44.弟子のおねだりは、まさかの???でした。
今日はちょっとした観光ぶらぶら回です。
「うわぁー! ここが王都ですか!! すごいです。私が想像していたより何倍も大きいですよっ!!」
「リベア、あんまりはしゃぎ過ぎないで下さいよ。遊びに来たわけではないんですから」
「まあいいじゃない。リベアちゃんは王都に来るの初めてなんだし」
「確かにそうですが……」
馬車を降りた私たちは、王都をよく知らないリベアに街の様子を見学をさせるべく、徒歩でソフィーの屋敷まで向かっていました。
「フィアさん、あのキラキラしたものを売ってるお店はなんですか!」
「あれは貴族が着けるアクセサリーを販売しているお店ですね。夜会などに着飾るご婦人も多いと聞きます。最近では指輪などの装飾品が売れているようですよ。でも、フィアみたいな庶民には到底買えない代物です」
リベアがショーケースに顔を押しつけて、「すごぉーい!!」と叫んでいます。少々恥ずかしいですが、田舎に住んでいる者からしたら当然の反応ですね。
誰しもが一度は通る道です。
「フィアさん。あっちのお店はなんですか?」
「あのお店は近所の子供達がよく集まるお店で……」
都会の姿を目の当たりにし、目をきらっきらに輝かせた弟子が、解説役のフィアさんの話に耳を傾けながら通りを歩いていきます。
私とソフィーは、その後ろをゆったりと付いてきていました。
「注意した方がいいと思います?」
隣を歩く友人にそう声を掛けます。
ロフロス村というガチの田舎に住んでいた少女には、王都の風景は少々刺激が強すぎるかと懸念していましたが、現実では水を得た魚のように店を飛び回っていました。
解説役のフィアさんが大変そうです。
「せっかく王都に来たのだから、少しは自由にさせてあげたら」
「むっ。私が普段リベアを自由にさせてないみたいな言い方をしないで下さい」
「あら、それは失礼」
でもソフィーの言うことも一理ありました。
今度はちゃんとした観光で来て、弟子と一緒に王都を見て回りたいですね。私の師匠もそうやって街を案内してくれましたから。
「この街も、変わりませんね」
「ええ。魔王が倒されてから更に活気づいたようだけど、変わらない所は変わらないわ」
ソフィーが通りに面する脇道の中でも、随分と暗く、先の見えない道に目を向けます。
そこはスラム街と呼ばれる場所に続く道で、主に事業に失敗するなどして困窮した人や飢えに苦しむ人々、何かの犯罪を犯して元の生活に戻れなくなった人達がそこで暮らしています。
そのような陰湿な者が集まる場所で生活していると、生きる為に犯罪に手を染める人が多く出てくるのです。
私たちを襲った野盗も、元はスラム街出身者達だったようですから。
「……覚えてる? あの日の事」
「忘れもしませんよ。慈善活動をしていたら後ろから突如襲われたあれ、ですよね?」
それは師匠が死ぬ少し前、私が完全に引きこもる前の話でした。
私は魔法瓶を売って稼いだお金を使ってパンを買い、ソフィーと一緒にこの王都で慈善活動をしていた頃がありました。
その日は単なる気まぐれでした。
普段は公共の施設でしか行わない活動を「動けなくて、来れない人がいるかもしれないわ」とソフィーが言い、「じゃあ行きます?」と軽い気持ちで返事をして、路地裏に足を運んだ日の事です。
私は公式には存在しない人間です。戸籍だってありませんから。
ソフィーは貴族なので街の人からの覚えも良かったですが、私は違います。この王都での私の肩書きは、ソフィーのお友達程度のものでした。
魔法瓶の製作者だって事も、秘密にしてもらっていましたから。
服装だって街娘の服を着ていました。誰も私が魔法使いだとは思わないでしょう。
実際、私が王都に立ち寄ったのは、師匠と仕事の為に来たのを合わせても、両手の指で足りるくらいしかありません。それくらい私は昔から人との接触を拒んできたのです。
だからあの時、スラム街の入り口で慈善活動をしていたら、危うく売られかけるという目に遭うとは思ってもみませんでした。
当時の私は、腕と口元を抑えられかけた時パニックになりかけましたが、冷静に護身術で対処した後、杖を取り出して魔法を浴びせ、ソフィーと共にその場を後にする事が出来ました。
あの時は助かりましたが、正直今でもあの日の事を思い出すと鳥肌が立ちます。腕を掴まれた時の感触が未だに残っているくらいですから。
弟子にはそんな怖い思いを絶対にさせたくありませんでした。
(師匠から無理矢理護身術を覚え込まされていなかったら、今頃はどこかの金持ちに売られていたかもしれませんね)
――師匠の特訓はとにかく過激です。
護身術の時も死ぬかと思うほど投げられ、身体を痛めつけられました。そして多少の傷はすぐに癒やされ、「ほら、傷が癒えたんならさっさと立て、死ぬぞ!!」と特訓が再開します。まさに地獄でした。
(でも、そんな地獄のような特訓があったから今の私があるんですよね……)
しみじみと思う私でした。
「師匠! こっちに来てください!! 一緒にあのお店に入りましょう!!」
弟子が私の腕を掴みます。一瞬、男に掴まれた時の記憶が蘇りましたが、弟子の笑顔を見たらそれは消えました。
「はいはい、分かりました。今行きますよ」
どうやらリベアは、私に見て欲しいものがあるようです。
「買って♡」っておねだりされたら、買っちゃうかもしれないので、高いものは出来るだけ勘弁願いたいですね。
「そんなに急がなくても、逃げたりしませんから」
「ここですっ!!」
彼女に連れられて、ある通りを抜け、その建物の前に立ちます。
「え、ここ?」
「はい!」
そこはカップル専用の宿でした。つまりそういう事をする所です。
「さあ入りましょう! この辺りではここが一番だってフィアさんに教えてもらいました!!」
フィアさん……あの人はどさくさに紛れて弟子に一体何を教えてやがるんですか。
リベアが自分の腕と私の腕を絡め、宿へ連れ込もうとします。
「……リベア」
「はい……?」
「少々おふさげが過ぎますよ?」
「……え、あ。ごめんな――」
――やりすぎた。
そう自覚した弟子の頭を杖の先端で軽く叩き、私はリベアを元の通りに連れ帰るのでした。
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