166.似た者達
「なんだ! 今は取り込み中だぞ!!」
「も、申し訳ありません!!」
伝令の無礼にリンズが叱責し、彼は萎縮してしまいます。
「待ってくださいリンズ。事態は急を要する。そういう事ですよね?」
「は、はい。その通りです」
すかさずサリアさんがリンズを窘め、伝令の人に事情を確認しました。
わたしは伝令の彼に視線を向け、報告の続きを促します。
「伝令さん。ゆっくりでいいので報告をお願いします」
声に魔力を乗せ、落ちついた口調で彼に話しかけました。師匠が怯えている子や混乱している人を落ち着かせる時によく使う方法です。
緊張していた伝令の彼は、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから口を開きました。
「ご、ご報告致します。フィルレスム魔法学院が魔物の襲撃を受けています。外部との連絡は遮断されていませんが、敵方の魔法使いによる強力な結界に阻まれこちら側からの介入ができません。それと魔物を使役する者達による仕業だと考えられますが、魔法で身体強化された魔物が一体おり、その魔物に駐在の兵士や学院に常駐する魔法使い達がまったく歯が立っていない状況です! 今は戦える教師が他の魔物を押さえ、生徒と協力して応戦しているようですが数が多く、既に怪我人が何人も――ひっ、!」
ブワッ。
自分の全身から魔力が溢れるのを感じます。
それは今までで一番大きな魔力の放出でした。
わたしの変化に、サリアさんとリンズが驚きに息を呑みます。
「大賢者様……?」
どこの誰かは知りませんが、大賢者の庇護下にある学院に攻撃を仕掛けてくるとは……。
舐めてますね。宣戦布告もいいところです。
「許しませんよ……」
自分の口から出たとは思えないほど、底冷えのする低い声が喉から出ていました。
「お、おい大賢者様……いやティルラ・イスティル様。一旦落ち着いてその殺気を抑えてくれ。サリア姉が当てられている」
「おっとすみません。話を聞いて少し気が立ってしまったようです」
リンズに声をかけられ、自分が魔力を暴走させかけたことにようやく気付きました。
思っていたよりも魔力が溢れていたようで、サリアさんの肩が小さく震えています。
わたしは暴走しかけていた魔力を元の量までゆっくりと戻すと、サリアさんが安堵の息をつきました。
「サリアさん。怖がらせてしまいすみません。いつもより少しだけ魔力が漏れてしまいました」
「いえ、大丈夫です。お弟子様が学院に在籍されていることは陛下から聞いています。怒るのも当然ですよね」
「そうでしたか」
「いや、今ので少しかよ……」
「元より保有魔力が師匠の何倍もありますので」
私の脳裏に浮かぶのは愛する弟子。そして学院でわたしの帰りを待つ生徒達。
あの子が魔物に襲われて戦っていない筈がありません。だってわたしの、大賢者の弟子なんですよ? きっと自分の身よりもまず他者の安全を優先させるはずです。
「……リンズさん」
「分かってる。緊急事態だろ。行ってこい。招待状の犯人探しは後からでも出来る」
「はい。サリアさん。彼のことは頼みます。私の気を正面から浴びて伸びてしまったようですから」
伝令の彼はわたしの魔力をまともに受け、白目をむいて気絶していました。彼には申し訳ないことをしましたね。
「はい、お任せください。私が医務室に運んでおきます」
「うむ。ここはサリアに任せて、ティルラ様は早く弟子の所に行ってやれ。心配なんだろ?」
「ええ、とても……ではお言葉に甘えて失礼します」
わたしは身体強化を施し、テラスに移動すると、そこから全速力で王宮から駆け出しました。少しでも、少しでも早く学院に行き着くために。
(なぜわたしが学院を離れたタイミングで襲撃を……強力な警備体制や防衛システムが敷かれていた筈なのに)
考えても仕方がありません。学院が襲われていることは変わりようのない事実なのですから。
「待っていてくださいリベア。今師匠が、大賢者ティルラ・イスティルが行きますから」
更に速度を速め、学院へと急ぐのだった。
◇◆◇◆◇
テラスから飛び出していった大賢者の姿は、王宮から既に見えなくなっていた。
「あれが大賢者ティルラ・イスティルか……自分で言っていた通り保有魔力もばけもんだったし、身体強化の精度も並の魔法使い達と比べて桁違いだ。それに彼女の本気の殺気を正面から喰らった伝令はこのザマ。隣にいた私たちも危なかったな。機会があれば是非彼女の身体も研究してみたい」
「大賢者様にそんな事したら陛下に睨まれちゃいますよ。ただでさえリンズは王国の問題児なんだから控えてください!」
「はー? 誰が問題児だ! 私は天才なんだぞ!!」
「そういう所が、ですよ」
でも、まぁ。とサリアは続ける。
「あの人は私たちと似ているね」
「どこかだ?」
「天才や英傑は常に孤独です。寄り添ってくれる人がいなければきっと壊れていたでしょう。リンズ、貴方がそうであったように」
「むぅ……」
「ティルラ様にとって、お弟子様がそうなんでしょう」
「ふん。確かにそうかもしれないな」
「ええ、きっとそうですよ」
「…………これからも頼むぞ。サリア姉」
「うん。それがお姉ちゃんの役目だからね。どこまでもリンズについていくよ」
曇りのないどこまでも純粋な笑顔を浮かべるサリアを見てリンズは思う。「私はいい姉を持ったものだな」と。
「ほら、仕事に戻るぞ。きっと忙しくなる」
小っ恥ずかしくなったリンズは、それを誤魔化す様にサリアに指示を出した。
「そうですね。私たちはいなくなった職員の捜索にあたりましょうか。何か分かるかもしれません」
彼女達も後に続くようにその場を去っていく。
誰もいなくなった王宮のテラスに、一陣の風が吹く。その風は様々な人の感情を乗せて、王都を駆け抜けていった。
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次回はリベア視点から始まります。
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