179.学内戦 一日目(ティルラ視点)
今日はちょっと長めです。
〜〜学内戦当日〜〜
「それじゃあ今日はよろしく頼みますね。大賢者様!」
「はっ、お任せ下さい」
「ふふっ。別に知らない仲じゃないんだからそんなに畏まらなくていいのに」
可愛らしくウインクを決めてくる姫様を他所に、講師用の正装から、大賢者の衣装に着替えたわたしは片膝をついて臣下の礼を取ります。
そんなわたしを見て姫様がクスッと笑い、芝居じみた口調で仰います。
「まぁ、大賢者様がそのような格好をなさる必要はありませんよ?」
「わたくしめは陛下より御身の安全を確保するようお言葉を賜っている身ですからそういう訳にもいきません……姫様、頭撫でるのやめてもらっていいですか?」
わたしも姫様の戯れに付き合い、言葉の応酬を交わすが……急に触れられ、思わず素に戻ってしまう。
「国民を愛でるのは当然の事でしょう? それに手の届く場所に頭があったから」
何を言ってるんでしょうか、この姫様は? さも当然の権利だとばかりに主張してきますが、その理屈はおかしいです。
「これだとちょっと意味が違ってくると思います。あとわたしの方が年上なので少し恥ずかしいです」
「あら、村にいた頃は毎朝起きれなくてリベアちゃんにやってもらっていたのに?」
「なんでその事を知ってるんですか……」
大賢者にプライベートはないのかな? 陛下に文句を言わなきゃ。
「ふふっ、内緒よ!」
一応、情報源を聞き出そうとしましたが誤魔化されました。
だけどわたしだって大賢者です。負けてばかりではいられません。
「姫様こそ、学業や王族の仕事で忙しくて義理の妹であるリティちゃんに会えていないから、リベアやわたしに嫉妬しているんじゃないですか?」
「そっ、そんなことないもん!」
あらら、姫様が目を逸らしてしまいます。
年相応の反応。どうやら図星だったようですね。
「この国の第二王女に向かって不敬ですよ! ティルラさん」
「理不尽が過ぎません? さっきまで畏まらなくていいと言っていたのに」
図星を突かれたからか、急に口調が変わりました。村娘アリスモードです。
姫様は普段は大人しいですが、気を許した相手にはこうやって子供っぽい一面を見せるんですよね。
(王族は色々と制限があって大変ですからね。わたしやリベアと接する時だけでも気が楽になればいいのですが)
今日からいよいよ学内戦が開始されます。
学院では生徒達が三日間の日程の中で学年問わず試合が行い、学内最強の魔法使いが決める大会です。ここでの活躍が卒業後の進路に大きく関わってくる生徒も居るでしょう。
なにせここに集っている生徒達は未来の王国を担う優秀な人材。当然優秀な者を確保しようと国の偉い人達が続々と視察に来ており、その中には魔法統率協会の面々も見受けられます。
(オルドスさんがいないからいーですけど)
ここは魔法使い専門の育成機関でありますが、頭脳明晰な生徒も多いので卒業後の道は魔法使いだけではありません。
なのでここで優秀な成績を残し、王国にスカウトされるのを夢見ている生徒も少なからずいるのです。
「戯れはこれくらいにしてそろそろ行きましょうか。ご準備は整いましたよね?」
「ええ、先程お姉様も到着したと聞いたわ」
「ビエンカ第一王女様の護衛は近衛兵が務めるんでしたよね?」
「そうよ。何かあったら彼らと協力して。近衛兵の人達は指示がなくても適切な行動がとれる優秀な人達だから」
「何事もないのが一番なんですがねー」
そうも言ってられないのが現状です。結局、ネウロの企みは分からず仕舞いのままですから。
部屋の外に待機していたメイドさんに声を掛け、本校舎から少し離れた所にある会場近くへと向かい、そこで先に到着していた第一王女様達と合流します。
「大賢者様。妹のことをよろしくお願いしますね」
「お任せください、ビエンカ第一王女様」
学内戦が開催されている間、大賢者である私は姫様の護衛に付く事が事前に決められていました。それは学院襲撃や昨今の情勢を加味しての決定です。
毎年王族や宰相が代表して観戦に来るのですが、今年は学院に在籍している姫様と結婚を控えた第一王女ビエンカ様のお二人が国の代表者となりました。
