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178.攫われた少女と魔族

「……ここ、どこ?」


「そうデスねぇ〜。貴方のお母様が絶対見つけられない場所とでも言っておきましょうか」


「ひっ! だ、誰!?」


 ルフニアは目を覚ました時、暗い地下牢のような場所にいた。周囲を確認しようと身体を起こした所、目と鼻の先に赤い髪を垂らした女性がいて思わず声をあげてしまう。


「ワタクシですか? そうですね〜。お嬢さんには特別に教えて差し上げましょう。ワタクシの名前はフレミ・カートレット。しがない奇術師でございます」


 彼女はそう言うと、大袈裟な立ち振る舞いで恭しくお辞儀をした。


「奇術師……? もしかして今王都に来ているっていう【フレミーと愉快な仲間たち】?」

「はい。その座長であるフレミーです。ワタクシは奇術を使って人の感情を揺さぶる事が大好きなんです。こーんな風にね」


 次の瞬間、ぐにゃりと首が曲がる。とても人間業とは思えない。折れたままの状態でフレミーはルフニアの肩に手を掛けた。


「ひっ!」


「あらら、そんなに驚かないでくださいよ。ワタクシは奇術師なんですから、これくらい造作もないんです。あ、そうです! 貴方もワタクシとお揃いになります? 死んじゃいますが」


「や、やめて……お願いだから……」


 ルフニアは恐怖に震えながら懇願するが、フレミーは聞く耳を持たず彼女の耳元で囁いた。


「ワタクシ可愛い子は好きデスよ? だけど……」


「ひっ……!」

「クスッ」


 フレミーはルフニアの身体を押し倒した。そして、彼女の首を絞め上げる。必死に抵抗するが、どんどん意識が遠のいていく。


「こういう表情も素敵ですねー。うふふっ、いーデスね。そういう生にしがみついている時の人の表情というのは。何度見ても美しい」

「あ……ぅ……」


 もうダメだと思ったその時だった。絞めあげていた力が緩み、そのひどく冷たい手が首元から離れる。呼吸が出来るようになったルフニアは激しく咳き込んだ。


「ゲホッ、ゴホォッ! はぁ……はぁ……」

「うふふっ、まだ殺しませんから安心してください」


 ルフニアはフレミーを睨みつける。その目は生きる事を諦めていなかった。


「……今にお母様やティルラ様がやって来て、あなたなんかやっつけちゃうんだから!」


 それを聞いた彼女は狂気を感じさせる笑みを浮かべ、被っていたハットを脱いでこう答える。


「人間如きがワタクシに勝てると? 面白い冗談です。確かに大賢者は恐ろしい相手ですがワタクシの担当ではありませんし、それに貴方のお母様は来ませんよ。その為に貴方はここにいるんデスから」

「あ」


 その言葉で自分が人質に取られている事を理解し、ルフニアは絶望した。助けはやって来ない。来れないと。


 そんな彼女の心に追い打ちをかけるように、ルフニアはもう一つ絶望に気付いてしまった。


「え?」


 帽子の脱いだフレミーの頭には二本のツノが生えていた。それが意味する事は……。


「ま、魔族!? 魔族がなんで王都に……まさか学院に魔物が侵入したのも」


 そして全てを悟る。


「ご明察。王都に魔物を連れ込んだのはワタクシですよ。いやー簡単でしたね。調教した獣だと偽って書類提出してみれば確認もせず簡単に通されましてし、面倒事もお金ってやつを渡せばなんとかなりました。連れてきた子達の魔力は隠してはいましたが協会の職員もヤル気がないですねぇ〜。ちゃんと確認すれば気付いていたものを。こういうのを職務怠慢って云うんでしょう」


 フレミーはケラケラと笑いながら語りかける。


 彼女の一座を担当した職員は、協会の中でも選りすぐりの質の悪い者達だった。勿論彼らがフレミー達を担当する事も全て仕組まれたものであったが。


「い、いや。死にたくない。誰か、誰か助けてー!!」


 少女の悲鳴が地下室に響き渡る。


「うふふふっ。お嬢さんも暇でしょうし、少しワタシと遊びます? こう見えても街の女の子から評判いいんですよ」


 フレミーはそんな彼女を見て恍惚とした表情を浮かべた後、彼女の身体を弄り始めた。


「や、やめて!」

「エメラルダちゃんからは、殺さなければ何をしてもいいと言われています。お嬢さんも年頃ですし、こういうの興味ありません? ないならいいデスけど」


 蛇のように長い舌が彼女の頬を撫で、ルフニアの瞳から光が徐々に失われていく。



「いや、助けて……ティルラ様……お母さま……」



「……あららーつまんないデスね〜。ま、いいでしょう。玩具はいっぱい居ますから」



 それを見てフレミーは興味をなくしたように彼女から手を離し、地下室の出口に向かって歩き出すのだった。


 

◇◆◇◆◇


――放課後 空き教室――


「大賢者様、最近忙しそうだな」

「ううっ、師匠が全然構ってくれない。また魔法で悪戯を仕掛けるべきでしょうか?」


 書類仕事を進めるわたしの横で、弟子がまたろくでもないことを口にしています。


「ほんと懲りませんわね。あなたは」

「それでこそリベアちゃんって感じはするけどね」


 いつも優しいニーナさんは今日もリベア肯定派のようです。ヴァネッサさんは今日も補習で大変そうですね。


「ニーナさんも大概リベアに甘いですわね……」


 すっかり仲良くなったドロシーさんからは軽口もよく聞くようになり、リベア達といる間は貴族らしさが抜けています。


 それはいい事です。仲直りの仲介をした甲斐があったというもの。


「ドロシーさん。ちょっといいですか?」

「なんでしょうかティルラ先生?」


 わたしはそんなドロシーさんにとある人物についての質問をしました。すると――


「そういえば、最近は話していなかったかも知れませんわ……?」


 というぼんやりとした答えが返ってきました。リベアやヴァネッサさん、ニーナさんに聞いても似たような答えが返って来ました。


(やはりそうですか……)


 わたしの勘はどうやら当たっていたようです。


――ある人物に会っていた時の記憶が全員曖昧になっている。


 前後の記憶が曖昧になる。前にもどこかでありましたね……フィアさんを眠らせたであろうネウロさん。リベアがネウロさんと同じ教室で過ごす中で感じた違和感。


 彼女の後ろ盾をしている貴族もソフィーに頼んで判明しました。


(だからこそ、分からない)


 証拠は揃ってきている。あとは確証が欲しかった。


「…………わたし達の馬車を襲った野盗が言っていましたね。俺たちは頼まれただけ。その後の聴取で相手の()()()は思い出せないとも」


 お金を渡し、意思を誘導した?


 何かしらの魔法でしょう。そしてその魔法はわたしには通用しない。だからこそわたしの前に一切現れない。


「残念ですが、ネウロが襲撃犯の手先である事は確定ですね……あとはどう対処するかでしょう」


 ネウロ・パテシュムが指定してきた学内戦。その日は着実に迫ってきていました。


ここまで読んで頂きありがとうございます!


次回は木曜日の更新を予定しております。


ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します! 


 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!


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