49.『弟子』にとっての『師匠』という存在
(この光景は、何度見ても慣れませんね……昔みたいに私だけ窓から入ればよかったです)
右にメイド、左に執事・従者が控え、エントランスを囲むようにして綺麗に整列した使用人達が一斉にソフィーを出迎え、私たちに対し深々と頭を下げます。
「みんなお迎えご苦労様。今日は私の大切なお客様を二人連れてきたわ。その内の一人はこの家に昔はよく来てたから、一度は会ったこと、見たことがある人がいるかもしれないけど、改めて紹介するわね。彼女はティルラ・イスティル、公には認められていないけど、大賢者シャルティア様の正統後継者様よ。そしてもう一人はその弟子のリベアちゃん。みんな、くれぐれも間違いのないようにね」
「「「はい。かしこまりました、ソフィーお嬢様!!」」」
使用人達は一斉に返事をした後、私たちの方を向き恭しく礼をします。
「あ、はい。よろしくお願いします」
沢山の人に囲まれ、私は内心ビクビクしながら軽く会釈しておきます。
(リベアは……)
「ふわぁー!」
弟子の方を一瞥すると、お貴族様の豪邸を前に、萎縮しているどころか、めちゃくちゃ目を輝かせておりました。
(私もそうですが、普通に生活している人がお貴族様の屋敷に招かれるなんて、まずありませんからねー)
ソフィーの貴族らしい姿を初めて目の当たりにして驚いている事もあるのでしょうが、平民にとって一番分かりやすいのは、その調度品の数々でしょう。
私たちの真上に存在するシャンデリアもそうですが、なにせ壁一面に、人や風景の絵が掛けられているのです。
そしてそのどれもが高級品です。この家ではコップ一つとっても、安価な物は置いてないのです。
「ほおおっー!!」
見た事がないものばかりで、弟子のテンションが上がるのも無理はありません。
(貴族の方って、何でこうも絶対に興味のなさそうな絵を買ったりするのでしょうか。ソフィーの肖像画が、一番目立つ位置に掛けられているのは分かりますが……)
階段を登った先の中央、丁度このエントランスの中心に飾られた肖像画には、幼少期のソフィーが描かれていました。
その肖像画に描かれたソフィーの姿は、出会った頃のソフィーのもので、どこから見てもちっちゃくて可愛いらしい印象を覚えました。
でも、そこはかとなく品を感じる一枚でもありました。良い画家を雇ったとリーナさんから聞いています。
この肖像画を正面から見るのも、もう4度目になりますが昔は大変でした。私が肖像画の前に立つたびに、ソフィーが「これ私なのよ! 綺麗でしょー!!」と言って、自慢してくるものですから。
「フィア。メイドを数人連れて、ティルラちゃん達の部屋を用意してくれ。じいや、さっきの報告書を執務室に……」
「…………暇ですね」
ソフィーとアラン様の話が終わるまで、屋敷を適当にほっつく歩くわけにもいきませんので、ぼーっと高い天井を見上げていると、くい、くいっとローブを裾を引っ張る者がおりました。誰だこのやろーと思って振り返ると、そこにいたのは可愛い愛弟子でした。
「あの、師匠。なんであんなに絵が飾られているんですか?」
当然の疑問でした。ですがあいにく私も、それに問いに対する正確な回答を持ち合わせていません。
「うーん……そうですね〜」
持ち合わせていないのですが、師匠の名に恥じぬわけにはいかないので、とりあえず適当な答えを言ってみました。
「貴族の感性は私には分かりませんが、私たち魔法使いが新薬の発明などで、調合した薬品をまとめた紙を無くさないように、壁に貼ったりするのと同じようなものなんじゃないですかね」
「へー、そういう事なんですか。じゃあ、あの絵もどこかに行っちゃわないように、ああやって飾っているという事ですね?」
「えーあーはい。たぶんそうです」
……絶対に違いますね。
「ティルラぁー?」
「――ひっ!?」
ソフィーの殺気を感じて、私は慌ててリベアに言い直します。
「すみません。今のは忘れてください。壁に絵画や肖像画を飾るのは、貴族特有の見栄だと思います」
「あ、そうなんですか。それなら納得です」
得心がいったというように、リベアが頷きます。そのあまりの理解の早さに、私は妙な違和感を覚えました。
(ん? あれ? 妙に納得が早い。この子、もしかして分かってたんじゃ……あれれー?)