元々観戦はビエンカ様お一人で、姫様は生徒として学内戦に参加する予定でしたが、文武両道で魔法使いとしても既に超一流なお姫様であるユリア様の参加は見送られることになったのです。
学生にしては強すぎますし、対等に闘えるのはそれこそリベアくらいでしょう。
それに学院に不穏な雰囲気が漂っているのもあり、姫様も観戦する側となったのです。
「大賢者ティルラ・イスティルです。近衛兵の皆さん三日間よろしくお願いします」
「よろしくお願いします大賢者様。我ら一同、大賢者様とご一緒出来ることを光栄に存じます」
「ど、どうも」
隊長さんと思われる方と挨拶を交わし、ビエンカ様の護衛は近衛兵の方々に任せます。
近衛兵の人達は少し苦手です。王宮でやらかしたのもありますが、このピリピリとした感じがどうにも肌に合いません。
王女様二人が前を歩き、その後ろを護衛が続きます。彼らと一緒に歩くわたしは常に緊張気味でした。
そんなわたしの様子に気付いてか、第一王女様が声を掛けてきました。
「大賢者様も厳かな雰囲気だと固くなってしまうのね?」
「元々前に出るのは苦手ですから。祝典の時、急に呼ばれて壇に上がった時は緊張で倒れそうになりましたよ」
よくやりきりましたよ、あの時のわたし。
「あの日はごめんなさいね。お父様は言い出したら聞かないから。でもシャルティア様の後を継いで大賢者になったのだから分かってくれるわよね?」
「分かっていますよ。自分の役目は……」
そもそも陛下自身も仰っていましたしね。大賢者が国にいることは他国への抑止力になると。
今回も大賢者という存在が王族の護衛についていることを大々的にアピールすれば、この期間中に手を出すようなバカはいなくなる……そういった考えの元、王族が二人も派遣されたのでしょう。
「ふふっ、大賢者様は本当にシャルティア様そっくりね」
「……そうでしょうか?」
「そうよ。自分の役目をしっかりと理解して、その責務を全うしようとするところとか特に」
第一王女様にそう言われると照れてしまいますね。わたしはまだまだ未熟者ですから。
「でもわたしにはあの人、ボンクラ師匠という認識の方が大きいです」
「それは……恥ずかしくて、そういう姿を貴方には見せていなかっただけだと思うわよ」
「やっぱりそうなんですかねー」
「ええ、きっとそうよ」
第一王女様と談笑しながら会場に向かいます。護衛の方々も和やかな雰囲気にあてられたのか、先程まであったピリピリとした雰囲気は和らいでいました。
話が終わったタイミングで今度は姫様が隣に並び、わたしにだけ聞こえる声で囁いてきました。
「お姉ちゃんはシャルティア様の大ファンだったから」
「なるほど。そうなんですね」
「それはそうとリベアちゃんの活躍が楽しみだね。近衛兵の人達も大賢者の弟子がどれほどか気になっているみたいだから」
勝手にハードルを上げないで欲しいですけど、まぁリベアですし。心配はしていません。むしろやり過ぎてしまうのでは? と思っています。
「わたしの弟子ですよ? 優勝するに決まってます」
「おお〜凄い自信。これは親バカならぬ、師匠バカだね」
「否定はしません」
「ユリア、会場に入りますよ」
「はーい。お姉様!」
姫様がビエンカ様の隣に並び直し、中に入ると観客席から多くの歓声が聞こえてきます。教師や生徒達も王女様達に手を振り、それに姫様達もニコニコしながら返しています。
(いよいよ始まるんですね)
――そして、学内戦が始まりました。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
バレンタインデーはもう過ぎてしまいましたが、良かったらマイページから私の短編作品である『友チョコの真実』を読んで見てくださいね。バレンタインデーにちなんだお話です。
※『友チョコの真実』は2021年に投稿したものです。
ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します!
皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!




