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32.女の子の涙には弱いんです! もう、行ってやりますよソフィーの実家に!

「それで。貴方と私の出会いを二人に洗いざらい話しちゃったんだって?」


「はい。ソフィーお嬢様のおっしゃる通りです」


 床に正座させられた私は、彼女の言葉に頷くほかありません。事実は事実なのですから。たとえその先に地獄が待っていようと、嘘をつくよりはマシなのです。


 ベッドに腰掛け、糾弾するような姿勢で非難の目を向けてくるのはソフィーです。


 彼女は眉間に皺を寄せ、軽くため息を吐きました。


「ねぇティルラ、勝手に昔の事は話さないでって前にも言ったでしょ? 私だって恥ずかしいのよ、子供の頃の事なんか」


「はい、覚えています。そしてソフィーが恥ずかしがるだろうなと思って、二人に教えました」


「――は? 今なんて?」


「いえ、なんでもありませ――く、苦しい……助けて」


 弁明も虚しく、即座に首を絞められます。素直過ぎるのもよくありませんでしたね。


「う、うぅ……」


 ギブ、ギブです……目の前がなんだか暗くなって……。


「ソフィーさん。あの、その辺で勘弁してあげて下さい。これ以上されると、本当に師匠がシャルティア様の元に逝きかねません」


 見かねたリベアが、助け船を出してくれます。あとでご褒美に頭をなでなでしてあげましょう。


 よく分かりませんが、リベアは頭を撫でてあげると、とても喜ぶんですよね。彼女を怒らせた時によくやっています。


「そうです……リベアの言う通り……早く離し――ぐぇ!」


 私はリベアに追従して、ソフィーの腕を掴みます。離せよ、おらぁ! 心の中では強気な私です。


「あんたは黙ってろ!」


 これで最後とばかりに、本気で絞められました。


 そのあと私は無事? 解放されました。


「はぁはぁ。本気で死ぬかと思いました」


「大丈夫ですか、師匠?」


 頭の中で一瞬、師匠の顔がよぎりました。走馬灯というやつでしょうか? 悲しいですね。人生の最後に見る顔が、師匠というのは……今度からはリベアにしてもらいましょう! 頼みますよ、私!!


「ちょっと疲れました」


「私のお膝をお使いください!」


 リベアに膝枕してもらいます。いい匂いです。石鹸の良い香りがします。


 ごろりと顔を上に向け、今度は目でリベアを堪能することにします。


 う~む、絶景です。天井がほとんど隠れてしまうほどの実に素晴らしい眺めです。私もこのくらい欲しい。


 ソフィーも私も、ちっぱい方ですから。ソフィーが何かを察知して、こちらを向きます。


 女の勘は怖いです。


「ソフィーお嬢様もやり過ぎです。フィアはとても心配しました」


「あらフィア。それはどちらの心配かしら? 主人である私が犯罪者になる心配? それとも首を絞められて苦しそうにしているティルラの心配かしら?」


「どちらもです。フィアはお二人の味方ですから」


「そう……食えないわね」


「? 何の事でしょうか? フィアには分かりません」


 頬に人差し指を当て、こてんと小首を傾げるフィアさん。


 その道化じみた仕草に、疑念を抱きかねませんが、彼女に特に怪しい点はありません。ソフィーに目配せすると、肯定が返ってきます。


――こういった性格と捉えるのが無難ね。


――やっぱりそうですよね。前に会った時はもっと可愛かった気もしますが。


「?」


 急に黙り込んだ二人を見て、フィアさんが戸惑っています。彼女がそうなるのも無理はありません。


 この技術は巷で、商品の交渉をする時に覚えました。目の前に交渉相手がいる中で、堂々と相談するわけにはいかないので、ソフィーと視線だけで意思を汲み取りあったのです。


 最初は大変でしたが、慣れれば便利です。


――フィアさんに試すような事をしたりしましたが、彼女と何かあったんですか?


――貴方が知らなくていい事よ。


――さいですか。


 ソフィーがそう言う時は、決まって何も教えてくれません。一応昔のよしみで、心配してあげたって言うのに……。


「お嬢様?」


「……まあ今はいいわ()()ね。それよりティルラ、あなた二人に私の問題を解決するって約束したみたいだけど、あれほんとなの?」


「まさかぁ〜。二人に解放される為だけの嘘ですよー」


「まぁ、そうよね」


 それを聞いて、彼女はちょっと悲しそうな顔をしました。


「ソフィー?」


「なっ、師匠! 私達を騙したんですか!!」


「騙される方が悪いんですよーって、ソフィーなに泣きそうな顔をしてるんですか? まさかほんとうに――」


「うるさいわね!! あたしだって泣きたい時があるのよ!」


 あ、これガチ泣きです。


 つまりソフィーは、本気で私に助けて求めていたという事になります。え? あのソフィーが?


 おろおろしていると、リベアとフィアさんの二人がソフィーの両脇に立って、彼女を慰めます。


「あ、その……」


「ししょう」


「はい」


 我が弟子がくるっと反転したかと思うと、フィアさんと一緒に私の事を指差してきました。


「師匠がソフィーさんを泣かしたー。いっけないんだー! お母さんに言っちゃおー!」


「え、ちょっ」


「フィアもお嬢様のご両親に手紙をしたためます。ティルラ様がソフィーお嬢様を虐めたって。そして共通の敵を相手に、お嬢様と両親は和解するのですっ!」


「いやいい考えですけど、私を悪者扱いしないでください! 分かりました。今からソフィーの家に行きましょう。嫌だとは思いますけど、ソフィーもついて来てください! ご両親に忘れられてるかもしれませんから」


「それはないと思うけど……」


「ソフィーだって、いつまでもこうしてはいられないって分かってるんですよね? なら早く済ませてしまいましょう。私は嫌な事は先に終わらせる主義なんです」


「――! そうね、あんたはそういう性質(たち)だったわね……分かったわ。行きましょうか、実家に。フィア、準備して」


「はい、ただいま」


「あ、私も手伝います」


「リベアは私と一緒に来てください。ちょっと持って行きたいものがあるので。出発の準備は二人にお願いします」


「分かったわ」


「はい!」


 ソフィーは最低限の荷物の準備を。フィアさんは馬車の用意をするために、近くの街に待機させている使用人に連絡を入れに行きます。


 私は弟子を連れて、地下室に向かいました。


「師匠、持って行きたいものってなんですか?」


 その質問に対して、私は自信満々に答えました。


「ふふっ、秘密兵器ってやつですよ!」

次は実家編です。みんなでソフィーの本邸に向かいます。

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