183.牙を剥く狂信者
「はい。私は確かにシェラ・イルラスンですが、あなた方は?」
「申し遅れました。私は調査官のソフィ・アルトリア。こちらは助手のケイティー・スレミーンです。本日は先日発生した魔法学院襲撃事件について、シェラさんから改めてお話を伺いたいと思い、お邪魔させて頂きました」
「よろしくお願いします。助手のケイティー・スレミーンです」
嘘の自己紹介をする二人。名前は半分偽名である。本名を名乗っても良かったが、相手が公爵家のメイドという事もあり、貴族である自分たちの名前を知っている可能性が高かったからだ。
国から派遣された調査官というのも勿論嘘であるが、大賢者からの頼み事という事と暗部の人間が護衛についている事もあり、調査官といっても間違いではない。
「魔法学院襲撃事件……ですか? その件についてでしたら他の使用人の方々と一緒に、一通り国から聞き取り調査を受けています。そこで知っている限りの事は話させて頂いた筈なのですが……なにか私、個人に聞きたい事があるという事でしょうか?」
彼女の疑問はもっともである。
遠回しに自分を疑っているのか? といった質問を投げ掛けるシェラに、ソフィーは毅然とした態度で答える。
「ええ、最近になって事件の協力者が生徒や教師ではない可能性が出てきているの。だから食堂や寝室を除いて、学院内に立ち入れない筈の使用人達にも改めて身辺調査を行っているのよ」
日中、使用人たちは主人の授業が終わるまで学院の敷地外に建てられた使用人専用の控え室に待機している。彼等は魔道具に登録されていないので学院内を追従する事は出来ないからだ。
「なるほど……そうでしたか」
ふわりと背筋が撫でられるような感覚を覚えた。隣を見るとケイティも寒そうに肩を震わせていた。
これ以上、彼女について探るなと警告しているようだった。
(私たちに掛けられた保護魔法が過敏に反応してる……ほんとっ、あいつは凄いわね。間違いなく大賢者の血を引き継いでいるわ)
学院祭が行われている期間は毎年装置の機能を切っている為、他国の間者が入り込む事が多いがそうした連中を根こそぎ刈り取るために王国の影は存在する。
その影が今、自分達の護衛をしてくれている。だからこそソフィーは安心して前に進めた。
「それでね。貴方の経歴を調べたのだけど、結構特殊だったから直接話を聞きたいと思ったの。――ある時は上位貴族のメイド。ある時は王宮の執務官。またある時は魔法統率協会で事務の仕事をしていた。正式な記録には書いてなかったけど、短い期間王国魔導技師の助手もしていたようね」
「…………だから私が怪しいと。初対面なのに酷いですね調査官さん」
「あくまで容疑者の一人ってだけよ」
ソフィーは普段から連れ歩いてるメイドを今回に限っては連れてこなかった。代わりにケイティを連れて来ている。
彼女の専属メイドであり、護衛を担っているフィアを外したのには理由があったからだ。
「……私のような人、他にもいると思いますよ? それに魔道具を壊した事件の黒幕だってまだ分かっていないのでしょう? なら、協力者と断定して私を疑うのは早計ではないですか?」
「あら、それはおかしいわね」
「何がでしょう?」
ソフィーはシェラの疑問に答える。
「あの事件は表向けには全て魔法統率協会をクビにされた者達によって引き起こされた事件として処理されている筈よ。私は協力者がいるとは言ったけど貴方は今、他に事件の黒幕がいるような言い方をしたわよね? 私、そんな事一言も言ってないわよ」
彼女の言葉にシェラの顔色が若干悪くなる。
「……それは言葉の綾ですよ。それにお嬢様から事件のことについては詳しく聞かされていましたので。調査官さんなら知っていますよね? 私の主人がドロシー様であるという事は」
「ええ、知っているわ。先の発言もエルドレッド氏から自分の考えを聞かされていたのなら納得できる」
「でしたら――」
「でもね。魔道具が壊されていた事は一般には知らされていないわ。もちろん貴方のご主人様にもね」
「――それはっ! その……」
初めて動揺を見せたシェラに、ソフィーは好機とばかりに畳み掛ける。
