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26.愛情表現がすごいソフィー母

「そうよ、私はいいとこのお嬢さまなの」


「そうですね。お嬢様は伯爵家の御令嬢なのですから、もう少しお淑やかにしてもらいたい所です」


「カルラうるさいわよ」


「へぇー、ソフィーは伯爵家の娘さんなんですか。ならわたしも、もう少し礼儀正しくしなければいけませんね」


「お嬢様のご両親はどちらもいい方なので、そんなに気張らなくて大丈夫ですよ。あ、見えてきましたね」


 雑木林を抜けると、それはそれは立派な建物が姿を現しました。玄関の前には娘の帰りを待つ、ご両親らしき姿が見えます。


「あ、お父様ー! お母様ー!」


 両親の姿を見かけて、いち早く駆けてゆくソフィーは、年相応の女の子でした。


「ソフィー! 心配したのよ、遅かったじゃない!」


「ごめんなさいー。捨て子を拾っててー」


 誰が捨て子ですか!!


 ソフィーが、ぎゅーと母親に抱きつきます。ふむふむ、こういう所はまだまだお子ちゃまですね。


 私がそちらを見ているのに気付いたのか、カルラさんが冗談めかして言います。


「ふふ。ティルラ様の保護者様も、このように心配しているのではないですか?」


「いえ、わたしにはそういった方は……」


 一瞬、師匠の姿が脳裏を掠めました。しかし、ぶんぶんと首を振って、師匠を掻き消します。


 これではいけません。もう師匠とは絶交したのです。


「そうですか。ではここでは、私や奥様方がお師匠様の代わりになりましょう」


「カルラさん何を言ってるんですか? わたしにはそういった方はいないと言って……」


「顔を見れば分かります。ソフィー様もそうですが、ティルラ様も大概分かりやすいですよ」


 え? わたしって分かりやすいんでしょうか? 自分じゃ全然分かりません。


 あれあれ、おかしいぞーと唸るわたしに、そっと忍び寄る影。


「君がティルラちゃんかい? 娘から話は聞いたよ、お師匠さんと喧嘩したんだって?」


「違います。師匠とはもう絶交したんです!」


 急に声を掛けられ、思っていたよりも声が大きくなってしまいました。


「す、すみません」


 秒速で謝ります。相手はお貴族様です。最悪の事態を想定していると、逆に謝られました。


「いやいやいいんだよ。気にしないでおくれ。無遠慮に尋ねた私の方が悪いのだから」


 普通の貴族だったら、不敬罪で牢獄行きになる所です。


 突如話しかけられて、びっくりしたのもありましたが、今のはよくありませんでした。


「それで怪我をしたんだって。私に見せてごらん」


「は、はい……」


 わたしとカルラさんが話をしている間に、ソフィーが両親に事情を説明していてくれたようです。


 カルラさんに下ろしてもらい、わたしはおずおずと右足に巻いたハンカチを解きます。


 これは出発前に、ソフィーが「とりあえず冷やしておきなさい」と氷と一緒に巻いてくれたものです。


 もしかしたらソフィー。結構前から、わたしが木陰でうずくまっているのを見ていたのかもしれません。


 失礼、と言ってわたしの右足に触れるソフィー父。


「いたっ」


「お父様!?」


 わたしが痛がった事に、ソフィーがお父様に食ってかかります。なんか嬉しいですね。


「ごめんごめん。痛がらせるつもりはなかったんだ。ちょっと触れただけでも痛むとは……じいや、すぐに医者を手配してくれ」


「畏まりました。すぐに」


 じいやと呼ばれた初老の男性は、わたしの方に一礼すると屋敷の中に小走りで戻っていきました。


「ここじゃあなんだから、私たちも中へ戻ろうか。ティルラちゃん歩ける?」


「えっと、そのすみません。ちょっと痛くて……」


「ああ、いいよいいよ無理しないで、カルラ――」


「はい、旦那様。ティルラ様、失礼します」


「すみませ――ひゃあっ!」


 わたしはカルラさんに、お姫様抱っこされて運ばれていきます。いくら9歳の女の子だからって、ときめくような事をしないで欲しいです。ドキッとしちゃうじゃないですか。


「さ、濡れないうちに」


「あ、ありがとうございます」


 ソフィーの父親と思われるその男性は、目元が特にそっくりで、彼女と同じ瞳の色をしていました。


 あと吊り目は、父親の遺伝のようです。母親とおもしき女性は、垂れ目でお淑やかなお顔立ちなので。


 でも、髪色は母親譲りっぽいですね。


 屋敷の中に入った所で気が付きます。そういえばちゃんとした自己紹介がまだでした。


「あ、申し遅れました。わたしはティルラ・イスティルと申します。ふつつかものですが暫くの間、よろしくお願いします」


 抱えられたまま、ソフィーの両親に向かってペコリとお辞儀すると、突如、母親に抱きつかれました。そして頬ずりされます。


「――!?」


「よろしくねティルラちゃんー! 私はソフィーの母のエヴェリーナよ。リーナって呼んで!!」


「りーなさぁー――」


「かーわいい!!」


 先程までは玄関の灯りでよく見えませんでしたが、ソフィーのお母さんはすごく若そうでした。姉妹と言われてもわからないくらいには……。


 混乱するわたしをよそに、リーナさんのスキンシップは続きます。


「お母様、ティルラが嫌がってます。やめてくださいまし」


「ん? いーやぁ〜」


 すりすりすりすり。とってもツルツルしています。


「ごめんね、妻は可愛い子には目がなくて……」


 ソフィー父はそう言って、助けてくれる様子はありませんでした。


 それから暫く、リーナさんが満足するまでわたしは彼女に付き合わされました。


「ティルラちゃーん! うりゃうりゃうりゃうりゃ」


「ちょっ!?!?!?!?」


 物凄い愛情表現だったと形容しておきましょう。特に胸の圧が凄かったです。圧迫されました。


 ソフィー母はとてもいい物をお持ちのようです。これならどんな男性もイチコロでしょうね。


 ソフィーもいずれそうなるのでしょうかと、他人の居間で寛ぎながら想像していると、そばに控えていたメイドさんから、医者が到着したとの知らせを受けるのでした。


【※読者の皆様へ】


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