165.天才リンズと凡人サリア
―――王宮内 所長室―――
王家が住まう白の宮殿を除き、王宮は大きく分けて三つの建物によって成り立っています。
兵士達が日々訓練を積む赤の兵舎と外交で他国の来賓や地方からやってきた諸侯貴族が泊まる緑の離宮。
そしてここ、主に魔法の可能性を探る研究機関。青の研究所の三つです。
「サプライズー! 送った新聞は読んだか!? 傑作だっただろう。まさか遣いを寄越したその日に来てくれるとは思わなかったがな」
「貴方が呼んだんじゃないですか……」
案内された部屋に入るなり、わっはっはと大笑いしながらリンズ氏が出迎えてくれました。
「以前陛下が『大賢者の功績が全然足りてなーい』と憂いていたのを思い出してな。どうせなら大々的に公表してやろうと思ったのだ。大賢者様だけじゃなく陛下にも恩を売れることだしな。それでな、あの理論の事だが――」
「わー。この人全然わたしの話を聞いてくれない」
一言文句を言ってやろうとここに来るまで思っていましたが、ペラペラと自慢げに語るリンズ氏に、わたしは眉間を抑える事しか出来ません。
このままずっと彼女の話を聞くことになるのかと頭を抱えそうになったところで、彼女の姉であり、所長補佐であるサリアさんが声を掛けてくれました。
「リンズ! 大賢者様が困っていますよ? だから言ったじゃないですか、相談もなしにあんな新聞まで作って……そんな事されたら誰だって困りますよ!!」
「いやいや世紀の発見だぞ? 後世まで名前が残る名誉なことだぞ?」
「いや、別にわたしはそういうのは強く望んでないです」
「ほらー。大賢者様もこう言ってる」
「なんと……」
わたしの言葉に、リンズ氏が驚きの表情を浮かべました。
だって恥ずかしいじゃないですか。わたしについて深掘りされて、魔法の分野で素晴らしい功績を残した大賢者が実は元引きこもりだったってバレたら。
「ううむ。私が間違っていたのか」
「そうだよ。あ、私は妹の補佐をしているサリア・デルフォンです。ほらリンズも挨拶!」
「ん? そういえば挨拶がまだだったな」
サリアさんに促されて、リンズ氏が一歩前に出ました。
お姉さんの方は良識があるようで一安心です。姉妹仲が良好というのも間違っていませんでしたね。
「こほん、では改めて。私の名はリンズ・デルフォン。この魔法研究所の所長をしている。よろしく頼むぞ」
「ティルラ・イスティルです。よろしくお願いします」
リンズ・デルフォン氏。ここからは年下ですし、彼女の事はリンズとお呼びしましょうか。
(デルフォン家は貴族の家系で、美形揃いというのは嘘ではないようですね。ソフィーしかり、ケイティしかり貴族には美人が多いですね)
彼女も例に漏れず、まだ幼さの残る容姿ですが、それでも既に将来はサリアさん似の美人になるだろうことが容易に想像できるほど整った顔立ちでした。
いやー姉妹揃って美人とは羨ましい。
だけどわたしとリベアの美少女師弟コンビだって負けてないですからね!!
「ふふーん」
「なんで大賢者様は勝ち誇っているのだ?」
「なんでもありません。こちらの話です。とりあえずあの新聞は撤回してもらっていいですか? こっちにも色々都合があるんですよ」
言ってみたはいいものも、やはり不服といった様子で表情を歪めるリンズ。
「功績を認められて何故嫌がることがあるのだ? あれには魔法学界が震撼するぞ!」
「リンズさん。必要以上に目立つことが苦手だっていう人も世の中にはいる事を知ってください。ある程度、周知されるくらいが丁度いいのです」
「それはつまり目立つのが恥ずかしいという事か? あんなに素晴らしいことを成し遂げたというのに」
「いやだから……」
ああ言えばこう言うとはまさにこの事ですね。まったく取り合ってもらえません。
「すみません大賢者様。うちの馬鹿所長が。新聞の事についてはこちらで私が対処しときますのでご安心ください」
サリアさん頼もしいー! きっと今までもこういった問題に対応してきたのでしょう。そんな苦労が表情に滲み出ています。
「おいサリア姉。馬鹿とはなんだ馬鹿とは。私は天才だぞ」
「分からないかなー。それが馬鹿だって言ってるんですよ」
「なんだとー!」
「なによ?」
前言撤回。この姉妹仲良くないのかもしれません。
◇◇◇
「折角来たんだ。少し話をしていかないか? 論文の中で幾つか気になる箇所があるのだが……」
「ええ、いいですよ。それくらいの事ならお付き合いしましょう」
「では私はお茶とお菓子用意してきますね。リンズ、くれぐれも粗相のないように」
「分かっている。私はもう13歳だからな!」
「だから心配なんだけどなー」
◇◇◇
「なるほど。これはこういう事だったのか……」
「はい。ですからこれとこれを……」
天才と云うだけあって着眼点も素晴らしく、わたし自身視点が異なる者との会話はよい刺激になりました。
サリアさんは「私には何を言っているのか全然分からないや」と言っていましたが、妹の話に耳を傾け、時より相槌を打ったりする姿はお姉ちゃんだなと思いました。
それにリンズもサリアさんも、話している時はとても楽しそうに笑っていました。
「そういえば、なんであんな殴り書きみたいな招待状を新聞に挟ませたんですか? もっと他にありましたよね?」
ふと思い出した事を、わたしはお茶で喉を潤してリンズに尋ねました。
話のネタとして出した疑問に対し、首を捻るリンズ。
「ん? わたしは新聞を送り可能なら連れてくるよう指示はしたが、招待状を挟めなどとは一言も命令していないぞ」
「え? それはどういう事でしょうか?」
「そういえば大賢者様をお連れするよう新聞と共に送った部下の者がまだ帰ってきてませんでしたね。リンズは何か知らない?」
「私は、あいつの事ならどこかで油を売っていると思っていたのだが……そうか、招待状か。それにはなんて書いあった?」
「今すぐ来い、ですけど。ちょっと待ってください。その言い方だとわたしに招待状を送ったのは貴方達ではないという事ですか?」
「よく考えろ。いくら私でも初めて会う目上の人間に、『今すぐ来い』だなんて言わないぞ? ましてや公式の文書にそんな言葉遣いをしたらまずサリア姉が許さん」
「はい。仮にリンズがふざけてやったとしても、私がそれを見落とす事なんてありません」
「おい!」
「たし……かに」
という事は、わたしを王宮に呼び出したあの招待状を書いたのは第三者ということに……。
「……嫌な予感がします。少し席をはず」
「――大賢者様、デルフォン御姉妹。会談中の所、失礼致します!!」
わたしが席を立ったタイミングで、息を切らした伝令が部屋に駆け込んできたのだった。
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