22.ソフィーの暴走
「師匠。ただいま帰りました」
「リベアさん、お買い物お疲れ様です。買い物袋はフィアが持ちますよ」
買い物から帰ってきたリベアを出迎えたのは、ソフィーの専属メイドであるフィアさんでした。
「ありがとうございます。あの、師匠は?」
「その……奥にソフィー様と」
「? 分かりました。ありがとうございます」
顔を赤らめながらリビングを指差すフィアさんに、リベアは首を傾げながらも、丁寧にお礼をします。
フィアさんから、私の所在を聞いたリベアが、くんくんと匂いを嗅ぎながら、こっちへやって来ました。可愛らしいですね。
「なんだか、いい香りが……って、あれ、師匠!? なんで裸!?」
「お帰りなさいリベア。裸じゃないですよ。ちゃんと下着は着ているじゃないですか」
「私にとって、下着は裸同然です」
「あなたは何を言ってるんですか?」
やっぱり、うちの弟子は少しおかしいかもです。
「それより師匠……」
「えぇ……」
弟子が目を丸くしています。それもそうでしょう。なにせ、今の私には……。
「ねぇ、ティルラ〜。あたしの話ちゃんときいてるぅ〜?」
「はいはい、聞いていますから。まったく……」
ソファーの上で、下着姿の私にすりすりと抱きつくソフィーが、そこには居ました。
「し、師匠。そのどうしてソフィーさんと……まさか、うわ――」
「失敗したんです」
「え?」
「最後の仕上げで失敗したんですよ。リベアもさっき匂いを嗅いでいましたよね」
「はい……」
「魔導機器に付与する筈だった魔法瓶の効能が、私の服……というか、私に染み付いちゃいまして。その結果こうなっちゃったんです」
私の腰にがっしりとしがみつくソフィー。完全に魔法瓶の効能にやられてますね。
「えっと、師匠が付与しようとしてたのは、なんの魔法瓶だったんですか?」
「心の疲れを取る、リラックス系の魔法瓶を二つですね。一つは匂い付きです。良い香りがしますので、合わせたら良いものになるかなーと思いまして……まぁ、効果は見ての通りです」
「ティルラ〜!!」
「ぎゃあー!!」
「……効果覿面のようですね」
私とリベアが話をしているのに、嫉妬したのか、ソフィーが私の上に覆い被さってきます。完全に押し倒されました。
「あ、ソ、ソフィー。ちょっと、いやだよ。離して」
手首を捕まれ、頭の上に回されます。そしてソフィーが爛々と目を輝かせて、私の事を見下ろしてきました。
なんだか、身の危険を感じます。
「だめ。あたしの話聞いてくれるまで、離してやんなーい」
「ソフィー。言葉遣いが昔の頃に戻ってます!」
「うぅん? なぁに〜?」
これはまるで酔っているかのような状態です。まあ、魔法瓶ですので、例えとしては、間違っていないのでしょうが……。ちょっと効き過ぎですね。
「と、とりあえず落ち着いて。まずは私の手首を離してください」
力技では到底ソフィーには敵いません。
「えぇ、どうしよっかなー」
んふーと何やら、魅惑的な笑みを浮かべております。怖いです。
チラッと弟子に助けを求めると、「はわわ……」と口元をおさえていらっしゃいました。
弟子はわなわな震えているだけで、助けてくれる様子はありません。
(なっ、師匠がピンチというのに助けようとしないとは……そんな悪い弟子には、後でお仕置きが必要ですね」
「んぅ……なんかつかれたわ」
ソフィーの拘束が緩みました。チャンスです。
私はその隙をついて、ぐぐぐっとソフィーを押し返し、なんとか片手を解放します。
そしてソフィーに向けて、軽めに魔法を放ちました。
しかし放った魔法は、至近距離にも関わらず、ひょいっと躱されました。
「なっ!?」
ソフィーは運動音痴ですが、動体視力だけは良いようです。
魔法瓶の影響もあり、何か覚醒しちゃってるのかもしれません。
「ティルラ。勝手に動いたら、らめー」
再びソフィーに押し倒され、今度は互いの鼻と鼻が触れ合う距離まで迫られます。今度はがっちりと手首を捕まれ、逃げられません。
「ち、近い! 近いですソフィー。リベア助けてー!」
耳をすますと、なにやらボソボソと声が聞こえます。
「……これが寝取られというやつでしょうか……なんだかゾクゾクします」
ひいっ!
だめです。もう弟子は逝っちまいやがってました。
「うふふ。なんだか頭がふわふわするわ。ティルラ、頂きまーす」
「ちょっ、勝手に頂きますしないでください!!」
ソフィーは片手で器用に私の両手を拘束すると、私の頭の後ろに手を入れ、私と寝転ぶように、口づけを迫ってきました。
「心配しないで。あたし、慣れてるから――」
「そういう事じゃないんです! リベアぁぁぁー!」
「はわわ。師匠が寝取られます」
大ピンチでした。




