35.優生思想は嫌いですっ!
「お、見えてきましたね」
見慣れた景色を目で追っていると、これまた見慣れた屋敷が見えてきました。
私のお屋敷、あんなにおっきかったでしょうか?
そういえば部屋に閉じこもってばかりでしたので、屋敷を外からじっくり見た事なんてありませんでしたね。
屋敷をこんなに意識して見るのは、初めてこの屋敷に来た時と屋敷を追い出された時を合わせて、今回で3回目になります。
「へえ、こう見ると結構立派な屋敷だったんですね」
「おお〜あそこが師匠とシャルティア様の愛の巣だった場所ですかー」
何を言っているのでしょうかこのバカ弟子は。とりあえず軽く頭を叩いてあげました。
「久しぶりにここに来たわね。基本的にあなたとの取引は水晶を通して行っていたから、来るのは2年ぶりかしら?」
「1年ぶりですよ。毎年私の誕生日の日には来てくれてたじゃありませんか」
親切に間違いを訂正してあげますと、彼女は途端に不機嫌そうな顔をします。
「そうだったかしら? あなたの記憶ではそうだったかもしれないわね」
「えっそうなんですか!? ソフィーお嬢様、意外とむっつりなんですね」
「誰がむっつりよ! もう絶対にあなたの誕生日祝いには行かないわ!!」
「ええ、今年はリベアがいるので十分ですよ。ソフィーはもうお役ごめんです」
「ししょう〜」
隣に座るリベアを抱き寄せます。彼女は満更でもなさそうに身をよじりました。
「フィアもティルラ様の誕生日祝いに行きたいですっ!」
「フィアさんなら大歓迎ですよ。人数は多い方がいいですから。トミーさんも来ますか?」
小窓からやり取りを聞いていたであろうトミーさんに声を掛けます。彼は野太い声で御者席から返答しました。
「あっしよりお嬢様を呼んでやってくだせぇ。今にも泣き出しそうな雰囲気が、こちらにも漂ってきてますぜ」
「……仕方ありませんね。ソフィー誘って欲しい?」
「なんで上から目線なのよ! 私は絶対に行かないわ」
「そ、まあ気が変わったらいつでも来ていいから」
「気が変わったらね!!」
彼女はふんと鼻を鳴らし、髪を指でくるくると弄ります。
毎年同じようなやり取りをしてきましたが、結局最後にはいつも来てくれるんですよね。
それに加えて、今年はリベアとフィアさんもいるので大変騒がしくなりそうです。
でも明日の話し合い次第で、私とソフィーは今後一切の干渉を禁じられるかもしれませんね。
いかに私が大賢者の正統後継者といっても、今の私はただの放浪の魔法使いです。
反対に彼女はきちんとした地位のある貴族家の御令嬢です。立場が違い過ぎます。
師匠の亡くなった今、昔とは状況が違うのです。
ですから向こうに着いたらまずはリーナ様、ひいてはご両親の真意を正確に汲み取る必要があります。頑張りませんと。
「ティルラ様。もう少しでシャルティア様のお屋敷に着きまっせ」
「分かり――」
分かりました、と言い切る前に馬車が急停車します。一体何事でしょう。
「貴様ら! 一体どこの者だ! ここは魔法統率協会の人間以外立ち入り禁止だぞ!!」
窓から覗くと、協会の制服に身を包んだ男性達が馬車の周りを取り囲んでおりました。
トミーさんがどうどうと暴れようとする馬を落ち着かせます。
魔法統率協会、なんて強引な止め方をする連中でしょう。馬に向けて攻撃魔法を使いやがりましたね。
「ちょっとどうするのよこれ?」
「し、ししょう〜」
肩を震わせたリベアが私の手を握ってきます。
「リベア、大丈夫ですから。ソフィーちょっと行ってくるのでその間弟子をお願いします」
「分かったわ」
ああっ……と切ない声を上げてリベアの手が私から離れます。代わりにその手をソフィーが握りました。
考えてみればリベアは大人っぽいですが、中身はまだ未成熟の子供なのです。こんなに多くの男の人達に囲まれ、あまつさえ怒声を浴びせられたら誰だって怖いものです。
(師匠の激おこ状態を間近で見ていたせいで、感覚が麻痺してますね。このくらいじゃ怖くありませんもの)
馬車から降ります。周りを囲む彼等は、ずいぶんと気が立っているご様子でした。
「あの、すみません。その人は関係ないので放してあげて下さい」
胸に付けているバッジを見て、この中で一番偉いであろう人に声を掛けます。
「なんだお前? 馬車の中で一番上の者か?」
