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30.不器用なわたしの師匠

「……この、バカ弟子が。人様に迷惑かけやがって」


「あっ、師匠……わたしの事をまだ弟子って……」


「あ? そんなの当たり前だろーが。お前は死ぬまで私の弟子なんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、わたしの中で何かが弾けました。


「あ、あれ? 師匠の顔が見えません」


「あ?」


 なんだか視界がぼやけています。急に目が悪くなったのでしょうか?


 必死に目を擦っていると、後ろから優しく肩を叩かれました。


「ティルラちゃん。シャルティア様のお顔がよく見えないのは、貴方が泣いているからよ」


「え、あ」


 わたしはリーナさんに指摘されて、初めて自分が泣いている事に気が付きました。


「なんでしょう。師匠の姿を見たら……あれ、おかしいなこれ。全然嬉しくない筈なのに」


 口ではそう言っても、心までは騙されてくれません。涙はとめどなく溢れてきます。


「……帰るぞティルラ。こないだは、その……悪かったな。今度からは、もう少しお前の好きなようにさせてやるし、酒も煙草もやめる。あと休憩時間も増やそう」


「……! いえ、その、私の方こそ少し言いすぎました」


「ああ。くそばばあと言われた時は、さすがに目の前が暗くなったぞ。危うくお前を殺して、私も死ぬ所だった」


「わぁ怖い。家出して正解でしたね。師匠と心中なんてごめんですから」


 よかった。いつもの師匠です。涙も少し落ち着いてきました。


「それでどうするんだ? 私と来るか? あの時みたいに」


 師匠の言うあの時とは、孤児院でわたしを拾ってくれた時の事を言っているのでしょう。


 その時の事を思い出すと、それまでの想いが一気に込み上げてきます。


「う、うぅ師匠……ごめんなさい。本当は会いたかったんです!」


 わたしは師匠に向かって駆け出します。


(あれ? この光景どこかで……)


 走っている途中に、どこか既視感(デジャブ)を感じました。そうです。これはわたしがグラトリア家に訪れた時に、ソフィーが母親の元に駆け寄って行った時の光景の再現です。


 わたしの向かう先には、迷惑そうに両手を広げた師匠がいます。


「ししょう〜――ぐぇっ!?」


 愛弟子のわたしにハグ一つくれる事なく、師匠の拳がお腹にめり込みました。


 そして師匠は、そのまま動けなくなったわたしの首根っこを乱暴に掴みます。


 暫く会っていなかったせいで忘れていました。この人はこういう人でした。


「ったく、根は泣き虫だからなお前は。グラトリアのご夫人。そういう事だから、ティルラは私が預かる」


「えぇそうなるわね。残念だわ。ティルラちゃん、私好みの可愛い子だったのに……特にあのピンク色のひらひらドレスを着た時なんか」


 え? ここでその話出します。師匠も今、ぷって笑いましたよね?


「そうですね。弟子のドレス姿ほど、滑稽なものはありませんでしたよ」


「シャルティア様は意地悪ですね。貴方があのドレスをティルラちゃんに着るように仕向けろと、私に仰ったではないですか」


「えぇ。だって絶対似合わないと思いましたから」


 二人が楽しそうに笑い合います。


 どういう事でしょう。この二人の会話を聞くに、師匠とリーナさんはお知り合い? なのでしょうか?


「あの、二人はどういう関係なんですか?」


「ん? ああ、それはな……」


 師匠はわたしが小屋を飛び出してからの事を語り始めました。


◇◆◇◆◇


 一通り話を聞き終えたわたしは、顔を真っ赤にしていました。


「師匠は、全部見ていたんですね」


「ああ。だいたいの経緯はな」


 なんでもわたしが小屋を飛び出して数時間経った後、急に「やべーどうしよう。弟子、死ぬかも」と思い立ったようで、すぐに探しに来てくれたそうです。


――おっ、こっちか。


 師匠はわたしの痕跡を辿り、実はソフィーと会うより早くわたしを見つけていました。


 足をずるずると引きずるわたしを見て、回収するかもう少し眺めていようかと悩んでいたようですが、本当の所は喧嘩したばかりなので、なんと声を掛けたらいいか分からなかったようです。


「へぇ、覗きとは趣味が悪いですね。喧嘩してるとはいえ、愛弟子なんですから、さっさと助けてくれればいいものを」


「うるせぇな。ちゃんと寄ってくる害獣は駆除してたよ」


「成る程。だから途中から急に、害獣にあう率が少なくなったんですね。納得です」


 そこにソフィーがやってきて、師匠は「じゃあ、成り行きに任せてみるか」とこっそりわたし達の後のついてきていたそうです。


 全然気が付きませんでした。流石は師匠です。


「んで、お前とグラトリア家の令嬢様が眠った後、こっそり夜中に、大人達だけで会談してたわけだ」


「はあ」


 つまりこの1ヶ月半の出来事の裏では、師匠が暗躍していたのです。ソフィーの両親と師匠はグルだったのです。


『あいつには休息が必要だった。根の詰めすぎで、私もつい強い口調で叱ってしまった。それにあいつには年の近い友人がいない。師匠である私には、友達の役目が出来ないんだ』


