164.偉い人に会いに行きます
失われた神級魔法の復活。心当たりがないわけではありません。
(あの論文がよりにもよって、王国魔法研究所の所長の目に? なんてことでしょう……)
リンズ・デルフォン氏。彼女は魔法の先駆者ともいえる魔法学の第一人者です。そして魔法学だけでなく古代学にも精通しています。
(エンジョイ勢のわたしと違って、ガチガチのガチです)
齢13にして、王国魔法研究所の主任を任されたエリート中のエリート。
過去にも論文をいくつか発表しており、そのどれもが王国魔法研究所の所長になるに相応しいと言わしめるものでした。
魔法学の分野において、彼女の右に出る者はいないでしょう。
その副主任であるサリア・デルフォン氏。デルフォンというファミリーネームから分かる通り、サリアはリンズの実姉でまだ幼い所の多いリンズの補佐として精力的に活動しています。
またリンズとは10歳以上年が離れていますが、姉妹仲は良好と聞いています。
(今うちの生徒達が使っている魔法学の教材もリンズ式なんですよねー)
リンズ氏が著者の本は学院の書庫に何冊も置いてあり、学院の関係者は自由に閲覧ができるようになっています。
どの本もめちゃくちゃ難解で難しいんですが、学院に入学した子達はまず最初にそれを読まされるようで、リベアも「全然分かりませんでした!」って言っていたので大変です。
ちなみに第ニ王女で学院の主席である姫様は「こういう考え方もあるのね。参考になるわ」と仰っていたようです。あの人も大概ですよね。
(天才というのは、いつの時代も理解されないものですね)
遥か古代に失われ、今では神級魔法の一つとされている【空間転移】。
それが今回わたしが提出した論文のテーマです。
わたしの【次元収納】のように、何千年、何百年に一度くらいの間隔で使える人が出てくるようですが、国に申告すれば数多の人達に知れ渡り、悪い人から狙われる事が分かりきっているので実際の所はもう少しいそうですよね。
――【空間転移】
彼の能力は先先代の大賢者が保持していたとのことで、当時の大賢者が記した貴重な資料が残っていました。
師匠同様、特殊な暗号で書かれていたので、わたしはその解析、研究をぼちぼち進めていました。
(安易に見つかることはないと思いますが、屋敷の隠し倉庫にはまだ【次元収納】に入れられなかった、その時間がなかった品が眠っていますからね)
いつかは正式にあの屋敷を買い取って取り戻します。師匠との思い出の家ですし、いつ誰が来てもいいようにと引きこもり中に隠した貴重な物もそのままです。
(お金で解決できればシンプルだったんですけどね)
その為には大賢者としての功績が足りません。曲がりなりにも魔法統率協会は国の治安や発展に貢献しています。彼らにも彼らの領分があるのです。
(だからわたしは頑張りました。そう、珍しく論文などというめんどくさい物も書いたのです)
大賢者の資料をまとめ、自分なりの解釈を加えた上で魔法学会とやらに――こうすれば空間転移の魔法使えるようになるんじゃね? という論文を提出した所それがリンズ・デルフォン氏の目に止まった、そういう事なんでしょう。
「普通こういうのは、公表前に筆者であるわたしに確認がいく筈なんですがね?」
それが分かっていれば、こんな所で昼寝なんてしていませんでした。多くの生徒達に見られる事もなかったでしょう。なんという事後報告でしょうか。リンズ氏め、報告・連絡・相談がなっていませんよ。
「おや、これは……?」
新聞の最後には一枚の招待状が挟まれていました。
そこには殴り書きで、〈今すぐ来い〉とだけ書かれていました。
「むむむ」
よくよく見ると新聞の日付は明日です。どうやら発行前の新聞だったようです。ですがわたしが何も言わなければ、このまま世に出回ってしまう事でしょう。
「リンズ・デルフォンさんって、私たちより年下なのに凄いわよね」
「ええ、そうね。尊敬に値する人物ですわ」
「そんな方から招待状が届くなんて、ティルラ様凄いです!」
リンズ氏やわたしに称賛の声が上がりますが、わたしの気持ちは釈然としません。
「そもそもこの新聞はどこで貰ったんですか?」
「あ、それは――」
「大賢者様! 研究所からお迎えが来ています!!」
「そういう事ですか」
少し遅れて職員の方がやってきました。
職員さんから話を聞くとリンズ・デルフォン氏に招待されたのは本当のようです。
学院の外で馬車を待機させているので、可能ならすぐに向かって欲しいとの事でした。
「はあ……わかりましたよ。行けばいいんでしょう?」
わたしは渋々と立ち上がりました。
「ティルラ様。お土産話よろしくお願いします!!」
「頑張ってください! ティルラ様!!」
「あーはい。分かりました。とりあえず行ってきますね」
という事でわたしの午後は、急遽魔法研究所がある王宮に向かう事になりましたとさ。
「失礼します」
「――! 大賢者ティルラ・イスティル様ですね? この度は急な誘いに応じて頂きありがとうございます」
「いえいえそちらも大変ですね。王宮まで宜しくお願いします」
乗り込む際、馬車の中にいた職員の方には少々驚かれましたが、わたしは気にせず馬車に乗り込みました。
「本当になんで毎回こうなるんですか……まだ基礎的な理論しか説いていないというのに」
用意してもらった馬車に揺られながら、わたしはまだ見ぬリンズ氏に苦言を呈するのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
デルフォン家は歴とした貴族の家系です。
ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します!
皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!




