55. 全てが上手くいきましたね!
2章完結となります!
「効果はバッチリでしたね。ソフィーも温泉に入った時、リベアの肌がいつもよりツルツルになっていた事に気付いていたでしょ? あれ、ソフィー?」
友人の様子がちょっとおかしいです。どうしたのでしょう?
「な、なな、なんて事してるのよ!! あんた自分の弟子を実験体として使ったっていうの!?」
わっ、彼女が急に私の襟首を掴んできました。どうしてそんなに怒っているのでしょう。やましい事はなにもしてないというのに。
それに私はリベアの事を実験体なんて思っていません。失礼しちゃいます。彼女は私の大切な弟子なんですから!
「むっ、そんな酷い言い方しないで下さい! 実験ではありません。治験です。ちゃんとリベア本人に説明して許可も貰っています」
彼女の言い方にカチンときた私は、背負い投げでもしてやろうかと思ってやめました。
二人きりならなんの気兼ねなく喧嘩出来るのですが、リーナさんが間にいて少し怖かったからです。
「そういう事じゃないでしょ! リベアちゃんに何かあったらどうするのよ!」
「私がいれば大抵の事は対処できると思いますが? それにリベアは自ら進んで協力してくれたんですよ。無理矢理やらせてなんかいません!」
「それはそうでしょ! あの子はあんたの事が大好きなんだから、頼まれて断る筈がないじゃない!!」
「なっ、あなたにリベアの何が分かるんですか! 私の方があの子と長くいるんですから、本当に嫌がってるか、嫌がってないかくらいわかりますよ!」
彼女に治験を頼んだ時の事を思い出します。
注射は怖いと言っていましたが、魔法瓶を飲むだけなら全然大丈夫と言っていました。作り笑顔ではなかった筈……です。
――あれは私への信頼の証だったのかもしれません。
本当は怖かったけど、私(師匠)が相手なら安心できる。そういう想いがあったのかもしれない。
私の顔色が少し変わった事に気が付いたソフィーが、小さくため息をつきます。
「……もういいわ。お母様、リベアちゃんの様子が心配だから先に戻りますね」
「分かったわ。でもその前に、ティルラちゃんにはちゃんとお礼を言いなさい」
「え?」
「え、じゃないでしょ? 過程がどうあれ、ティルラちゃんはあなたの為にこれを用意してくれたのよ。こんな貴重な物を娘の為にポンっと出してくれる友人がいるなんて……ソフィー、これは誇ってもいい事よ。そしてこれからもティルラちゃんの事を大切にしなさい。あなたが大切にした分だけ、彼女だってそれに応えてくれるんだから」
ついさっきまで喧嘩していた私たちに向けられたリーナさんの真摯な言葉は、彼女の優しい声音と合わさって私たちの胸を温かくさせました。
彼女の言う通り、私は紛れもなくソフィーの事を大切に想っています。それは彼女も同じでした。
私が悩んでる時に、彼女は何度も根気よく相談に乗ってくれましたから。
だから今回は私がソフィーの事を助けてあげようと思って、彼女がうちに居候し始めた頃から密かにこの魔法瓶を作り始めていたのです。
「……ソフィー」
「ティルラ……」
彼女の言葉を受け、私とソフィーは目を合わせます。先に視線を外したのは、恥ずかしがり屋のソフィーの方でした。
「――そ、そんな事は分かってるわよ!」
「じゃあ、ごめんなさいとありがとうを言いましょうね。ほら、ティルラちゃんももっと近くに寄ってきてあげて。この子恥ずかしがると、途端に声が小さくなるから」
「ううっ」
リーナさんに手招きされた私は、ぐっふっふーとニヤニヤ顔で仁王立ちしてやります。彼女は母親に色々言われて、とても恥ずかしそうにしていました。
「ご、ごめんなさいティルラ。さっきは言い過ぎたわ。それとありがとう。私の話を親身に聞いてここまでついて来てくれて」
しおらしく謝るソフィーに、先程まで覚えていた負の感情はとっくのとうに消え去っていました。
「いえ。私の方こそ、ついカッとなってしまい申し訳ありませんでした」
「はい。これで仲直りね」
握手握手と私とソフィーの手を取り、無理矢理握らされます。
子供の頃はよく手を繋いでいたのに、今は小っ恥ずかしく感じてしまいます。
お互い視線が合わせられずに、サッと別々の方向を向きます。
「もう二人とも恥ずかしがっちゃって。ま、うちの娘たちはそういう所が可愛いんだけどね」
「――っ、リベアの様子が心配ですから。そろそろ戻りますね。黙っているだけで身体に不調が起こっているかもしれませんし」
「そ、そうね。私もティルラと一緒に戻るわ」
踵を返して部屋を出ようとすると、リーナさんがふふふっと笑いをこぼしました。
「あらあら。二人とも仲良しねー」
