33.旅路
ゴトゴトと揺れる馬車に乗り込んだ私たちは、のんびりと王都に向かっていました。
ソフィーによると、どんなに早くても首都にある本邸に着くまでには、ここから二日ほどかかるとの事です。
ですから、最低一日は外泊する事になります。
『私が全員分の宿代を払うわ』
あとあと問題になりそうな旅費は、全額ソフィーが負担してくれるとの事です。
ソフィーにしては気前がいいですよね。
もしかしたら頼られてるのかもしれません。金はやるから、親は任せた! みたいな。
彼女の実家には、ソフィーが直筆で『今から家に帰る。そして話がしたい』という内容の手紙をしたため送付しました。
返事が返ってくる頃には、向こうについているでしょう。
そんな事を考えながら、窓の外をぼーっと眺めていると、ちりちりと日差しが照りつけます。
「……あー、やっぱり外は日差しがきついですね」
「よく言うわ。そんなに肌が白いくせに」
「フィアも、ティルラ様のお肌は羨ましいです」
「師匠は素材採集の時以外、基本的に外に出ようとしませんからね」
「家が一番ですから〜」
「あなたねぇ〜……」
ソフィーが呆れたような声を出します。
健康的な肌色のリベア。私が弟子時代に着ていたお下がり外套に身を包んだ彼女は、どんな時でも元気いっぱい! という印象を周囲に与えます。
今度、帽子をプレゼントしてあげましょう。
次にソフィー。
今日は仕事用の服装ではなく、外出用のドレスを着ています。
貴族令嬢として申し分ない、ピンク色の艶々お肌をしています。
フィアさんはメイド服姿なので、お顔と手首の先以外、あまり肌は露出していませんが、そこから分かるのは私とリベアの丁度中間辺りの肌色をしている事です。
うむむ。フィアさんだけ情報が少ない。いっちょ脱がしてみましょうか……やめときましょう。捕まりますね、きっと。
最後に引きこもり過ぎて、白過ぎる肌の私。
全員それぞれの個性がありました。性格が出ていると言ってもいいでしょう。
「ふむ。ソフィー、私は寝ます。今日泊まる宿に着いたら起こして下さい。あとお昼の時も」
「ちょっと、寝るにはまだ早いわよ」
「だって、手持ち無沙汰で……」
やる事と言っても、屋敷から持ってきた本を読む事くらいです。
――ガダンッ!
馬車が大きく揺れます。
「またですか……」
これだけ揺れが酷いと、読んでいる内に酔ってしまうでしょう。
「お嬢様方、先程からすみませんね。道がずいぶんと荒れてしまっていて……」
小窓から顔を出したトミーさんが、申し訳なさそうに頭を下げます。
「トミー気にしないでちょうだい。あなたが謝る必要はないわ。あなたの腕は私が一番よく知っているもの」
私に向かい合う形で座っていたソフィーが、首を横に振りました。
「ありがとうごぜいやす」
トミーさんは、もう何十年もグラトリア家に御者として勤めているため、相応の技量を持っているのだそうです。
ソフィーは私たちに、馬車が揺れるのは決して彼の腕が悪いわけではないと、遠回しに言っているのです。
直接言わない辺り、彼女はトミーさんの気持ちによく配慮している事が窺えます。
ですが私だって言われなくても、それくらい理解しています。
「よいしょっ」
窓を開け、そこから顔だけ出して、地面の様子を観察します。
昨日降った雨風のせいで、地盤が緩んでいるのかもしれません。
風に飛ばされてきたであろう木の枝や、小石の破片があちこちに見受けられました。
(これだけ道が悪いと、普通は速度を落とすものなんですがね)
急ぎ過ぎれば転倒の危険があります。それでもスピードを落とさずに、ここまで走ってこれているのは、やはりトミーさんの技量が高いからでしょう。
(ここは一つ、お手伝いをさせて頂きましょうか)
袖口から杖を取り出し、ひょいっと振るいます。
透明の輝きが一瞬、馬車を包みこみました。
「――よっと。これで少しはマシになる筈です」
「ティルラ、今何したの?」
不安そうな顔をしたソフィーが、車外に身を乗り出していた私のローブの裾を引っ張ります。
私、信用なさすぎません?