「それも誰かから聞いたのかしら? 無理があるわよね。国宝の一つに指定されている特殊魔道具が誰かに破壊されたなんて事が知られれば国を挙げての大問題に発展するわ。だから魔道具が壊された事は一部の人にしか知らされていないの。今学院に安置されているのはレプリカ。ご丁寧にレプリカとも知らず盗みにやってくる輩は多いけどね。それを国のお偉いさんが一介のメイドに教えるメリットはないわ。だってただのメイドに国の機密情報を教えたら重罪に科せられるもの」
「…………何が言いたいのでしょう?」
「私が一番言いたいのはね、今の現状を誰も不思議に思っていない事よ。これはそういう事なんだ。それで認識してしまっている。深く考えようとしないのよ。ううん、考えようとする思考が止められる。さっきも一瞬そんな感覚を覚えたわ。まあティルラの保護魔法のお陰で大丈夫だったけど――ねぇ貴方、何者?」
彼女と接した者達はもれなくその記憶を無くしていた。近くにいたリベア達も影響を受けており、ティルラがシェラの事を聞くまで彼女の所在を気にも止めていなかった事からもそれが分かる。
そうやって彼女は自分の存在した記憶を改竄していくのだ。
「ティルラが言っていたわ。そうした術が得意なのは愚者の末裔だと。貴方は愚者なの?」
確信に迫ったソフィーの発言にシェラは押し黙る。
「………………そう。大賢者には全部バレていたか」
長い長い沈黙の後、シェラは観念したかのように口を開く。
「ですが調査官さん。それは違います。私は愚者ではありません」
「じゃあなんなのさ!」
ケイティが腰に隠していた剣に手を掛け、シェラを威嚇する。
「ふふっ落ち着いてくださいよ、天才錬金術師ケイティ・スレミアンさん。お友達の伯爵家のお嬢さんを見習ったらどうです?」
しかし、彼女はそれを気にも止めず話を続けた。
「ケイティ待って!」
彼女の纏う雰囲気が変わり、ソフィーはケイティに下がるよう指示を出すと改めて彼女に向き直る。
(まだ話は終わっていないわよ、シェラ・イルラスン!)
それはまるで別人のような雰囲気だった。そして彼女は言ったのだ。
この事件の黒幕が自分であると――。
「私はあの人の忠実なる僕。愚者の弟子エメラルダ・シェラ・イルラスンです! 師匠の願いを叶える為なら私はなんでもします! 魔法が効かない相手には色仕掛けだってしますし、殺しだってやります! 魔物とだって友誼を結びます。すべては、全ては我が師匠のために!!」
ケタケタと笑い出す彼女。
(――こいつ、狂っている)
そんな彼女を見てソフィーは背筋に冷たいものを感じていた。
「師匠……ね。うちのリベアちゃんとは別ベクトルでヤバそうな弟子だこと。リベアちゃんはティルラの育て方が良かったのかしらね」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないよ! どうするのこれ!? もう実力行使しかないよね?」
ケイティが慌ててソフィーの前に出るも、先に戦闘態勢に入ったのはエメラルダであった。
「というわけで死んでもらえますか? ソフィー・グラトリア。あなた、こそこそ私の周りを嗅ぎ回っていて邪魔だったんですよ」
エメラルダは自身の左手に杖を出現させ、瞬時に魔法を放つ。それはティルラがよく使う“魔弾”に似たような技であった。
「――っ!」
「ソフィー危ないっ!!」
ティルラの魔法と違う点は、それが対象を自動で識別し追尾する点だ。
ケイティに突き飛ばされ、咄嗟に回避するも、追尾する魔弾が彼女の肩を掠める。
「くっ!」
(速い!)
自動追尾型の魔法に驚いたのも束の間、今度はエメラルダ本体から二人に目掛けて魔力の塊が飛んでくるのだった。
「ここで死んでください。愚かな大賢者の仲間達よ!」
黒い閃光が二人を覆った。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
最初の自己紹介でソフィーの名前に「ー」がついてない箇所があるのは仕様です。逆にケイティには、「ー」がついています。
ティルラがシェラについて聞いているシーンは178.攫われた少女と魔族です。
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