168.最高の師匠
(学院が見えてきましたね)
全力疾走している私の視界には、もう見慣れた学院の外壁と見慣れない障壁が映りました。伝令の報告にあった結界のようです。
過度な身体強化は魔力を大量に消費するので、普段なら魔力の温存を優先するのですが、今回はそうも言っていられません。
一刻も早く駆けつけるために、私は魔力による身体強化の出力を一気に跳ね上げました。
(やはりこの結界はかなり広範囲に展開されていますね)
けれど、弱点はあります。
おそらく規模が大きいので一人で維持する事は無理なのでしょう。魔力反応からして、少なくとも数人が中で結界を維持しています。が、維持している間はまともに動けない筈です。
魔力総量を考えるにこれほどの結界を展開するのは一日に一度が限度といったところ。一度壊れれば、すぐに結界の再構築を行うことは不可能です。
学院を一周した後、正門前にいた王宮の騎士団や宮廷魔導師と合流します。
「退いてください。わたしがこの壁を破壊します」
「大賢者さま! 皆の者、下がれ」
指揮官らしき人が即座に意図を理解し、指示を出します。
わたしは結界の壁に手を当て、解析を始めます。
(これを作ったのはそこそこ優秀な魔法使い達のようですが、わたしには遠く及びませんね)
瞬時に構造を理解し、杖を一振り。結界を構築する大事な回路を焼いたのです。それだけで結界はボロボロと崩れ始めました。
周りから「おおーっ!」という声が上がりました。彼らが手を焼くのは分かりますが、こんなの大賢者にとっては朝飯前。少し難しいパズルのようなものです!
「行きますよ。魔物に占拠された学院を解放します」
「はっ!! 大賢者様に続け!!」
救出隊と共に結界の中に入ります。
(まずは生徒たちの安全の確保ですね)
学院内はひどい有様でした。壁や床はところどころ破壊され、広場に生徒や教師が集まり魔物と乱戦状態です。その人達もボロボロの状態でした。
魔物側が少し有利といった所でしょうか?
「あ、大賢者様だ!」
「ティルラ様が来てくれた!!」
敵がどれほどいるのかはわかりませんが……わたしの勘ではそこまで多くありません。倒しきれない個体が再生し、無限の数を生み出しているように見えているのでしょう。
わたしに気付いた生徒や教師が駆け寄ってきます。
「皆さん、もう大丈夫です。あとはわたし達に任せてください」
彼らを襲っているキメラを排除しつつ、わたしは先行します。後方の安全や治療は魔導師団が担ってくれる手筈です。
「怪我をしている人の治療を。騎士団の一部は負傷者の護衛に、もう一団はわたしに続いてください」
回復魔法を使える王宮の魔導師達に指示を出しました。動けない者は彼らによって治療され、安全な場所まで運ばれていきます。
「リベア……」
彼女の安否だけが気掛かりです。どうか無事でいてください――そう願いながら私は走りました。
(魔力が混在しすぎて、弟子の魔力を上手く辿れません……)
魔物を払いながら弟子の姿を探します。
その時、甲高い悲鳴が聞こえてきました。すぐにそちらに向かうと庇われて腰を抜かした女生徒と、出血し、地面に横たわる弟子に爪牙を振り上げるキメラがいました。
「させません!」
魔法を撃ち、キメラを木っ端微塵に吹き飛ばしました。
(魔力が偽装されていましたが、今のが強い個体……リベアでも倒せなくはありませんが、他の個体と同様と油断を誘われましたね)
死を覚悟していたのでしょう。リベアは目を強く閉じて小さく震えていました。自分が助かったことにも気付いていないようです。
(無事でよかった)
そんな彼女を愛おしく抱きしめます。
「待たせましたね、リベア。よく頑張りました。後は任せてください」
わんわん泣く弟子の状態をチェックしていきます。制服が破けていたり、爆風で汚れたりしていますが腹部以外に大きな怪我は負っていないようで安心しました。
お腹の方も深い所までは傷ついていないようです。
「む、あちらもピンチですね」
わたしは全属性を操ると同時に、魔法の詠唱も必要ありません。
こちらに来ようとしていた二人の生徒を狙ったキメラの首を無詠唱の風魔法で落とします。
自分達を狙っていた存在に気付かなかったんでしょう。ですが、二人はその事に驚きつつも歩みを止めることはありませんでした。
「大賢者様。助けて頂きありがとうございます。ヴァネッサ・リトネスクです」
「ニーナ・エルクスです」
やって来たのはリベアの友人であるヴァネッサさんとニーナさんでした。
「大賢者様。リベアを救ってくれてありがとうございます。あの、あたしにも出来ることはないですか? 友達や学院が襲われてるの何もしないのは性に合わねえんです」
「わ、私も。戦うのは無理ですけど、何か手伝えることがあればしたいです」
本当にリベアは良い友人を持ちましたね。
「……それならヴァネッサさんは騎士団の手伝いを。校内に入り込んだキメラの殲滅をお願いします。ニーナさんは他の人と協力して避難誘導を行なってください。この辺の敵は全てわたしが引きつけます。丁度集まって来ましたしね」
「あ、あのわたくしはどうすれば?」
「ドロシーさんはリベアを背負って騎士の方と安全なところまで下がってください。そこでリベアの治療をお願いします」
わたしが来て安心したのか、リベアは既に意識を手放していました。
「何故私が平民を……私も大賢者様と共に戦いたいですわ!」
「ダメです。許可しません。それにあなたよりずっと騎士さんの方が強いですよ? 生徒である貴方が同級生を背負い、騎士が闘う。これがあるべき姿です。貴方はリベアに、わたしの弟子に命を助けられたんですよね?」
ここまで来たら隠す必要はないでしょう。リベアには悪いですが、わたしの優先事項は愛弟子です。
どうも魔物の動きからして、リベアと一部の生徒を狙っているようでしたから。
「で、弟子っ!? リベア・アルシュンが!? 大賢者様の!?」
「ふふっ良い反応です。わたしの弟子を宜しくお願いしますね。ファンクラブ会員三番のドロシーさん」
「なっ!? 何故そのことを!!」
「さぁ、どうしてでしょうね。ではよろしくお願いしますね」
リベアに軽く治癒魔法をかけ、後の事は騎士団に任せます。護衛する生徒がわたしの弟子だと分かれば更に張り切って護衛してくれる事でしょう。
それにしてもドロシーさん。最後まで気付きませんでしたね。自身がいつも身につけているローブが破けている事に。
彼女の胸元には確かにファンクラブの証と三番という文字が書かれていました。
「どうせファンクラブを創設したのはリベアでしょう。その事をドロシーさんが知っているか分かりませんが、二人は案外気が合うのかもしれませんね」
そんな事を思ったりしました。
◇◇◇
「何故貴族である私が平民の……というかファンである事が本人にバレて……」
「んぅ……」
次に気付いた時、私は誰かの背におぶわれ後方に運ばれる所でした。
(あれ、これドロシーさんの背中ですか?)
耳が真っ赤になっていました。私が気を失っている間に何があったんでしょう。
なんだかドロシーさんが見たことのない顔を……しているような気がします。
「んむっ」
首を捻り、頑張って後ろを向きます。
『滅びなさい』
あの強力なキメラを一瞬で消し飛ばし、今も大賢者として他と圧倒的な強さの違いを見せつける師匠の姿がそこにはありました。
(やっぱり、私の師匠は最高に格好いいです)
その勇ましい姿を見て私は安心したのか、すぐに瞼が重くなりました。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
次話で5章終了となります。
残りの章は3章です。
6章の初めに挿絵が付きます! お楽しみに!!
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