そういえばそうでした。この子はたった1ヶ月で、師匠の屋敷から持ってきた本を全部読破してしまった賢い子なのです。
私の出した課題もあっさりとクリアして、他の国の言語はもちろんのこと、地域独特の言い回しも覚えてしまいました。
魔法の才能もそうですが、元々の知能指数が高く、魔法使いとしての素質は十分過ぎるほどありました。
まったく、優秀すぎる弟子にも困ったものです。
これなら王都の魔法使いになる試験も簡単にクリア出来るでしょう。
王都には魔法使いを養成する機関があり、その試験会場もあります。
リベアは魔法使いとしてはまだ見習いです。
人々に一人前の魔法使いとして認められる為には、王都で年に2回行われる試験に合格しなければならないのです。
試験に挑戦する方法は二通りあります。
一つは師匠の元で最低でも1年間は修行する事。でも大抵の魔法使いは弟子なんて取りません。
よほど自分の時間に余裕がある人でなければ、弟子を取ろうとは考えないでしょう。
弟子を取ることで自分の時間が取られる事はもちろんですが、適当に修行させて、試験に行かせ、それで落ちた場合、下がるのは自分の信望なのです。
リベアみたいな、一人でもなんでも出来る子が弟子なら苦労しませんが、残念ながらそうではない方々の方が殆どです。
そのため、もう一つの方法として学院制度というものがあり、魔法が使える少年少女はそこで数年間勉強し、試験に挑戦するのです。
世の中には自分の弟子になったら、絶対合格させると豪語する魔法使いもいますが、それはごく少数です。
他人の事なんて、ちっとも考えようともしない輩の方が魔法使いには大多数ですから。
それは貴族も同じですが、個々のやり方が違いすぎるので、昔っから貴族と魔法使いは仲が悪いんですよね。
王族がいなかったら、きっと貴族派と魔法使い達の間で戦争が起こっていた事でしょう。
王族のいる平和な世界に生まれて万歳です。魔王も勇者に倒されましたし。
さてここまで欠点だけを述べてきましたが、弟子を取る利点としては、その弟子が有名になる事で得られる得があるのです。
――それは名声です。
私はそれがあってなんになるの? と思ってしまいますが、普通の感覚をした魔法使いには、それは重要なものなのだそうです。
大賢者シャルティア様のように、偉大な魔法使いとして歴史に名を刻みたい。誰もが一度はその夢に想いを馳せ、悉く大きな壁に阻まれていくのです。
良くも悪くも、魔法使いは我の強い連中です。シャルティア様の弟子になりたい者の殆どが下心から弟子の打診をしていました。
だから師匠は私以外の弟子を取らなかったのだと思います。
私としても、私の他に弟子を取って欲しくなかったので、それだけはちょっぴり嬉しいと思ってしまいます。
師匠は、シャルティア様は最後まで私だけの師匠でいてくれましたから。
だから私も師匠に倣って、リベアの師匠として最後まで彼女の傍にいてあげようと思います。
(なんだかんだ言っても、私は弟子の事が好きですから。リベアを弟子にとって良かったです)
エントランスをぴょんぴょんと小動物のように動き回る弟子を見て、ほんわかとなる師匠でした。
あと、これは余談ですが、オルドスさんの調べによると魔法使いの5パーセントほどしか弟子を取っていないとの事です。少ない。
そしてその殆どが、女の子同士なのだそうです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
長くなってしまったので二つに分けました。
次回からリーナさんが登場します。
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