「魔法で馬車を強化しました。これで少しはバランスを取りやすくなりますし、もっと走らせても転倒したりしませんよ」
「そいつはありがてぇです。えっと、魔法使い様、ありがとうごぜいやす」
「いえいえ。お仕事頑張って下さい」
精一杯の営業スマイルを向けます。
トミーさんの顔が少し赤くなった気がしましたが、元々赤っぽかったので気のせいでしょう。
それより他の三人の「うわぁ〜……またやってるよあいつ」みたいな視線が地味に刺さりました。
外面を良くするのは大事な事でしょうに。
「あら、ほんとにスピードが上がったわね」
「師匠の魔法がよく効いているみたいですね」
「揺れもだいぶ和らぎましたー」
「ふふ、どんどん褒めて下さい。みんなが褒めてくださると、私がとても喜びますので」
「調子に乗らないで下さい」
「むぅー」
弟子にむにょーんとほっぺを引っ張られます。
いひゃいです。
「こりゃあすごい。こんなに飛ばしても、馬車が言うことをききやす。それになんだか、馬も普段より生き生きしてまっせ」
「休息は必要ですけどね」
馬車と一緒に、馬にも掛けた強化魔法は好評のようで、トミーさんはとても喜んでおられました。
トミーさんとフィアさんの言う通り、揺れも多少おさまったので、私は読書に勤しむ事にしました。
――ドスン。
おや? 誰かが膝の上に乗っかってきました。どちら様でしょう。お弟子様でした。
「リベア……そこで何してるんですか? 邪魔です。前が見えません」
彼女はえへへーと可愛らしく笑って、体勢は変えずに首だけこちらに向けます。
「師匠の言う通り暇ですね。でも私は師匠が隣にいるなら、それだけで幸せなんです。それで幸せをもっと近くで感じるために、こうやって密着してみました」
「そうですか……膝枕ならまだしも、これは……」
「えっ、膝枕ならいいんですか!? じゃあお願いします」
どうやら余計な事を言ってしまったようです。こうなったら後には引けません。この子の性格はよく分かっていますから。
「……くれぐれも、くれぐれも変なことはしないで下さいよ」
「はい!」
元気な返事が返ってきました。
「うーん、それだけ元気がいいと逆に不安になりますね〜」
「師匠。私そんなに信用ありません?」
小首を傾げてもダメです。可愛いけど。
「お互い様です」
先日の件があるので、一応釘を刺しておきます。他の人の目があるので、大丈夫だとは思いますが。念のためです。
「やったー! 師匠のお膝です。生足です!」
リベアと会った時に、私の格好は伝統的な魔法使いの格好と称しましたが、やっぱりおしゃれは若い子の特権です。
なので外套の下は短いスカートなのです。
対面に座っているソフィーから見れば、私のパンツが見えるギリギリのラインです。
これが仇になりました。
我が弟子はお貴族様の馬車の中だというのに、さっそく身体を横にして、私の膝の上に頭を乗せてきました。
「すべすべですー」
などと言って、やらしい手つきで太ももを触ってきやがります。
「きゃっ」
その手をペシっとはたきます。
(この子、私のことになると平気で常識を破ってくるんですよね)
でも嬉しそうな愛弟子を無碍には出来ませんでした。
仕方なく本を小脇に置き、無闇に触らない事を条件に膝枕を許します。
ついでに優しく頭を撫でてやりました。髪、さらさらです。
「リベアの髪は柔らかくて、触り心地がいいですね」
「毎日時間をかけて手入れをしていますからぁ。師匠こそ、人を撫でるのが上手いですね。経験がおありですか?」
「なんですかそれ。まあ経験がないと言ったら嘘になりますけど」
ちらっとソフィーの方に目を向けると、サッと視線を逸らされてしまいました。
「な、なによ!」
「いいえ。別に」
顔をちょっぴり赤くして吠えるソフィーの視線は、膝枕されているリベアに釘付けでした。
おやおや。これは羨ましがってるのでしょうか?
そんな顔をされると、いじりたくなっちゃうではないですか。
「ふふふ……」
では一つ試して見ましょう。どんな反応をするか楽しみですね。
「師匠。また悪い顔になってます……」
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