42.温泉
温泉回
「えへへ。師匠、お背中流しますね♪」
「弟子にすごく不埒な目を向けられている気がします」
「私、師匠を不埒な目で見た事は一度もありませんよ?」
ザバーンっと頭からお湯をかけられます。
(ん? いまなんて?)
彼女の言葉に少し気になる部分がありました。
「……不埒な目で見た事は?」
「…………さあ、次は前を洗いましょう」
華麗にスルーされました。
執拗に前はまだ洗わないでと言っていたのはこの為でしたか。まあ知ってましたけど。
「誤魔化さないで、ちゃんと答えてくだ――」
「ん? どうしたんですか? 早く体を前に向けてくださいよ」
ずいっとその淡麗な顔をこちらに近づけ、ニコニコと笑顔を向ける弟子は、これ以上何も話してくれそうにありません。
「まあいいです。でも前は自分で洗いますから、リベアも早く自分の身体を洗って下さい」
そう伝えると、彼女はぷくーっと頬を膨らませて不満を露わにします。
「だめ?」
表情筋を極限まで緩めたような、母性をくすぐる甘い表情を向けられます。
「――っ、諦めて下さい」
とても可愛いのですが、そんな顔されてもダメなものはダメなのです。
弟子に手を出すのはいけないことです。たとえ女の子同士だとしても。
うちの師匠だって、一緒にお風呂に入った事はありましたが、その時決して変な事はしませんでした。
それどころかあの人、私の事を使用人かなんかと勘違いしているのか、めちゃめちゃ身体を洗わされました。
いい歳した大人なんだから、自分の身体は自分で洗って欲しいものです。
私が洗っている間はずっと無言で、防水対策をした研究資料を読んでいますし、ちょっと話しかけただけで「うるさい」と手持ちの石鹸を投げてきます。
今思い出しても腹立たしい限りです。ムカついて強く擦ってやっても、「あー、そんくらいがちょうどいいな」とかいう始末。
皮膚感覚どうかしてやがります。
そんなこんなで、今と同じく誰かとお風呂に入ると騒がしくなるものなんですね。
師匠が亡くなって、一人で入っていた時なんて、効率重視で5分くらいで済ませてましたから。
会話をする相手がいると、入浴の時間も変わるものです。
「リベアがくれた洗髪剤。とてもいい匂いがしますね」
「当然ですよ! 私が師匠によく合う香りの物を選んできたんですから」
すんすんとリベアが鼻を近付けて匂いを嗅いできます。
「近いです」
「えーもっと近くで嗅がせてくださいよ。出来れば直にお願いしたいです」
「いやです」
「んー。つれないですねぇー師匠。そんな事を言う師匠には〜――それいっ!」
彼女の手が両脇から伸びてきたかと思うと、私の慎ましい胸をがっしりと両の手で掴んできやがりました。
「ふむ。師匠の胸は、少しはみ出るくらいですか……でも、ほとんど私の掌に収まりますね。形もいいですし、とても柔らかい。今日はとてもいい事を覚えました。私が大人になったら手も大きくなるので、師匠の胸を全部……いやその頃には師匠も成長期ですし、今より大きくなってるかも。でも師匠の年齢でこれなら――」
「ひゃああああー! リベアッ!! それはダメ、破門にしますよ……ッ、ソフィー助けて!!」
饒舌に解説を続ける弟子を他所に、師匠は半ばパニック状態でした。
「あーごめん無理」
隣に座る友人に助けを求めると、すげなく断られます。
「私たちもやられかけましたからね」
フィアさんが気まずそうに頬を掻きました。
「そんなこと言わないで助けて下さい」
「むりよ、諦めなさい」
ソフィーは鈍色の髪から水滴を滴らせたフィアさんと二人で見合うと、「ねー」と仲良さげな様子を見せます。
フィアさん。なんだか艶かしい……。
胸を鷲掴みにされながらも、気になってそちらをよく見ると、湯気でよく見えませんが、ソフィーの身体をフィアさんが懇切丁寧に洗っていました。
ソフィーは本来ストレートな髪質で、綺麗な金髪をしていますが、普段は少しだけ毛先をくるくるにしています。
貴族のおしゃれってよく分かりませんね。
泡立っていてよく見えませんが、ソフィーもフィアさんも私よりは豊満な果実をぶら下げているようです。
豊かな胸元、ほっそりとした腰、すらりと伸びた長い足は同性の私から見ても色っぽく、つい見惚れてしまいます。
特にソフィーは腰の辺りもシュッとしていて、全体的にスタイルがいい。
吊り目でツンツンしている彼女ですが、服を脱いだら、忽ち美少女に変身します。
私を襲っているリベアやフィアさんも腰のくびれが抜群です。
フィアさんに至っては昔会った時とは全然違って、随分と色んな所が成長していました。
今や私の記憶にあるフィアちゃんは、夢の存在となってしまったのです。
――一体何をどう食べたら、そんな風になれるのでしょうか?
