184.魔法使いとしての才能
少しずつ更新再開します。
シェラ・イルラスン。彼女の裏の顔に気付いたのはティルラのとある依頼からだった。
――ネウロ・パテシュムという生徒の後ろ盾をしている貴族について調べてもらえませんか?
ティルラから依頼を受け、自身の持つ伝手を使い身辺調査を進めた結果、多額の金がエルドレッド公爵家からネウロの為に動いている事が分かった。また彼女の後見人としてのサインもその筆跡からシェラが夫妻に代わり、偽造して書かれていたものである事も判明した。
ソフィーがその事を指摘するまで、誰もその事実に気付かなかった。否、気付く事が出来なかったのだ。
「ここで死んでください!! 愚かな大賢者の仲間達よ!」
「ソフィー!」
「っ!!」
黒い閃光が身体を包み込む瞬間、身体強化魔法を掛けたケイティに抱えられ魔法の効果範囲から脱出する。
(これ、直撃してたら死んでたわね……)
先程まで自分達がいた場所の地面が大きく抉られていくのを見て、冷や汗が流れた。同時に何もできない自分を不甲斐なく思う。
「助かったわ。ありがとうケイティ」
「もう、アイツを挑発するのはやめてよ! 危ないじゃんか!!」
ぷりぷりと怒るケイティは、その小さな口を可愛らしく尖らせて文句を言うが、その目には心配の色が滲んでいた。
「ごめんなさい。でも彼女の正体を暴くためには避けられないことだったのよ」
それに最悪の保険はある。
ソフィーは微笑んで謝りつつも、その視線はシェラの方を睨んで離さなかった。シェラは冷酷な笑みを浮かべながら、再び魔法の詠唱を始めている。
「おやおや、防戦一方ですね? やはりお荷物がいると動きにくいのではないですか、ケイティ・スレミアン。貴方一人で来るべきでしたね」
余裕綽々といった様子でシェラは笑う。どうやら彼女は私たちの事を完全に格下だと認識し、侮っているようだった。
実際に魔法の精度だけでいえば、彼女はティルラにも迫る実力を有しているだろう。
「……一つ、聞きたい事があるの。あなたフィアと一緒に仕事をしていた時期があったわよね?」
「フィア? ああ、あの子。今は貴方の家でメイドをしているんでしたっけ?」
「ええ、身辺調査をする過程で知ったの。うちに来る前、あなたと同じ職場で働いていたと」
「それがどうかされました?」
(ソフィー……)
彼女はシェラの素性を調べる過程で個人的に聞きたい事が出来たと言っていた。その答えがこれなのだろう。
「――貴方、フィアに一体何をしたの?」
「……特に、何も。新しい職場に行く前に少しお話をしただけですよ」
それに対するシェラの答えは、想像していた通りだった。
「そう。やっとあの時の謎が解けたわ。フィアに魔法で強い暗示、または催眠を掛けたのね。そして今の言葉でもう一つ確信した。私たちの馬車を盗賊達に狙うよう仕向けたのも貴方ね。彼らが依頼人の事をよく覚えていなかったのも納得だわ」
ソフィーはある一つの考察を立てていた。ネクロ・パテシュムの拘束を解いたのはフィア自身で、倒れていたのは魔法の効果による副作用。主に発動していた際の記憶が消去される過程で気を失ったのではないかと。
つまりフィアは自覚のないままシェラの操り人形となっていたのだ。
「あの日以降、操られていた素振りは見えなかったから今は魔法の効果が切れているという事でいいのよね?」
「まあ一度発動すれば、基本的にそれっきりですよ。私の魔法は重ね掛けしない限り持続力はありませんから」
飄々とした様子で説明を付け加えるシェラの言葉に、ソフィーは目を細めた。
「そんなにネウロ・パテシュムが重要だったの?」
「彼女の回収は主の命令でしたので」
主……気になる言葉だが、今はそれどころではない。
「フィアの催眠術はあなた由来のものかしら?」
「いえ、私が会った時から催眠術は心得ていましたよ。まぁ趣味程度のものでしたが。でもこれは触媒として使えるなって思ったんです。予想通り長持ちしました。その分、私の魔法の影響で後天的に催眠術が上達したようですが、健康には問題ないですよ」
シェラは悪びれる様子もなく、淡々と答えた。
やはりフィアの催眠術は彼女の魔法による影響があったようだった。
「全部、あなたの仕業だったわけね」
「はい。全てはあの人の為ですから」
答え合わせだ。ソフィーは調べてきた情報を持って、彼女に迫る。
――シェラがケビス子爵の元愛人であった事。生徒や教師を操り、リベアを貶める噂を流した犯人だった事。
「王宮の使者に魔法を掛け、殺害したのも貴方ね」
「はい。あれは他殺に見せかけた自殺ですがね」
彼女はその全てを認めた。
また元王国魔導技師という肩書を使い整備と偽って、学院の魔道具を事前に破壊した事も自白した。
「狙いは分からなかったけど、学院に被害をもたらした統率協会の離反者を手引きしたのも貴方なのね」
「ふふっ、そうですよー。ぜーんぶ私です。ドロシーお嬢様は最後まで気付きませんでしたね。そうなるよう意識を友達に向けさせたのは私ですが……さ、楽しい話は終わりです。ここでっ――!?」
「フッ――」
彼女が再び攻勢に転じようとした時、ここまで沈黙を保っていた影による攻撃が始まる。
隠密に優れた影の存在に気付くのがワンテンポ遅れた。影は王国を支える裏のエース。その実力は気配察知や探知に優れたティルラでさえ、近づかれるまでその存在を認識できない程だ。
まず超至近距離から女性の影によるレイピアを用いた刺突が放たれ、シェラの肩を抉る。
「この者たちは王室のッ!」
後退した彼女に向けて、少し離れた位置をとっていた若い男の影が無詠唱の氷魔法を発動し、シェラの両脚を氷漬けにした。
「はぁ、はぁ……っ!」
息を荒くし、苦痛に顔を歪めるシェラ。その息は白く染まり、彼女の周囲は凍り付いていた。
続けざまに老年の影が行使した土魔法が、土の箱となって彼女を閉じ込めた。
「くそっ! 大賢者め、彼女達にお守りをつけていましたか」
これが最悪の保険だ。
彼女は元々戦闘タイプではないのだろう。先手を取られたのもあるが、たった三人の影にここまで苦戦している。
影も影で、彼女にこれ以上の抵抗を許さなかった。
彼らによって拘束されたシェラは、狂気の籠った声で言う。
「ああでも、ネウロちゃんは強いですよ。悔しい事ですが私よりずっと魔法の才に恵まれています!! 生きてるといいですねぇ、リベアちゃん。私が殺しておくようにと命令したので」
「なっ! もしかして学院を襲った狙いはリベアなの!? だとしたらあの子が危ない。ケイティ、私はティルラにこの事を伝えにいくわ! この場は任せたわよ」
シェラの狂気に染まった笑みを見て、ソフィーは唇を噛み締める。彼女は最初からそのつもりだったのだ。狙いは大賢者の弟子。ティルラに勝てないならば、弟子であるリベアを狙えば良い。
「任された!」
影達とケイティにその場を任せ、ソフィーはティルラの元へと駆け出した。
「お願い、間に合って!」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ティルラは最強なので10人くらいの影なら互角以上に戦えます。それ以上になると工夫が必要です。
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