「「あ」」
言われて気が付きました。私たち、さっきから手を繋ぎっぱなしだったのです。
パッと、どちらともなく手を離します。
危ない。
リーナさんに指摘されなかったら、このまま部屋を出て、手を繋いでいる所を使用人さん達に見られる所でした。
「おっと忘れる所でした」
部屋を出る直前、私は若返りの魔法瓶の事を思い出し聞きます。
「それでリーナさん。魔法瓶の方はどうされますか」
要らないなら持って帰りますよ? と意味を含めて、手をくいっくいっとさせます。
「うーん〜……」
彼女は机に置かれた魔法瓶を見て、ほっぺたを人差し指でむにゅっと押しながら可愛らしく、そして図々しく言いきります。
「使うかどうかは別として、ありがたく貰っておくわね。だって娘達からの贈り物だもの」
「リーナさんらしいご回答ですね。分かりました。変な使い方だけはしないで下さいよ」
「分かってるわ。ほら、二人とも早くリベアちゃんの所へ行ってあげなさい」
「「はーい」」
その後、私はリベアをもう一度念入りに診察したり、リーナさんと和解して、憂いのなくなったソフィーと一緒に街へ出掛けたりしました。
リベアに何も問題がなくて本当に安心しました。
他にも私、ソフィー、フィアさんとリベアの四人でいっぱい遊びました。お小遣いは全部グラトリア家から支給されたので、贅沢に使い切ってあげました。
――一週間後。
なんやかんやで帰省を楽しんだソフィーとフィアさん、グラトリア家の人々に見送られる形で、私とリベアは一足先にロフロス村へと帰る馬車へと乗り込みます。
「ではソフィー。五日後にまた会いましょう」
「ええ。今度は前よりもっと荷物が多くなると思うから覚悟しなさい」
「フィアさんが来るの楽しみにしてます! 一緒にお夕飯とか作りましょうね!!」
「はい! フィアもリベアさんとお料理するのとっても楽しみです!!」
両親の許可を得て、ソフィーとフィアさんは正式に私の家に居候する事になりました。同時にグラトリア家からの資金援助もがっぽり入り、私の懐を温めてくれました。
オルドスさんから貰った退職金と合わせれば、無駄遣いしなければ一生暮らしていけそうな金額です。
まあ、研究の素材などで早くに使いきっちゃう未来が見えますが。
「じゃあティルラちゃん。三年間二人の事を宜しくね」
「はい。私にお任せ下さい!!」
ソフィーが場を離れた隙に、サササーっとやって来たリーナさんが小声になります。
「あれも……忘れないでね」
「分かっていますよ。ソフィーの隠し撮り写真ですよね。リーナさんもお礼、忘れないで下さいよ」
私も小さな声でお返事をし、親指と人差し指と曲げて丸をつくります。
「分かってるわ。一枚につき銀貨一枚でしょ?」
「ええ、私の作った特製の魔道具なら一瞬で現像出来ますから。これを枕元にでも置いておいて下さい。お代はいりません。サービスです」
渡した魔道具を小脇に抱え、リーナさんは空いている方の手を差し出します。
「ありがとう。大切にするわ」
「はい」
私はその手を取り、リーナさんと固い握手を交わすのでした。
そうしてソフィーにとって、最悪の同盟が築かれました。
「うわー師匠サイテーですね」
「奥様……私も頑張りますね!」
私たちの密約を見ていた弟子とメイドさんにも報酬を払うと約束してあげたら、快く協力してくれる事になりました。ちょろいですね。
戻ってきたソフィーが、先程と様子が違う私たちを見て首を傾げます。
「ん? なんでみんな、そんなにやけ顔なの?」
「なんでもありませんよー」
「?」
私たちの結んだ同盟にソフィーが気付くのは、それからずいぶん後の事でした。
◇◇◇
(最初は一人だったのに、そこに弟子が増えて、今日新たに親友とメイドさんが加わりました。これからもっと騒がしくなりそうですね)
騒がしくなるのをどこか楽しみにしている自分がいました。嬉しいのかもしれませんね。昔みたいに、誰かと一緒に食卓を囲んで、誰かと一緒の家に住む事が出来るのが。
「……師匠。これからも私、頑張りますね――もう寂しくなんてありませんよ。あ、でもちょっとは寂しいです」
天から見てるのかなーと、美しく澄み渡った青空を見上げ、私は呟くのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次回は閑話を挟みつつ、3章のスタートとなります。
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「リベア可愛い!」
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