私だって、すらりと伸びた健康的な太ももに、ピチピチのお肌。顔は悪くありませんし、腰のくびれだって少しはあります。胸だってサイズ的には大きくはないですが、同年代の少女と比べて別段小さ過ぎるわけでもありません。
ですが、私の周りは少々強敵が多すぎました。
ソフィーやリベア達の印象が強烈過ぎて、人々の記憶に残らないでしょう。
最近知った事ですが、リベアは特に大人の男性に人気なのだとソフィーから聞きました。
こっそり作ったリベアのプロマイドが思いのほか売れたようです。そしてちゃっかり私のプロマイドを作っていたため、余っていた分全てを燃やしました。
リベアのプロマイドだけ、一枚貰っておいたのは内緒です。
ちなみにフィアさん、リベア、私の中で一番売れなかったのは私のようです。
けっ、どうせ私なんて魔法だけが取り柄の女の子なんですよ!
「お嬢様。お痒い所はございますか?」
「いいえ、大丈夫よ。フィアありがとう」
「ふふっ、お仕事ですから」
百合……。
そこに存在するのは、仕える主人に対する使用人からの愛と自分を支えてくれる使用人に対する愛のみで、フィアさんからはリベアのような不埒な感情を一切感じ取れませんでした。
「ねえ、今――んんっ。言ってたよね、やられかけたって」
弟子は会話中にも、容赦なくもみもみしてきます。
「ええ、私達はある方法を使ってなんとか難を逃れたわ」
詳しく話を聞くと、脱衣所で「皆さんの前では脱ぎたくない」と牛歩していた私を置いて、先に温泉に入った二人は、そこで弟子に「お二人とも、あの……少しだけ触っていいですか? 師匠に触る前の予行練習がしたくて」と言われ襲われかけたようです。
「じゃあどうやってリベアを――ん。ああもう、今変な声が出ました。リベア、離してくださいー!」
「いやです。絶対に離しません〜!」
彼女のアッシュブラウンの髪が私の肩にかかり、その息遣いがよく聞こえます。
「い、いや、これ絶対におかしいですよね。こんなに積極的な事は今までしてきませんでしたよ!」
「あ、それはフィアのお陰ね」
「フィアさんの? んっ!!」
「私達、リベアちゃんに言ったのよ。初めてはティルラに取っておいた方がいいって。他人の物を触るより、まずは好きな人のを一番に触るべきだって」
「はい。でも、そんないきなり迫るのは恥ずかしいっていうから、フィアが催眠をかけてあげました」
「この子そういうのが得意だから。本当は軽い悪戯でちょっと触るだけみたいだったけど、だいぶグレードアップしたわね」
「あなたたちのせいですかー!」
代わる代わる解説する二人に、私は段々頭が痛くなってきました。
うちの弟子になんて事をしてるんですか。
やっぱり目を離すべきではありませんでした。最初から恥ずかしがらず脱いでいれば……どうせ温泉にはタオルを巻いて入れないのですから。
「ちなみにどんな催眠をかけたんですか?」
気を取り直して、リベアに掛けた催眠を聞きます。するととんでもない答えが返ってきました。
「羞恥心がなくなって、全力で好きな相手に特攻する催眠です。フィアこういうの得意なんですよ!!」
「リベアになんて催眠を掛けてるんですかー!! それ一番ダメなやつです」
「ごめんなさい。お嬢様の命令で」
「ソフィィィィィィィィイーー!!」
「まあ、頑張りなさい」
「えへへ。ししょう〜大好きですー♡」
私が叫ぶのと同時にリベアの力がいっそう強くなり、仰向けに押し倒され、タイルの上に組み敷かれます。
「うひゃ!」
おへその下辺りに抱きついたリベアが、ぐりぐりと身をよじり、ほっぺを擦り寄せてきます。
「フィアさん。早く催眠を解いて下さい!!」
流石に可哀想と思ったのか、フィアさんがこちらに歩み寄ってきてくれます。
助かった――そう思ったのもつかの間、ソフィーがすっと手を出して彼女を止めました。
「面白いからもう少し見ていましょう」
「ソフィー〜!! 覚えておいて下さいよぅーー!」
「ええ、しっかり忘れておくわ」
「ししょうー♡ 私は師匠の事が大好きなんです!」
「それはもう十分過ぎるほど分かりましたからー!」
フィアさんは何もしていないのに、どんどん自己暗示で催眠が悪化していくリベアが、私を四つん這いにさせ、お腹に腕を回し、左足を太腿で挟み込み、顔を背中にすりすりしてきます。
(私の背中に、リベアの大きな果実の感触がします……)
これは色々不味い、そう思った所でようやくフィアさんが催眠を解いてくれた事により事なきを得ました。
「あれ? 私は今までなにを?」
そして、その間に起きた出来事を弟子は一切覚えていませんでしたとさ、まる。
「私の完全なやられぞんじゃないですか……覚えておいて下さいよ、ソフィー」
「さ、リベアちゃん。身体を洗ったら一緒にお風呂に入りましょう。貴方の師匠も待っているわ」
「は、はい。師匠、なんで師匠がそんなにげんなりしているか分かりませんが、すぐに身体を洗って、師匠想いの愛しの弟子が癒しに向かいますね!」
「……はい」
――あなたのせいで、こんなにげんなりしているんですよ! とは言えない、弟子想いの師匠でした。
「リベアちゃんが来るまで、温泉に浸かってましょうか」
「ええ。あなたとはゆっくり話がしたいですから」
ガッと彼女の肩を掴み、引き寄せます。
そうして私は、ソフィーと共に温泉へと入るのでした。
【※読者の皆様へ】
次回もちょっとだけ続きます。
「面白い」
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「リベア可愛い!」
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