「ええ、まあ」
彼は私を捉えると、値踏みするかの様にこちらの全身を見てきます。分かりやすく魔法使いの格好をしていて正解でした。こいつらは魔法使い相手なら話を聞いてくれますから。
襟首を掴まれていたトミーさんが乱暴に放されます。私は咄嗟に魔法を使って、彼を受け止めました。
「大丈夫ですかトミーさん!」
「はい、あっしは平気ですぜ……」
膝をついて、彼の怪我の程度を確認します。
「……なにをしている」
「治療です」
彼は魔法使いである私が、市民の為に魔法を使うことをよく思っていないようです。
ギリッと私は彼を放り投げた職員を睨みつけます。このような行い、同じ魔法使いとして到底見過ごせませんでした。
「なにを睨んでいる? そいつは弱者だ。魔法もろくに使えず日々を怠慢に過ごしているだけのな」
「私は魔法を使えない人が人として劣っているとは思えません。自分の考えだけで他人を見下すのはやめて下さい」
「我々が間違っているとでも?」
「そうです」
軽い擦り傷を負ったトミーさんに治療を施し、馬車の中に入るよう指示します。
それを見届けた後、私は外套についた砂埃をはたき、杖を持って立ち上がります。
「これだから魔法統率協会の人達は嫌なんですよ。自分たちがエリートだと信じて疑わず、他者を見下すような集団ですから」
その言葉に彼等は一様に殺気立ちます。
まったく煽られたらすぐにキレるとか、器が小さい連中ですね。ソフィーを見習って欲しいものです。
「なんだと貴様。我らを愚弄するのか?」
ジリっと彼等が一斉に杖剣を抜いて近付いてきます。
「面倒ですね。貴方では話になりません。序列三位のオルドスさんを呼んできて下さい」
舌打ちを一つして、彼等の上司の名を口にします。
これだけ頭数が多いと、ソフィー達を守り切れるか分かりません。相手は腐っても魔法使いですから。
こいつらにはムカつきますが、無駄な争いは避けたい所です。
「何故貴様がオルドス様の事を知っている!?」
「知り合いだからですよ。あなたには関係ありません。ほら早く呼んで来て下さい」
しかし何度呼びかけても、彼等は呼びにいこうとしませんでした。
「あの人はお忙しい。だからお前如きの為にご迷惑をかけるわけにはいかないのだ。ここで我らが対処する」
「へぇ……どうやって?」
舌でぺろりと唇を舐め、私は好戦的な笑みを浮かべます。
「同じ魔法使い同士なら分かることだろ」
彼もニタリと口角を上げ、挑発に乗ってきました。
彼の杖剣が怪しく光を放ち始め、周りの職員もそれに同調します。完全な威嚇ですね。
「そっちがその気なら、私も本気でやりますよ」
普段は抑えている魔力を解放し、彼等を威圧します。魔法使いならこれで互いの力量がわかるというものです。
「存外に魔力量が多いな……全員油断するな、かなりの手練れだ」
これでもまだ、半分以下しか解放してないんですけどね。彼等にはそれだけで十分過ぎるようです。
周りの職員達が私を取り囲み、規律の取れた構えをみせます。
さあ、やりますか! っと私が杖を振ろうとした時、あの変態くそ野郎の声が聞こえてきました。
「やめろっ、貴様ら!! 私の命令なしに何をしようとしている!」
序列三位こと、私を屋敷から追い出した魔法統率協会所属のオルドスさんです。
部下を叱責しながら、彼はこちらに目を向けます。
「屋敷を追い出された日ぶりですね、オルドスさん」
どんな相手にも笑顔は欠かせないとソフィーは言っていました。だから私は彼にも笑いかけてあげました。
「ティルラ・イスティル……」
彼は私の名を忌々しげに口にします。
今、彼の目には私がどう映っているのでしょうか? 気味の悪い髪色と瞳をした魔女でしょうか?
「オルドスさん。部下の躾はしっかりしといた方がいいですよ。あと少しで使い物にならなくなる所でしたから。まあ私はそっちの方がスッキリしたんですけどね」
ふふふっと意味深に笑ってやりました。
この時のことを後でリベアに聞きましたが、ゾッとするような笑みだったそうです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します!
皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!