「だから、頼む。この夏の間だけでいいから、面倒を見て欲しいと頼まれていたの」


 リーナさんが楽しそうに種明かしをします。


 師匠も内に秘めていた想いを暴露され、恥ずかしそうにしていました。一方、想いを告げられたわたしも恥ずかしい思いをしています。


「そしてこうも言われたの。もし、ティルラちゃんが私達の方について行きたがっていたら、面倒を見て欲しいと。養育費であるお金は毎月払うと言って、私達貴族からしても、決して少なくない額を提示してきたのよ」


「し、師匠がそんなことを……」


 師匠の方を見ると、プイッとそっぽをむかれました。なんですか、可愛いですね。


「ね、ティルラちゃん。貴方の師匠は、ティルラちゃんが思ってるよりもずっと貴方のことを……貴方の幸せを考えてくれているのよ」


「そう……みたいですね」


「そうよ。だから仲良くね!」


 わたしと師匠の手を取り、仲良くしてねと無理矢理握手させられます。師匠もわたしも物凄く嫌な顔をしていました。


「あーそれじゃあ、当主様に挨拶して帰るか。あ、そうだった――ソフィーお嬢さん」


 わたし達三人の会話についていけず、すっかり空気と化していたソフィーに、師匠が優しく話しかけます。


 急に名前を呼ばれたソフィーは、ひゃい! と返事をします。可愛い。


「お互い距離は離れちまうが、これからもティルラと友達でいてくれると助かる。こいつは変わりもんで、進んで友達を作ろうとしないからな。そのせいでこの年になってもぼっちのままだ」


「は、はい。シャルティア様! ティルラの事はわたくしにお任せ下さい!! 誰がなんと言おうと、ティルラは一生わたくしのお友達です」


「ああ、ありがとう」


 興奮した様子で頷くソフィー。まぁ目の前に本物の大賢者様がいるのですから、そうなるのも無理はありません。でも、一生のお友達ですか……めんどくさそうです。


 ですがこのまま師匠が、いい感じに終わらせるのはムカつきますので、その化けの皮を剥がすべく、わたしは横槍を入れました。


「師匠もぼっちじゃないですか」


 ぷぷぷーと近寄ります。頭に拳骨を喰らいました。痛い。


「るせぇよ、バカ弟子! 私には酒と煙草という友達がいるんだよ!」


「ダメな大人の典型ですね……」


 すぐに本性を出す師匠。


「……それにお前がいないとご飯は美味しくないし、酒や煙草も落ち着いて吸えやしないんだよ」


「はい?」


「なんでもない。忘れろ」


 あと酒が入ってると、すぐに本音を吐き出します。


 今日も少し入ってるのでしょう。


 普段、わたしが注意するとうるさい、あと一本だのいうくせに、ほんと素直じゃありませんね。


「あらあらティルラちゃん。こちらこそソフィーの事をお願いね」


「あ、はい。お世話になったリーナさんの言う事でしたら」


 わたしはがっしりとリーナさんの手を掴みます。この人は……好きです! 特に胸。貧相な師匠とは大違いです!!


「あ? なに私の事を見てるんだ?」


「なんでもないでーす。さ、帰りましょう」


「あ、おい待てよ! ったく勝手な奴」


「お互い様です。じゃあねソフィー。また会いましょう」


「そうね。シャルティア様の手前、また友達として遊んであげるわ」


「はいはい。ありがとうございます」


 ソフィーも素直じゃありませんね。それを言ったら、わたしもですけれど。


 当主様に挨拶をして、お世話になったメイドさん達に見送られながら、わたし達は屋敷を後にします。


 少し歩いた所で、師匠に話しかけられました。


「……今ならまだ戻れるぞ」


「いいんです。わたしは自分の意思で師匠と居るって決めたんですから。わたしがいないとすぐに部屋を汚くしますし、どうせ脱いだ服も散らかっているんでしょう?」


「うっ、少しは片付けをしたぞ、少しはな……」


 あからさまに視線を逸らす師匠。


 帰って最初にする事は、大掃除になりそうです。


 でも見知った日常に帰ってきた気がして、なんだか安心しました。


「しーしょう!」 


「ん? なんだ気持ち悪い」


 いきなり失礼。


「弟子に向かって気持ち悪いとは酷いですね。まぁ今からもっと気持ち悪い事を言いますけど」


「早く言え、気持ち悪い」


「分かりましたよ。手を……手を繋いでもよろしいでしょうか」


「あ? お前何言って……分かったよ、ほら」 

「ありがとうございます」


 真剣な顔に気圧されたのか、師匠は何も言わず右手を伸ばしました。


 わたしは確かな絆を求めるように、差し出された師匠の大きな手を握ります。子供からすると大人の手というのは大きく感じるものです。


「……家まで離さないからな、ここで逃げられても困る」


「はい……」


 何を思ったのかは知りませんが、わたしは師匠から逃げられないようです。たぶん、この先もずっと……。


 わたしが握ると、師匠も軽く握り返してきました。普段なら力の差を考えず、握り潰そうとしてくる癖に。優しく出来るじゃないですか。



「師匠……迎えに来てくれてありがとうございました」



「ああ……私はお前の師匠だからな」



 夏が終わり秋がやってきます。


 ソフィーやグラトリア家の人と別れ、わたしは元いた日常に戻るのでした。

すごくいい雰囲気ですが、別に最終回でもなんでもありません。


次回は告知通り、現代に戻ります。


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