんですけど……。
ああもう、何を言ってるんだ私は。
彼女も流石にそのお願いは聞いてもらえない事は分かっていたのか、素直に引き下がるとすぐに別のお願いを言ってきました。おそらくそちらが本命でしょう。ベッドの方はダメ元で聞いてみただけのようですね。今度からは最初からそうして欲しいです。
「でしたら、お買い物……私とデートしてくださいっ!!」
「まあ、それくらいなら……」
「やったー!」
そんな事があって、今日はリベアと街へデートに来ているのです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!
デート編は次話で終わりとなります。次回は再びリベア視点です!
その後は3章の開始となります。引き続きどうぞ宜しくお願いします!!
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