57.師匠はお寝坊さんですね
彼女の朝はだいたいいつもこんな感じです。『リベアは可愛い』です。
「わぷっ」
ベッドの中に引きずり込まれ、私は抱き枕のようにされますが特に抵抗はしませんでした。
(師匠の匂いを間近でたっぷり堪能できますしね)
抱き枕よろしく、腕はしっかり背中に回され、足はしっかりと私の足をホールドしています。抱きしめると言うより、しがみつくと言った方が近いかもしれません。
(かわいいです……)
ここ1ヶ月ちょっと一緒に生活してきて分かった事ですが、普段はだらしなく、魔法もあんまり積極的には教えてくれない師匠ですが、その心根はとっても優しく、人の事をよく見ている方だと思いました。あと見た目よりピュアです。
私が魔法学で躓いていた時には、タイミングを計ったかのように隣に現れ、「ここはね、こう考えるといいのよ」と助言をして颯爽と去って行くのです。
殆どの場合は助言と一緒に「今日の夕飯はお肉がいいなー?」と私の肩をもみもみしながら願望も言ってきますが、それは単なる後付けの理由にしか過ぎません。
師匠はソフィー様にちょっぴり似ています。
素直になれない所がそうです。
ソフィー様の話によると昔の師匠は少しだけ甘えん坊さんな所があって、シャルティア様の前ではいつもデレデレしていたそうです。
ソフィー様も師匠の髪を撫でていた事があるとかないとか……羨ましい。
ですがシャルティア様が亡くなってからは、甘えん坊のティルラ・イスティルは鳴りを潜め、今の引きこもり自堕落生活のアホ師匠に堕ちたとの事です。
でも根っこの部分は、やはり変わっていないとソフィー様はおっしゃっていました。
師匠は私が本当に行き詰まった時には、親身になって相談に乗ってくれますし、家の庭で魔法の練習をしている時も、ハンモックに揺られながら、読書に勤しんでいるかのように見える師匠の視線は、はっきりとこちらを見ていましたから。
だから私も安心して修行を続けていられました。
それに魔法の練習中、近所の子供達が塀を登って見にきた時、私は彼らの不快な視線に気付いてはいましたが、いちいち相手にするのも面倒なので無視していました。
そうしていると師匠は何も言わずに立ち上がって、家の周りを囲むように何重の壁を作って外から見えなくしてくれました。
『読書の邪魔になりそうだったので……リベアは気にせず修行を続けてください』
『はい、師匠!!』
あくまで自分のためにやっただけだから、と言い張る師匠の気持ちを覚えたての魔法でこっそり魔法で覗いてみると、「(リベアの修行姿を見れるのは、師匠である私の特権なんですから、あんなどこぞの馬の骨とも知らないガキ共には絶対に見させません)」
何事もなかったかのように平然とハンモックに戻る師匠に、私は苦笑するしかありませんでした。
(あれを自覚なしでやってるとしたら……ししょう、私のこと好きすぎですよ、もう)
私も師匠の事が大好きです。きっと私は師匠のそういう所に惚れてしまったんでしょうね。
事情を知っていれば、過保護……いえ私に対する独占欲が強すぎるかも知れませんが、私からするとどんとこいです。もっと重くても受け入れられます。
だって私はそれ以上の愛で、師匠の事を想っているのですから。
(まだ暮らして1ヶ月しか経っていないというのに、こんなに師匠の事が好きになるとは思いませんでした)
いつの間にか身も心も、私は師匠に骨抜きにされていました。
「だから責任取ってくださいね、師匠?」
「うーん……分かりました、起きますよぅ……」
もう何度目かの呼び掛けで、私の師匠はようやく目を覚まします。
「師匠はお寝坊さんですね。朝ごはんもう出来てますよ。早く着替えて下さいね」
「はーい……」
バンザーイをした師匠の服を脱がせます。すると大抵この後、顔を赤くした師匠がようやく本当に目を覚ますのでした。
だいたいこういう日が、週に二度はあります。
――師匠をからかう。これが私の、毎朝のルーティーンです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次回はティルラとリベアのデート編に続きます。
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